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番外編 ハッピーハロウィン・テラー

番外編ばっかですみません。

とりあえずイベント事ということで仕事終わりにサクッと書いてみました。

 こんばんは、勇者です。


 皆さんはハロウィンというお祭りをご存知ですか?


 自分は全く知りませんでした。ちなみに仲間達も里の住民たちも誰も知らない。

 しかしそのお祭りをやろうと言い出した人がいました。


 もちろんその人こそがルルエさん。

 はい、今後の展開はもうお分かりですね?


「はぁーいっ!! 次のお酒持ってきてぇー!!」


「姐さんいくらなんでも飛ばし過ぎだろ!? 里中の酒を飲み干す気か!!」


 何故か猫の耳と猫の手袋を付けさせられたエメラダが、いつも通りの黒い魔法士のローブ姿でいつも以上に酒を飲むルルエさんを必死に抑えようとしています。


「ハロウィン⋯⋯一体どこの地方の祭りなのでしょう。仮装をするのが流儀ということですが」


 そういうエルヴィンの格好は、黒い燕尾服にルルエさんが何処かから(たぶん胸の谷間から)持ってきた入れ歯のような牙を付け、髪をオールバックにしています。

 化粧もされているようで、その顔は女性のように白く塗られています。


「エルヴィンのそれはヴァンパイアでしたっけ? お話の中でしか聞いたことないですが、そんな格好なんですね」


「いえ、ヴァンパイアは別にこんな姿では⋯⋯どちらかと言えば人間の中に紛れるためにもっと牧歌的な服装を好むと思います」


 え、じゃあそれはなんなの? というツッコミは可哀想だからしませんでした。


「「とりっくおあとりーと!」」


 二つ重なる声に振り向けば、可愛い着ぐるみ姿のお子様二人。クレムとクロちゃんが手に籠を持って仲良く走ってきたところでした。


「⋯⋯なんです、その言葉?」


「ルルーがね、これを言うとみんながお菓子をくれるんだって! くれなかったら火を吐いて灰にしちゃいなさいって言ってた!」


「ハロウィン物騒すぎる!」


「うぅ⋯⋯なんかこの格好、女の子の服を着るより恥ずかしい⋯⋯」


 二人お揃いの着ぐるみは、なんかトカゲのようなそうでないような。

 可愛く崩されすぎて元の生き物がなんなのかわかりません。


「で、二人はなんの格好をしてるんです?」


「これはねー! ドラゴン!」


「エルヴィン、どこからツッコんでいいのか分かりません!」


「大丈夫ですグレイ様⋯⋯誰もがそう思うでしょう」


 黒竜にドラゴンの仮装とか意味わからん! でも可愛いからなんでもいいか!


「仕方ないですね、ほいお菓子」


 ルルエさんに言われて昼間から焼き菓子を焼かされていたのですが、こういう趣向のためでしたか。


「やった! これはお兄様の手作りですか?」


「そうですよ。クレムもクロちゃんとお揃いのドラゴン姿、可愛いですね」


「〜〜〜っ! えへへぇ、ありがとうございます。ところでお兄様」


 お菓子を籠に入れて、クレムは自分の顔をじっと見つめます。


「お兄様はなんの仮装なんですか?」


「⋯⋯⋯⋯⋯⋯ゾンビ」


 そう、今の自分はなんかボロい服を着せられて身体中を青白く塗りたくられているのです。

 ご丁寧に口の端から流れるような血糊まで垂らされ、いっそのこと本物を呼んでやろうかと思ったくらいです。


「ゾンビ! ⋯⋯じゃあ、お兄様は僕たちのこと食べちゃうんですか?」


「? パパ、クロのこと食べちゃう?」


 つぶらな瞳が突き刺さる。一瞬でも「食べちゃう」の意味を別方向に捉えてしまった自分を殴りたい!


「⋯⋯⋯⋯たぁ〜べちゃ〜うゾォ〜〜〜っ!!」


「「きゃーーーっ!!」」


 試しに乗ってみたら、お子様二人はお気に召したのか楽しそうにキャッキャしながら走っていき、また別の大人にお菓子をせがんでいました。


 頼むから、あげなかった人を灰にしないでくださいね?


「グ〜レイくぅん、飲んでるぅ〜〜?」


「くっさ! 酒くっさ! え、ちょっとまじで飲み過ぎじゃないですかルルエさん?」


「本当だよ⋯⋯もう一樽は空けてるんだぜ、その身体のどこに消えてんだよまったく」


 自分の首に絡みついてプハァと酒臭い呼気を漏らすルルエさん。

 もう完全に目が据わってる⋯⋯あ、あのルルエさんが酒に酔ってる!?


「だ、大丈夫ですか。もうそれくらいにしときましょうよ。それはともかく猫耳のエメラダはなんというかとても趣があって良いですね試しにニャン♡ とか言ってみ――ぐぼぇっ!」


「るっせぇ! この姿の話題には今後一切触れんな! くそ⋯⋯なんで獣人なんだ、しかも猫人族⋯⋯別に珍しくねぇじゃんかっ」


「いや、自分は猫人族とか数えるほどしか見たことないし、すごい可愛いで――げぼぁっ!?」


「だ・か・ら! や・め・ろ!」


 真っ赤になる猫エメラダ⋯⋯うん、いいね!


「⋯⋯グレイ様も、存外(いろ)を楽しむ方ですね」


 え、エルヴィンになんか引いた目で見られた。ちょっとショック⋯⋯。


 とまぁそんな感じに里総出での仮装祭りは酒も入って大盛り上がり。

 特にルルエさんは狂ったように飲むわ叫ぶわ踊るわ歌うわ。


 そして止めには里の端に止めてあった馬車をケタケタ笑いながら一人でひっくり返していました。


 何してんのアンタは!?


「あ〜? むか〜し、すっっごく昔ね、ハロウィンにこんな馬鹿やった奴らがいたのぉ。ちょっと真似したくなっちゃった! あんまり楽しくなかったけど!」


「強制送還! エメラダ、鎖巻いて! クレム、クロちゃん、部屋まで連行! エルヴィンは先回りして寝室の用意! あと部屋に入れたら絶対出てこないよう頑丈な結界かけて!」


「⋯⋯よろしいですが、恐らく簡単に破られますよ?」


「分かってますが、やらないよりマシでしょ⋯⋯!」


 宴もたけなわ――とは行かず、ルルエさんを撤去した後も里の人たちはこのお祭りを気に入ったのかまだまだ夜は長いようです。


 自分はもうお酒はいいかなと、キリのいいところで抜け出して寝室に戻ることにしました。


 窓の外からは焚き火の火の灯りが薄らと入り、部屋をぼんやりと照らす。

 里のみんなの遠く聞こえる喧騒は少しうるさいけれど、楽しそうだしそれを聞いているのも一興。


 そうして寝台に横になり、ウトウトとし始めた頃――――。


「んぁっ!」


「ひゃっ!?」


 自分の部屋の扉が、壊れんばかりに勢いをつけて開け放たれました。

 そこには透けた寝巻き姿の、普段より露出の高いルルエさんがフラフラとしながら立っていました。


「――――あれぇ? トイレ行って戻ったらぁ、私の部屋にぃ、グレイくんがいるぅ♪」


「ちが、ここ、じぶん、へや⋯⋯」


 語彙力が急速に低下。だって、その、もはやルルエさんの姿は裸同然なんですよ!!


「へへへ〜! ついにぃ、酔ったおんなを夜這いするくらいの度胸がついたねぇ〜」


「ついて無いですっ!!」


 そう叫ぶ自分をガン無視して、ルルエさんが千鳥足で近寄ってきます。


「んっふふふ」


 寝台に寄りかかり、自分の被るシーツをそっと捲る。

 そして絡みつくように、ルルエさんは自分にしな垂れ掛かってきます。


「いつものぉ、流されやすいグレイくんもいいけどぉ」


 その勢いで押し倒され、添い寝するように二人で寝台に横になってしまいます。


「強引で男らしいグレイくんもぉ、好きぃ――――」


「ル、ルルエさん⋯⋯」


 こ、この状態は⋯⋯いいの? え、いいの?


 昔、自分の父親が狩りの時に言っていました。

 ここだと思った時にイケと!


 今が、ここだっ!


「ルルエさ」


「グガァ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ、すぴっ」


「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」


 ここじゃ、なかった⋯⋯みたい。

 ぐすん。


 あ〜もうなんて仕打ち⋯⋯なんて思いながら流石にこのまま同衾はまずいと、自分は寝台から抜け出そうとします。


 だけどガッチリと自分を抱きしめたルルエさんの腕の強さときたら、あのアルダムスさんもかくやというほどの拘束力⋯⋯。


 あ。あれ? これ、詰んだ? 朝までこのまま?


 ルルエさんの身体の柔らかさを直に感じ、既に自分のダガーは臨戦態勢。しかし振るう目標なし。


 ⋯⋯さぁ呟くのだ勇者グレイ。

 自分は紳士。自分は紳士。自分は紳士。自分は紳士。自分は紳士っ!


 決して! 力が馬鹿みたいに強くても酔い潰れて意識のない女性にナニかをするなんて紳士ではない! ましてや勇者ならばそれも試練と思うのです!


 ――――あぁ、それにしても。

 ルルエさん、あったかいなぁ⋯⋯。



◇◇◇◇◇◇



「おい」


「ぶべっ!?」


 顔にキツい衝撃を受け、ハッと目を覚まします。

 いつの間にか外は明るく既に朝、いや日の高さからしてもうお昼?


 そんなこたぁどうでもいい。

 問題は今の容赦ない一撃を誰が入れたかという事とこの状況!


「⋯⋯お、はようございま、す?」


「もう昼だよ。で、説明」


 目が据わってガン切れモード真っ最中のエメラダ。


 よく見ればその後ろに腰の剣をカチンカチンと抜き差しして超の付くほど不機嫌そうなクレムに、ぷくっと頬を膨らませて可愛くプンプンしてるクロちゃんまでいます。


 ついでに我が主人を遠目に見て御愁傷様ですって感じに祈りを捧げているエルヴィンも見えました。


「なんていうか⋯⋯用を足して深夜徘徊からの、抱き枕?」


「それで通じると?」


「通じて!? ていうか昨夜の自分の頑張り褒めて!? この状態で何もしなかったんですよ凄くない!?」


 自分が必死にそう嘆願すると、エメラダとクレムがしばし一考するように視線を緩めました。

 おぉ、これはなんとか助かりそうな流、れ⋯⋯?


「んっふふぅ〜♪ グレイくんは意外とぉ、激しく⋯⋯グゥ」


「おいコラ余計な夢と寝言を垂れ流さないっ、ていうか起きて!?」


 寝ぼけながら自分の胸に頬擦りをするルルエさん。

 そして寸の間、部屋に沈黙が訪れます。


 冷や汗でびっしょりになり、必死に視線を逸らしていた自分ですが意を決して彼女たちの方に顔を向けます。


 さぁ、判決は⋯⋯?


「「断罪(ギルティ)」」


「んなぁぁぁ――――――――――――っ!!」





 その日、里中に響き渡るほどの絶叫を聴いた住民たちは後にそれをこう呼びました。


地獄からの叫び(ハロウィン・テラー)』と⋯⋯。

「グレイくん、アウト〜」

「タイキックッ!?」

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