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第15話 一応認められました。

 こんにちは、勇者です。


 二日目の鍛錬では一日目よりスムーズに骨山を登れたものの、頂上のキングスケルトンに全力を出し切ってしまい結局下山の際には命からがら魔力はカラカラ、ついでに心もカラカラでどうにか終了しました。


 それからは日中は山登り、夜はルルエさんの精霊術レッスンが続き、自分の実力もほんの微々たるものですが上がってきたように思います。


 三日目は殆ど二日目と同じで、キングスケルトンに辛勝しながらまた魔力を空にして帰りが大変でした。


 しかし四日目五日目ともなれば山の地形やスケルトンたちの行動の把握、キングスケルトンの動きにも慣れてきて、半日ほどで下山できるようになっていました。


 そして六日目。――この日は特に鬼でした。


 ザーツ様から時間制限を設けられ、一日の内に三往復しろとのこと……。


 できるかぁ! と思いながらそれを口に出来ないのが自分なので、それはもう必死でした。


 登山の効率、山頂での魔力温存、下山での素早さ。


 これまでの五日間の経験をフルに活かし、ギリギリながらもどうにかこなすことが出来ました。


 なお、三回目の周回でちょっと油断し、キングスケルトンに(また!)腕を切り落とされ本気で死に掛けました。


 戦いなれた相手でも油断してはいけないということを身で以て学んだ次第です……。


 こうして迎えた最終日の七日目。ここまであっという間で地獄のような一週間は初めてでした。


 しかしこれを乗り切れば骨山ともおさらば!


 最近は『なに、また来たの?』って雰囲気を醸し出していたキングスケルトンともようやくお別れ出来ます!


「餓鬼、今日はもう山は登らなくていいぞ」


「えぇ!?」


 自分の覚悟と期待は良い方向? で裏切られる形になりました……。


「お前、自力と剣の素質は糞だが、その精霊術もあって中々の早さで成長してるからな。もう山に行っても学ぶものは少ないだろう」


「お、おぉ……ありがとうございます!」


 自分はこの時に感動で震えていました!


 あの剣の参天と呼ばれるザーツ様から成長したとお褒めの言葉を頂いたのです。


 舞い上がらないはずがありません!


「今日は一日、本気のクレムと模擬戦をしてろ。一発でも当てられたら合格だ」


「お、おおぉぉぉ……」


 それを聞いた自分のテンションは急降下。


 一日目でたった一撃で吹き飛ばされ昏倒した記憶が脳裏をよぎります。それを、今日一日中……。


 逆にクレムはクロちゃんから解放されるのが嬉しいのか、飛び跳ねて喜んでいました。


 最近は見つめ合うだけならどうにか平気になってきたらしく、昨日は自慢げに「クロちゃんの鼻先に触れられたんですよ! 褒めてくださいお兄様!」と言われ苦笑ながらヨシヨシしてあげました。


「あれ?そういえばルルエさんは?」


「あん? あの魔女ならなんか受け取るもんがあるっつってどっかに飛んで行っちまったよ。昔からあんなんだからな、気にしたら負けだぞ餓鬼」


「いやそれは重々承知してます……あの」


 自分は少し遠慮がちにザーツ様に声を掛けました。


「ザーツ様はお若いころ、ルルエさんと旅をされていたんですか」


「なんだ急に――――あぁ、お前と同じようなもんだと思うぞ。急にアホみたいな面で近づいてきて『あんたを最強の剣士にしてあげるわぁ』とかのたまいやがってな」


「あ、勇者ではないんですね」


「俺ぁ勇者なんぞにこれっぽちも興味なかったからな。とにかく剣で成り上がりたい。若いころはそれで無茶やって……まぁ色々やらかしてな」


 ちょっと長い話になるのでしょうか、ザーツ様は傍にあった切り株を加工した椅子に座って、煙草に火を点けました。


「周りに近づくもんもいなくなって、ひとりでフラフラしてたらいつの間にか横にいて、俺に無理難題をどんどん押しつけてきやがった。身に覚えあんだろ?」


「死ぬほどよく分かります」


「実感こもってんなぁ……まぁ俺はそういう命がけの修行ってのに嫌悪感はなかったからな。何度も死に掛け死んで、あの魔女に蘇生されながらまた死地に送られる毎日だったぜ」


 あっ、これ絶対自分が受けてる仕打ちよりやばいやつだ……。そう思った自分はザーツ様に敬愛と同情の視線を向けます。


「なんのかんのと、俺も強くなった。王国のお抱え騎士になる頃には、あの女またふらふらと消えちまってな? 再会したのは俺の子が――クラウスが産まれて少しした頃だったか」


「はぁ……ところでザーツ様はなぜルルエさんを魔女と呼ぶんです? やっぱり長生きだからですか」


「…………おめぇ本当になんも知らねぇのか、まぁいい。あの女はにはそれなりの逸話があってな」


 フウ、と吐く煙草の紫煙が渦を巻いて空に消えていきます。


 煙草、おいしいんですかね?自分は吸ったことないので分かりません。高級品ですし。


「アルエスタ。とっくの大昔に亡くなった国だが、その国に止めを刺したのがあの魔女だ。たった一発の魔法で王城を消し飛ばし、王都ごと焦土にして国を屠ったそうだ。以来やつはアルエスタの魔女と呼ばれている」


 消えた死霊の国アルエスタ。


 それは自分の母が語ってくれた昔話にもありました。お話の中ではそれを滅ぼしたのは聖なる勇者となっていましたが。


「ま、そんな昔話になるくらいの出来事の時代から生きてるってこった。やることも中身も、正真正銘の魔女だろ?」


「はぁ…………」


 その意見には半分賛成、半分反対です。確かにルルエさんは時に残酷で無慈悲な面を覗かせますが、反面とても優しく面倒見も良い――そう、良い人なのです。


 だから自分は魔女とは呼ばないと心の中で呟きました。


「――昔話が過ぎたな、おいクレム! いつまでトカゲとにらめっこしてんだ、こっちに来て糞餓鬼の相手をしろ!」


「は、はいいぃお爺様っ!!」


 とてとてと走り寄ってくるクレム。今日の彼はガチガチの完全装備。


 先日の迷宮で置いてきた鎧も剣と同じく回収されていたようで、あの時と同じ姿で自分とクレムが対峙します。


「これは言ってみりゃ卒業試験だ。合格できりゃあ晴れておめぇは餓鬼卒業となる。気張れ! あとクレム、この間みたいな小癪な真似したら目隠しなしで山に放り込むからな、本気でやれ!」


「っ!? わ、わかりました!!」


 急にやる気を見せるクレム。そりゃ彼にとってはあの山は地獄でしょうねぇ。


 ところでクレムがどうやってあの山の試練を攻略したか以前問うてみたところ「魔物の姿さえ見えなければなんとか平気だったので、目隠しをして山を登りました!」と笑顔で返されました。


目隠しして山登りとかどこの悟りを開いた修行者なんですかね……。


 ちなみにキングスケルトンには気配だけで怯えてしまい、一度も立ち合ったことはないそうです。


「正直言って、お兄様があれからどれほどお強くなったか僕たのしみだったんです! がんばってください!」


「え、えぇ……がんばります」


 ニッコリと笑う少年の姿が、今の自分には獅子かドラゴンに見えます。本気のクレムやだなぁ、怖いなぁ……。


 なんて弱音を吐いている暇はありません。自分も多少は実力を付けてきた身。


 今できる全てをクレムにぶつけて力量を測るのはとてもいい機会と言えるでしょう。


 浅く深呼吸し、精霊たちを身に受け入れるよう精神を整える。


精霊抱懐(エレメントストレージ)土精召依(ギア・ノームゥ)風精召依(ギア・シルフ)


 あれからルルエさんとのレッスンで同時召依のコツは掴みました。


 やろうとすれば三精霊まで宿すこともできますが、今の自分には負荷が大きすぎるのでまだまだ鍛錬が必要です。


 土と風の力で膂力が増し、身体が軽くなる。軽くステップを踏んで動きを確かめると、ダガーを抜いて臨戦態勢は整いました。


 クレムも剣を抜き、既に構えていました。まずは先日の焼き直しとばかりに、両者とも動かず相手の隙を伺います。


 しかし今の自分は精霊魔術も使えます。わざわざ時間を掛け精神を削らせてなどあげません。


砂嵐(サンドストーム)


 土精と風精の複合技、巻き起こるは砂と風。それをクレムにぶつけ、牽制と目くらましを仕掛けます。


 一応魔法名を唱えているようにしているのは、無詠唱でも魔法もどきを使えると悟らせないようにするため――――というのは建前で、技名叫ぶのとかカッコイイじゃない!?


 突然巻き起こった砂嵐で思わず目を瞑ったクレムを見るや、自分は弾き跳びます。


 一気にクレムに肉薄し、渾身の横薙ぎを振るいました。


「――――っ!?」


 ギン、と刃の噛み合う音が響き、クレムは目を見張っていました。まさか先手を取られるとは思わなかったのでしょう。


 一撃を入れるや、鍔競り合いに持ち込みクレムの足を封じます。


 彼にあの詰め寄りをされれば不利になるのは確実。ならばこちらから懐に入ってしまえばいいのです。


 少し険しい顔をしているところを見るに、腕力に関してはほぼ互角か。


 しかし短剣と長剣との武器の差がここで出てきて、ギリギリと少しずつ刃がこちらに迫ってきます。


 どうやらそれで押し切るつもりのようです、ならば!


隆起(バンプ)!」


 唱えると、クレムの足元の地面がぐんと盛り上がって態勢を崩す。一瞬剣に掛かる力が抜け、その隙を逃さず自分はクレムを蹴り上げました。


 鎧越しとはいえ、今の自分の脚力なら多少のダメージはあるはず。すかさず浮かせたクレムに回し蹴りを食らわします。


 蹴りは脇腹に刺さり、小さな身体を数メートル吹き飛ばしました。

 これで先日の借りは返したし、一発入れてやりましたよ!


 転がって地面に伏すものの、クレムはすぐ起き上がり剣を構えました。


 てっきり苦虫を噛み潰したような顔をしているかと思いきや、瞳をキラキラと輝かせ楽しそうに笑っているではありませんか。


「すごい、すごいですよお兄様! 一週間前とは全然違う!」


 言いながら、今度はクレムが疾駆し自分へと突っ込んできます。


 何気ない振り下ろし、しかしそれは自分にとっては確殺の剣。


 正面から受ける素振りをして、刃が当たった瞬間に刃を逸らして受け流します。


しかしそれを予想していたのか、態勢は崩れずそのままの流れで横薙ぎが襲います。


 ギリギリで避けられたものの、鎧の胸当てに掠って浅い傷が一線、綺麗に刻まれてしまいます。


それに気圧され、風を纏って大きく後退して息を整えますが、手や額には冷や汗がじっとりと滲んでいました。


 しかし、それとは別に胸の奥から湧きあがる、興奮――――!


「――お兄様」

「クレム……」


「「楽しいですね!!」」


 二人息が合いそう言うと、どちらも跳ね跳び刃を交える。


 弾き、避け、斬られ、斬り返しては距離を取り、再び相手に突撃します。


 幾重も幾度も技を繰り出し合い、戦いは拮抗し……ていたのはほんの十分ほどでした――――。




 今、自分は地面に這いつくばり虫の息です。


 ちょっとした隙が綻びを生み、あとはガタガタと攻め入られてしまい、止めとばかりに大振りの一撃を袈裟切りに食らって倒れ伏してしまいました……。


 傷は存外深く、どくどくと流れる血が地面を濡らしていきます。


「お、お兄様大丈夫ですか!? いま治癒のポーション使いますから、傷口押さえてください!」


「あ、うぅ……やっぱりクレムは、強いです、ね」


「ごめんなさい、寸止めする余裕もなくてつい振り抜いてしまって……」


「馬鹿野郎! それでいいんだ、死ぬような痛みを身体に叩きこめ! それが次に命を拾うための経験になるんだよ!」


 腕を組んでこちらを怒鳴り散らすザーツ様を見ると、何故か少し満足げでした。


 こっちは傷の熱さと痛みでそれどころではないというのに、ちょっと笑ってますよあの人……。


「あらあらぁ、出掛けてる間にもう始めちゃったのぉ? はいはい、治してあげるわねぇ」


 急に頭上から声がしたかと思えば、ざっくりと深く刻まれた傷が治癒魔法であっさりと無くなります。


 すごいなぁ、自分も精霊術で治癒とか使えるかな?


「ル、ルルエさまぁ……ありがとうございます!」


「ありがとうございますルルエさん、何処行ってたんですか?」


「……グレイくんも今わりと死に掛けてたのに、図太くなってきたわよねぇ」


「誰のせいですか、こんなんオークの時より遥かにマシでしょ……」


 嫌みのつもりで言ったんですが、なんでかとても嬉しそうです。本当に意味が分からない!


「そんな頑張る勇者様に、お土産をもってきましたぁ! はいこれ!」


 そう言って手渡されたのは、象牙でできた様な真っ白の短剣が二振り。


 あ、これってもしかして片角の……?


「うわぁ――――すごい綺麗な短剣ですね」


「あ! あの時お兄様が斬り落とした角ですか! 随分と立派な武器になりましたね!」


 白亜色とでも言いましょうか。輝くことなく、さりとて鈍くもない深い色合い。これは本当に良いお土産です!


「店長が自慢してたわよぉ? 素材の性質で筋力向上のエンチャントが掛かってるらしくて、ヒョロヒョロな勇者さんにはぴったりな逸品ですぜぇ! って言ってたわぁ」


 やかましいわ! でも言われてることは間違いじゃないのが悔しい!


「狂牛の双子剣って名前付けてたわよぉ、店長って腕は確かだけどネーミングセンスはアレよねぇ」


「可哀想だから本人の前では言わないで上げてくださいね……でも本当にすごい!」


 自分はさっそくその二本の短剣を手に持ちブンと軽く振ってみると、確かに短剣を振っている割に力強い風切りの音が響きます。


「なんだぁ、また身に余るような大層な代物だなぁ? で、おまえら。いつまでくっちゃべってる、傷が癒えたならさっさと次の模擬戦始めろぉっ!!」


 ザーツ様に活を入れられ、自分たちはその声に飛び跳ねて互いの距離を取りました。


 あぁ……あと何戦して何回死に掛ければいいんでしょうか。


 そうして昼休憩を挟みつつも、都合十試合。


 何度かいいのを当てられはしたものの、結局クレムからは一本も取ることは出来ませんでした。


 ちなみにこのうち五回は致命傷を受けて死に掛けています。


 でもそれがあまり気にならなくなってる辺り、自分もいよいよおかしくなってきてますね……。


「はぁ……やっぱりクレムは強いですね。十一歳とは思えません」


「僕は小さい頃からお爺様に鍛え上げられましたから」


 今も充分小さいんですよ? そこのところ自覚して下さい?


「それよりもお兄様ですよ! とんでもない成長ぶりです、まさかここまで接戦するなんて思っていませんでした!」


「それには自分も同感です。でも……精霊術を使って水増しした実力ですからね、素直に喜んでいいのか」


 そう言うと、クレムは不思議そうに首を傾げました。


「お兄様は自分の行使できる力を使って戦っているだけですよ? それを含めてお兄様の実力なんじゃないですか」


 無垢な瞳でそう言われると、あぁそうなのかと納得してしまうから不思議です。


「そうだ! 使える物は何でも使え! 武器でも能力でも知恵でも、お前が持っているものは全てお前の力だ!」


 急に割って入ってきたザーツ様がそう豪語します。


 参天のお一人にそう言われてしまえば、自信を持たないわけにはいけませんね。


「言っていた通り、お前は目覚ましいほどの成長を見せた、餓鬼は卒業だ! 今後より一層の鍛錬に励め!――――お前の名前なんだったか?」


「……グレイです。グレイ・オルサム」


「よし、励め! グレイ・オルサム! お前を弟子と認める。力不足と感じたらいつでも修行に来い、次は俺が直接相手をしてやる」


 それはごめん御免こうむりたいですねぇ.......殺されるか分かったもんじゃありません。


 こうして一週間の地獄は終焉を迎えました。

 いやったぁーー!!


 これでもう骨山ともお別れ、年下に切り殺され掛けることもない! お帰り自分の日常!!


「さてグレイくん、今後のことなんだけどぉ。今朝街に行ったときに面白い話を聞いてきたのよぉ」

 そのルルエさんの一言で、日常の壊れる音がします……。


「なんでも、隣国ズルーガの王都で近々武闘大会が開かれるんですってぇ。次はそれに出て、優勝してみましょうよ!」


「ハードルが高いっ!!」


 こうして、修行も終わったそばから次の難題を突き付けられてしまったのでした――――。


 さよなら、自分の日常。


最後までお読みいただきありがとうございます。

これにて修行編終了です。次回は閑話を挟んでまたドタバタが始まります!


これまでブクマ、☆評価して下さった方々に心からの感謝を!


もし宜しければご感想ブクマ等、


そして下の☆☆☆☆☆ポイント応援で評価して頂けると、グレイくんの秘密の過去が分かるかもしれません!




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