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「閑話 暗がり」

それは、世の理を乱し律する者たちの密談……。

 暗がりの通路で、大小二つの影が立ち並ぶ。周囲に人影はなく、二人はなにも(はばか)る様子なく語り合っていた。


「その姿でとはいえ、随分と手酷くやられたものねぇ」


「いや、お恥ずかしい限り! しかしあの青年、実に素晴らしい! 流石は貴方が目を掛けているだけのことはある!」


 大きい影は、そう言いながらも恥じ入る素振りは見せない。むしろどこか誇らしげであった。


「で、負けちゃったけどこれからどうするのぉ? 堂々と彼女を娶って『天の鎖』を手に入れるんじゃなかったのかしらぁ」


「そのつもりでしたが、正面からやりあって屈したなら仕方ありません。諦めます!」


 大きな影はそう言うと、下卑た笑いを浮かべた。


「人間としては、ですが!」


「あらあら。真面目な君がそこまで言うんだから、よっぽど欲しかったのねぇ」


「勿論です! 貴方に賜った禁忌の縛鎖も失った。ならば是が非でも新たなものを手に入れなければ! たとえどんな邪魔が入ろうとも!」


「まぁ、次はせいぜい頑張りなさぁい。あの子ったら、勝手に精霊との契約まで結んでどんどん強くなってるから」


 小さな影はそれが気に食わぬといった口ぶりだった。大きな影はその不機嫌さを感じ、少し背筋を強張らせた。コレは怒らせてはならぬ存在だと且つて身を以て知っているからだ。


「君は一度城に戻るのかしらぁ? だったら送ってあげるけれど」


「ご心配には及びません! 獲物も回収せねばなりませんので、自分で飛んで帰りますゆえ!」


「あら、じゃあすぐここで(さら)っていくのねぇ。いいわぁ、そうでなくっちゃ! いよいよあの子も勇者として名実ともに成りあがる機会となるわぁ!」


「ご機嫌なところ口を挟みますが、彼が追って来れば、殺してしまうやもしれませんぞ?」


「当たり前じゃなぁい! なに甘っちょろいこと考えてるの、君とあの子はそういう存在。むしろ今日の戦いが異例なのよぉ」


 小さな影は打って変わって機嫌よく、大きな影の胸元を優しく撫でる。まるで妖蛇が這うようだと、大きな影は胸中で呟く。


「北方の壁よ、その全てを以て勇者を討ちなさぁい。君はそのために産まれてきたのだからぁ」


 その言葉を賜り、大きな影は恭しく跪き頭を垂れる。


「我が母の御意思のままに――――!」


「ふふ、ふふふ、あっははははははははははははははは!」


 その笑いは、まるで異界へ続くような暗く長い通路に恐ろしく響いた――――。


邪なる起源の母は息子に告げる、討てと――。

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