第120話 一応問い詰めました。
こんにちは、勇者です。
さてさて、里に戻り懲罰房の住人が倍に増えててキャーッ! となってから一週間。
あれからエメラダやルルエさんは転移で忙しなく王都を行ったり来たり。
たまに戻ってくるとエルヴィンと話し合ってはまた何処かへ行ってしまします。
残されたお子様勢とは里の改築を手伝ったり鍛錬したりと、隠し事をされている身としては怖さ半分焦り半分。
ただでさえ面倒ごとが膨れ上がっているのに、これ以上大きくならないかなとドキドキだったりします。
そして自分たちはパーティ全員で再び王城へ集められました。
今度はルルエさんも転移の場所を指定されたのか、広い応接室に転移。
そしてあれよあれよという間にちょっと立派な服に着せ替えられ、鎧を失っていた自分はとりあえずという事でズルーガの騎士が標準で装備している甲冑を着せられました。
そして謁見の間に会するのは玉座に座るゾルダス陛下はじめ、以前にも顔だけは見たことのある重鎮の方々。
それとアレノフ伯爵に、もう一人初めて見る人がおりました。
そう、この騒動の中心人物、ペルゲン辺境伯です。
見た目の印象は⋯⋯成金マッチョ? 背が高く、高級な衣服は膨れ上がった筋肉でパツパツ。それ仕立て直した方がいいんじゃないの?
重鎮方が広間の横に整列し、集められた自分たちは陛下の前で跪き一礼。
そこから話が始まるかと思えば、辺境伯を残し自分たちはなぜか陛下の横、宰相カンヘル様(こないだようやく名前を覚えました!)の隣りに並ぶよう指示されました。
「さてペルゲン辺境伯、遠いところをわざわざ呼びたててすまぬな」
「いえ。陛下がお呼びとあらばこのピリシアガ・ペルゲン、何処にいようとも馳せ参じます」
「そうか。それで其方、此度はどのような用向きで此処にいるか分かっておるか?」
「は。恥ずかしながら申しますが、我が領で起こった奴隷密売の件でありましょうか」
「分かっておるではないか」
これは、言うなれば茶番劇。見せ物小屋を立派にしただけのお芝居。
それがわかっているのかいないのか、辺境伯は王に召還されたというのに何処か余裕が有り気です。
こちらに確たる証拠はないと確信してるんでしょうねぇ。そっちにあるのは偽物と知らずに⋯⋯。
「――――ん?」
不意に、腰の鞘に納めている剣がカタカタと微かに震えた気がします。
普通ならこういう場に武器の持ち込みは禁じられているのですが、今回は特別に所持を許可されていました。
「⋯⋯くんくん、ん〜?」
横にいるルルエさんは、ペルゲン辺境伯を疑わしそうに見ながら控えめに鼻を鳴らしています。鼻炎かな?
「グレイくん、これちょっと面倒になるかもぉ」
「え」
なに? 今の状況が充分に面倒なのにまだ更に拗れるの?
(あ〜、俺もその女に同感。こりゃめんどくせぇわ)
不意に頭の中でサルマンドラさんが声を上げます。
(⋯⋯何、どういうことです?)
(まぁ後でわかる。面倒だから今回は俺パスな〜)
言っている意味が分からず混乱している間にも、辺境伯への質疑という名の裁判はどんどん進んでいきます。
「其方の娘、セレスティナが仲間と共に違法な隷属魔法を使い奴隷を売買していたことは知っているな」
「はい。誠に遺憾なことでございます。しかしながら、セレスティナは既に数年前に廃嫡しております。それを勝手に我が領に巣食い悪事を行っていたこと、反省とともに怒りを覚えております」
「なるほど。それはセレスティナが行った独断であり、其方は一切関わりがないと、そう言い切るのだな?」
「私にやましいことなど。国境を守るのに手一杯な非才の身なれば」
「だが、金策には中々熱心に手を出していたようだがなぁ」
「⋯⋯何を仰りたいのか分かりませんが」
ほんの少しだけ、辺境伯の表情に硬いものが見られましたがそれも一瞬。
「奴隷売買を行なっていた罪人を捕らえた際に、中々面白いものが儂の元に届けられた」
陛下が目で宰相に施すと、しっかりと用意していた不正の証拠の数々を並べた盆台が跪く辺境伯の前に並べられます。
辺境伯は、なぜそれがここにあるのかという感じに目を見開きました。
そして横にいたルルエさんが、人知れず悪い笑みを浮かべたのを自分は見逃しません。
本当に性格歪んでるなぁ⋯⋯。
「こ、これは?」
「其方の行なった罪を明らかにする証拠の数々だ。目を通しても良いぞ? 見慣れたものも多いはずだ」
渋々といった感じに、辺境伯はそれらに胡乱げに目を通していきます。
そしてそれを乱雑に放った。
「陛下。これは何かの間違い、誰かが私を陥れるために作ったものです。そもそも、このような紙の証拠で罰せられるなど些か性急すぎるのではないでしょうか」
「ふむ。ならば証人をここに呼ぶとするか」
陛下がパンッと手を鳴らすと、謁見の間の大きな扉が開かれました。
そこには三人の奴隷商人が手枷と鎖に繋がれて、槍を持つ兵士とともにゆっくりと中へ歩いてきます。
あ〜、あの手枷を見ると自分にも付いてるんだよなって再認識されてちょっと嫌な気分⋯⋯。
「ペルゲン卿、見覚えはあるか?」
「⋯⋯ございませぬ」
「なんと! 実の娘の顔も忘れたと申すか。中々薄情なものだな」
「い、いえ。セレスティナとは別れて随分と立ちますもので、あまり見分けが」
「ではその横の者はどうだ? その者とは随分と密に話をしていたと聞いているが」
施されて、辺境伯は今度こそ驚愕を表にハッキリと浮かべました。
そう、クルーカ・キンリを目にして。
「なぜ⋯⋯お前が」
「ん? どうしたペルゲン卿。顔色が悪いのぉ」
陛下、すごく楽しそう。その顔エメラダそっくりですよ。
「その男。クルーカ・キンリは此度の奴隷売買で最も暗躍した者で、そして其方の領地で産出している貴重な魔鉱石の密売にも手を貸していたと聞く」
「おい、その者を前に」
宰相が兵士に指示すると、乱暴に鎖を引かれクルーカが前に出されました。
「貴様が覚えている限りの辺境伯との罪を、ここで洗いざらい吐け。隠すことは罪を重ねると思え」
そう宰相カンヘル様が言っても、クルーカは何処か空げに上を見ているばかり。
「⋯⋯仕方ない。グレイ殿」
「はい!?」
思わぬところで自分が呼ばれ、声が上ずってしまいました。
しかしその声に誰よりも過敏に反応したのが、当のクルーカでした。
目が合った途端、それまでの大人しさが何処へ行ったのかガタガタと震え出し膝を折る。
祈るように両手を合わせ、許してくださいと連呼し始めました。
⋯⋯あの、自分まだ何もしてないよ。ただ呼ばれただけなのになんなの?
「しゃ、しゃしゃしゃべりますっ! わ、わた、しはっ! 辺境伯と、きょ、きょぼ、共謀して、ゆゆ勇者の特権を利用したたた他国へまこうせ、まこ、魔鉱石を密売してろ、ろり、おりましたっ!!」
喋った内容よりもクルーカの激しい狼狽ぶりに皆困惑しています。そして集まる自分への視線。
⋯⋯なんでこっち見るの!!
「どどど奴隷に関してもっ、辺境伯の承諾でっ、領地に保管場をゆ、ゆず、融通していただいておりました! へへ辺境伯の指示で奴隷にしぅ、した者もたた、多数お、おりましゅっ!」
「さて、こう申しておるが? 証拠があり、証人がおり、これ以上其方はどう弁明する?」
「⋯⋯⋯⋯そのような何処の馬とも知れぬならず者の言葉、陛下は信じなさるおつもりですか」
その言葉に、ゾルダス陛下はフゥと落胆の息を吐きました。
堂々とシラを切りますね〜辺境伯。でもまだお代わりはあるんですよ。
「ピリシアガ、儂の記憶ではお前はもっと口の回る男だったはずだがなぁ⋯⋯。仕方ない、これでまだ認めぬというならもう少し増やすとするか――カンヘル」
「はっ。おい、お連れしろ」
宰相の一声で次にやってきたのは、先日見た時より幾分か気力を取り戻した様子なアレノフ伯爵の御令息、セマンド・アレノフ様でした。
ちょっと短めです。本当はこの1話で辺境伯をダンガンロンパな予定でしたがリアルが多忙のため次回に繰越し。