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第23話 一応目覚めました。

 こんにちは、勇者です。


 目を覚ませばそこは見知らぬ部屋で、ちょっと硬めのベッドに鎧を脱いで寝かされていました。数秒ほど、あれ自分何やってたんだけ? と思い、アルダムスさんとの殴り合いが脳裏に浮かび飛び起きました。


「――――あ痛ぁぁっ!?」


 いきなり動くと、全身に激痛が奔ります。見た目の傷やらは治っているようなのですが、こう、筋肉痛のもっと酷いやつって感じです。


「あらぁ。起きたのねグレイくん」


 声を掛けられ、自分の寝ていたベッドの横ではルルエさんが腰かけていました。暇を持て余すように髪の毛先をちょいちょいと弄っています。枝毛なんてなさそうですが、やっぱり気になるんでしょうかね?


「お、はようございます?」


「うん、完全に寝ぼけてるわねぇ。自分がなんで寝てたか分かる?」


「えと。決勝で、ボコボコにされました」


「そうねぇ。でもグレイくんもあの筋肉坊やをボコボコにしてたわよぉ? まさか素手で殴り合いを始めるとか思わなかったわぁ」


 その光景を思い出したのか、ルルエさんはくすくすと楽しそうに笑います。こっちは全然楽しくないんですが?


「あの、実は最後のほうとか記憶が曖昧で……自分、どうなりました?」


「ふふん、どうなったと思う? 勝ったかなぁ、負けたかなぁ?」


 アルダムスさんと最後に殴り合った後から記憶がぶっ飛んでて、本当にわかりません。でもなんか自分、物凄い叫んでた気もしますし……。


「か、勝ってたらいいなぁ……なんて?」


「――ふふ、勝ったわよ! それはもう泥臭く暑苦しくねぇ? まさかグレイくんがあんなに勝負事で熱くなるなんて思わなかったわぁ」


「っ!! ほんとに勝っ――痛ぁぁっ!?」


 思わず身を乗り出し、痛みに身悶えます。それを見てまたルルエさんがケタケタ笑う。そんなに面白いですか?


「本当よぉ。でも随分無理したわねぇ、(くう)の精霊は喚んじゃダメって言ったじゃない」


「いえ、あの時はもう出来ることはなんでも試そうとしちゃって……」


「で、契約しちゃったのぉ? これから大変よぉ、精霊たちって割と構ってちゃんでうるさいんだから」


 空精と取引したことまでお見通しのようです。この人の目と耳はどこまで届くのでしょう……。


「まさか精霊のほうから語りかけてくるなんて思わなかったです。びっくりしましたよ」


「空精が特別なだけよぉ。あれは世界を包むもの、包括する存在。何処にでも溢れているからこそ、一度喚べば簡単に話しかけてくるの。まぁ今はそれを出来る人間も少ないから、今回のようにすんなりと契約も出来ちゃうのよねぇ」


「なんか、たまに身体を貸してくれって言われました。あれ精霊術を使える人みんなに言ってるんですかね?」


 ルルエさんはそれを聞き、ブスッとした顔でむくれます。おぉ、なんか今まで見たことのない表情で新鮮です!


「そもそも精霊術師自体がもう絶滅危惧種、中でも憑依対象に出来るものなんて更に稀なのよぉ。グレイくんはそれだけ素質があるってことぉ。……もう、私だけの玩具だったのに精霊にまで干渉されるなんて」

 いまハッキリと玩具って言いましたね。


「え、ていうかその言い方だと精霊たちにも玩具にされるってことじゃないですか!」


「当たり前じゃない、現世(うつしよ)に直接介入できないアレらにとっては、グレイくんは大事な大事なお人形。振りまわされてもお姉さんは知らないからね」


 あ、本当に拗ねてる。それをちょっと可愛らしいと思ってしまいますが、普段の素行がアレなだけに特に宥める気も起きません。


「振りまわされると言えば……さっきから身体がおかしいんですが。傷は治ってるのに、とても酷い筋肉痛みたいな」


「五大精霊を宿して魔力カラカラになるまで戦ってればそうなるわよぉ。自業自得と思って耐えるのねぇ」


「エ、エリクシルとか使えば――」


「あれは一日一本まで。それ以上使うととってもヤバいことになるからぁ」


 そう言って、ルルエさんはむくれ面からまた意地の悪い笑顔に変わります。


「むかぁしむかしね? とある国の王様に恩があって、たくさんのエリクシルを分けて上げたことがあるのよぉ。その時にも私は一日に一本と念押しをしてそれを渡したわぁ。でもその王様は私の言うことを聞かず、一日に何本もエリクシルを飲んでたらぁ……」


 ゴクリ、自分の唾を嚥下する音が部屋に響きます。


「過剰摂取でぽっくりと死んじゃってねぇ? でもエリクシルは霊薬と呼ばれるような代物だから、薬漬け状態の王様の死体に強力な悪霊が住み着いちゃったのぉ。国が丸ごとアンデッドと死霊の大群になるのもそう時間が掛からなかったわぁ」


「怖……って、ん? その話なんか聞き覚えがあるような」


 アンデッド……死霊の国……魔女?


「あの、もしかしてその国、アルエスタって名前じゃあ……」


「あら良く知ってるわねぇ! さすがに私も責任感じてねぇ? 生きてる人間も居なさそうだったし、とりあえず面倒だからって国丸ごと吹き飛ばしちゃった!」


 亡国の原因あんたですか! いや用量を守らなかった王様が悪いんですが、そんなことを言われたらますますエリクシルに抵抗感が出てきてしまいました。


「ということで今日一日はそのままよぉ。這ってでも良いからこの後の授賞式に出なさいねぇ、もう少しで始めるらしいから」


 そう言ってルルエさんは立ち上がり、部屋を出ていこうとします。


「あ、そう言えばクレムたちはどこですか?」


「さきに観客席で陣取ってるわよぉ、私もそこで見てるわぁ。胸を張って、優勝したぞーってアピールしなさいね?」


 出ていく間際、何故かいつもよりひと際悪い笑みを浮かべて去っていきます。何だったんでしょうか?

 そしてポツンと残された自分。ひとまず身なりを整えますか。

 脱がされていた鎧や装備を着直し、ギシギシ軋む身体を歩ける程度には準備運動させます。


 すると、控えめなノックが扉に響きます。はて、誰でしょうか?


「はい、どうぞ?」

「――――お、邪魔するぞ」


 なんと入ってきたのはあの仮面ちゃんではありませんか。意外な人物の来訪に自分は少し面喰ってしまいます。


「仮面ちゃんじゃないですか、急にどうしたんですか?」


「あ、いや。その――優勝、おめでと。あたしもあの後の試合で勝って三位になってな。その報告と……一応見舞いだ」


 どこかもじもじとする仮面ちゃん。なんかたまに見るクレムの行動と似てるような似てないような?


「それはありがとうございます、そしておめでとう! 仮面ちゃんなら絶対そうなると思ってましたよ」


「……お前、あれだけ実力を隠してたのか? あたしとやった時と決勝じゃ動きがまるで違かったじゃねーか」


「いえあれは……なんというか、ある意味で幸運と不慮の事故の重なりあいです」


何言ってんだ? と仮面ちゃんは訝しんでいますが、今となってはそうとしか説明しようがありません。


「でもおかげで、見た目の傷は癒えても中身がボロボロです。歩くのもしんどい……」


「――――おまえは」


 仮面ちゃんが彼女らしからぬ神妙な声を出します。仮面越しで表情は分かりませんが、とても真剣な面持ちのように感じます。


「おまえはそんなに、その、結婚したかったのか?」


「――――――え、なに? 結婚?」


 言ってる意味が分からず、身体が傾くくらい首を傾げてしまいます。その様子に仮面ちゃんも何かおかしいと感じてくれたようで、慌てて言葉を付けたしてくれます。


「だから、あんなに優勝狙ってたってことは……あの王女様とそこまで結婚したかったのかって、そう聞いてるんだ!」


「言っている意味が全く分かりません、なんで優勝して結婚って話になるんです!?」


「優勝の報酬だよ! この大会は第一王女の婿候補の選出でもあったんだ、それくらい分かって出場してたんだろ?!」


仮面ちゃんのその言葉を聞き、しばし思考が止まります。そう言えば流されるまま大会に出ましたが……。


「…………よく考えたら、優勝したらなに貰えるとか全く聞いていませんでした」


「――――え? 本気で、言ってるのか?」


 仮面の上からでも分かる動揺。この子、素顔だと絶対隠し事できませんね?


「はい……パーティの仲間に力試しして来いと言われて出ただけで。優勝しても賞金とか、なんか称号貰えるのかなぁくらいに思ってました」


「いや、賞金もあるけど……普通内容くらい確認するだろ?」


「出場するって決まったの三日前で、しかも人伝てだったので……え、結婚、え……?」


 そして、今度は自分が激しく狼狽する番でした!


 なに結婚って聞いてないけど! 絶対ルルエさん知ってて参加させましたね!? さっき出ていく時の悪い笑顔はそういうことかぁぁっ!!


「どどどどうしましょ、え、自分が所帯持つとかまだ考え……いやそもそも王女様の婿って王族になるってこと?! 自分アルダでも隅っこのド田舎の平民ですよ大丈夫なんですか、いや絶対だめでしょ、うちの親に話したら普通に心臓止まっちゃいますって! えっ、えっ、どうすれば……優勝を辞退する……? それは嫌です! あんな死ぬ思いしてまで勝ったのにそれは嫌ぁぁっ!?」


「ま、待て落ち着け、おち…………落ち着けってんだこのアホっ!」


 腹に一発かまされ、元のダメージもあり激しく痛い! 自分は思わず蹲ります。しかし動揺はいまだ治まりません、どうしよう!?


「結婚って言ったのはあたしが悪い。あくまで婚約者選びってやつだ。あの王女さんは自分より強い奴じゃないと結婚しないって明言するような偏屈な奴だからな」


「ず、随分な言い草ですね……でも、開会式で見たときはそんな勝ち気そうには見えませんでしたが」


「…………たまたまそう見えただけだろ。それにしても、腕試しってだけか! 面白いなお前! 強いし!」


 カラカラと少年のように笑う仮面ちゃんは、ちょっとやんちゃ気味ですが清々しい雰囲気のある女性ですね。クレムとは違った可愛らしさを感じます。


「そ、そうか……婚約者だったら、自分じゃなくて他のお貴族様と結婚する可能性のほうが充分ありますよね、良かったぁ」


「――――それはないかな」


「え?」


「なんでもねぇ! ほら授賞式始まるぞ! とっとと歩け!」


 そう言って仮面ちゃんは自分の手を取りぐいぐい引っ張ります。ちょっと待っ、さっきのボディブローの余韻がまだ……!


「そうだ、あたしまだちゃんとお前に名乗ってなかったな!」


「おや、教えてくれるんですか。身バレは拙いのでは?」


「まだ言わない。けど、授賞式が終わったら教えてやるよ!」


 きっと仮面の下は素敵な笑顔を浮かべているのでしょう。弾んだ声でそう言って、自分と仮面ちゃんは連れだって授賞式の会場へと向かうのでした。


ここまで読んで頂きありがとうございました。

エリクシル、それは霊薬であり呪いの毒とも成り得る人外の遺物。

そして仮面ちゃんですが、みなさんは彼女の正体、もう殆どおわかりですよね?


これまでブクマ、☆評価して下さった方々に心からの感謝を!

初見な方、面白いと思って下さった方。もし宜しければブクマご感想等、


そして下の☆ポイント応援で評価して頂けると、ルルエさんがエリクシルを静脈注射で過剰投与してくれるかもしれません!


下記リンクの「小説家になろう 勝手にランキング」もひと押ししてぜひ一票お願い致します!

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