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第113話 一応炊き出ししました。

 こんにちは、勇者です。


 そんなこんなで証拠物件の検証も終わり、昨日は就寝。

 そして次の日目覚めてからのルルエさんの一言に、自分はとにかく混乱したのでした。


「屋台! やるわよぉ!」


「⋯⋯⋯⋯」


 何から突っ込めば良いかわからない。

 え? 昨日言ってた料理屋やるってマジだったんです?


 いやいや自分には勇者として魔王を倒すという大事な使命が――――って、自分は魔王が何処にいるのか全く知りません。

 ほかの勇者たちはどこで情報仕入れてるの!?


「屋台!! やるわよっ!!」


「聞こえてますよやかましい! 何処でやるんですか里でですか街ですか!?」


「私たちが昨日保護してきた奴隷ちゃんたちのところでよぉ。向こうじゃマトモな食事も出されてなかったみたいで殆どの子はガリガリなのよねぇ」


「⋯⋯⋯⋯ルルエさん、それは炊き出しっていうんですよ」


 あ〜びっくりした。ここでいきなりマジの転職話かと思いましたよ。


「やるのは良いですけど、一体何人くらいいるんです? それによって人も食材も調達しないと」


「ん〜、細かく覚えてないけどザッと二百人くらい?」


「にひゃっ!?」


 その数に驚愕していると、エルヴィンが横からそっと「正確には二百九十六名です」と耳打ちしてきます。


 ザッと三百人じゃないですか! 百もサバ読まないで!?


「え〜、そうなるとどうしよう⋯⋯里じゃとてもじゃないけどそんな量の食材は用意できませんし」


「何言ってるの、現地調達でいいじゃない」


 そう言って指さすのは、羽を生やしてパタパタと飛び回りやる気満々のクロちゃん。

 あ、そう。つまり狩りをしてその場で捌いて焼けってことね。


 確かにその方がお手軽ですわ⋯⋯ドワーフたちの時もそれでかなり節約できてましたし。


「じゃあ薪やらも現地でいいとして⋯⋯一応調味料の類だけは持っていきましょうか」


 と言っても塩くらいですけど。胡椒とか大きな街に行かないと手に入らないし、高いし。


「そして人員補充はこの人たちでーす!」


「どうもパパさん、お世話になりやす」


「グレイ様、本日はよろしくお願い致します」


 そこには昨日まで忙しなく自分たちの住居を建てていたエルフやドワーフも含めた里の人たち。

 その中には里代表のドータさんとサルグ・リン、そしてウオンドルさんも混ざっています。


 本日は合わせて二十名ほど付いてきてくれるようで、これなら竈門や火の管理の心配もないですね。


「ハイハイ、それじゃあみんなさっさと行きましょ! きっとみんなお腹空かせて待ってるわぁ」


 そう言っていつもの里の中央広場へと向かうと、その趣が少し変わっていました。

 先日の白虎騎士団との模擬戦では、確か床は色違いのレンガのモザイク模様だったはずです。


 ですが今は白い漆喰のようなもので塗り固められ、見覚えのある魔法陣が刻み込まれています。


「これって、もしかしてこないだ使ってた魔象拡張(ワイドエフェクト)の魔法陣ですか?」


「正解。結構使用頻度も高そうだったから、昨日エルヴィンとドワーフに手伝ってもらって彫刻しちゃった!」


「⋯⋯ちゃんとドータさんの許可取りました?」


「さぁちゃっちゃと行きましょう! 今日は忙しくなるわよぉ!!」


 取ってないですねこれ! ドータさんが横で苦笑いしてますもん!


 前回の規模より二倍――いえ、三倍は大きくなった魔象拡張(ワイドエフェクト)の魔法陣は、里の人口の半分は一度に移動できるんじゃないかという大きさでした。


 ちょっと空き気味にみんなでその上に乗ると、ルルエさんが転移魔法を唱えました。



◇◇◇◇◇◇



 お馴染みの浮遊間、視界の暗転を経て転移した先は、鬱蒼と茂った森の中。

 一見周囲には何もないように思えますが、見上げた枝木の隙間からは何か大きな建物が見受けられます。


 エルヴィンの先導でしばらく歩いてたどり着いたそこは、とても古びた廃城か要塞のようでした。


「ここは⋯⋯昔の戦時拠点か何かですかね?」


「恐らくそうでしょう。造りはしっかりとしていますが、中は火事の後なのか煤だらけでした。まぁ暫しの借宿としては申し分ないでしょう」


 元は巨大な扉があったであろう正門をくぐると、そこには見渡す限りに様々な人種の方たちが、無気力に座り込んだり寝転んでいました。


 人間、エルフ、人狼、兎人、翼人、更にその他諸々。

 多種に渡る彼らには、みな額に隷属魔法の証である菱形の刻印が刻まれていました。


「ハァ〜イ、みんな注目っ!!」


 ルルエさんが建物中に響く大声で叫ぶと、その場の全員が振り向きます。

 その眼に生気はあまり感じられず、ぼんやりとした様子でした。


「今朝はここに、あなた達を助け出すよう指示した私たちのリーダー。「翠の勇者」グレイ・オルサムくんがやってきましたよぉ〜!」


「――――ハイ?」


 ちょっと待、


「これからみんなの為に周辺で狩りをして、お料理をたくさん作ります! だから動ける人だけでいいので手伝ってねぇ〜!」


 待てーーーーーーっ!!

 いま! いまなんて言いました!?


「う、ゆ、ゆうしゃさま⋯⋯?」


「――――勇者さまだ」


「ゆ、ゆう、しゃ⋯⋯ざま゛ぁ」


 自分の混乱を他所に、保護されていた奴隷達がその言葉を聞いて一人また一人と立ち上がり、こちらに近寄ってきます。

 ちょ〜っと圧迫感というか、鬼気迫るものがあるんですが!?


「ありがとうございます、ありがとうござい⋯⋯うぅ、グス」


「本当に感謝致します、これも精霊のお導きなのでしょうか⋯⋯」


 老若男女、人間、亜人関係なく自分の元へやってきて、縋り付くように膝を着かれてしまいました⋯⋯こ、この状況じゃ自分が指示など出していないなんて言えないっ!


「ルルエさんっ!?」


「さぁ野郎ども〜! 狩りの時間よぉ! ガリガリな皆のお腹をはち切れる程に膨らませるよう沢山獲ってきなさぁい!!」


「「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」」」」」


 里の住民はもちろん、一緒について来たエメラダやクレム、クロちゃんも腕を振り上げ雄叫びを上げるとみんな飛び出すように森へと駆けて行きました。


「クレム! どっちが多く狩るか競争しようぜ!」


「エメラダ様は狩りの経験なんてないでしょ! 僕が圧勝です!」


「へへ〜ん! クロがいっちば〜んっ!!」


 そんな元気一杯の彼らの背中を呆気に取られながら見送ります。


 残された数名の里の人達はせっせと焚き火や竈門の準備を始めており、その空気に乗り切れていないのは自分だけのようでした⋯⋯。


「⋯⋯何なの、一体」


「グレイ様、民衆というのは英雄に憧れ縋るものです。少しはご経験もお有りでしょう」


 そりゃあね? 自分は勇者に憧れて村を飛び出してきたくらいですから⋯⋯。


「ですので、こういった旗印としての役割もグレイ様のお役目なのです。黙っていたのは⋯⋯ルルエ様の指示ですが」


「で・しょ・う・ねっ!!」


 今更感はありますが文句だけは言いたい! 首謀者は何処いった!


 いた! けど廃城の天辺に座って酒飲んでやがる!!

 後で覚えてなさいよルルエさん!?


 とまぁしばらくは憤りを感じていたものの、そこにいる奴隷達の救いを求める目を見てしまえばもう観念するしかありません。


 せいぜい勇者というピエロを演じましょう⋯⋯いや本物なんですけどね?


 やがて三十分もしないうち、狩りの第一陣が獲物を持って帰って来ました。

 肉の解体に慣れた人たちが率先してバラしていき、自分は小分けにした肉を調理班と共にひたすら焼き続けます。


 肉の焼けていく匂いのおかげか、脱獄奴隷たちの眼に少しずつ光が戻っていく。

 喧嘩にならないようきちんと列を作らせ、焼けたものを順繰りに彼らへ渡していきます。


「ハイ押さないでください! お肉はまだまだ追加が来ますから慌てないで! そこの(かめ)に水を満たしてありますから、水分も摂ってくださいよ! ハイ次の人!」


 それからは日が暮れるまで、とにかく狩ってきた肉を焼いて焼いて焼きまくりました。

 ようやく落ち着いた頃には彼らも満腹感から緊張の糸が解けたのか、みな微睡み始めています。


 見回せば、女性や子供。家族単位で奴隷にされている者も見られ、肩を寄せ合って安心しきっているようでした。


「はぁ⋯⋯はぁ⋯⋯ようやく、終わりですか。つ、疲れた」


 肉を配り終わってからも、彼らがしばらくの間ここで滞在できるよう日持ちする糧食を拵えていた自分たちはようやく一息入れることができました。


「はい、お疲れ様ぁ。勇者さまの手ずから生きる糧を受け取れたんだから、きっとみんなグレイくんには感謝しきりよねぇ?」


「あのねルルエさん! そういう事やるなら先に一言言っといてください!」


「言ったらグレイくん来たがらないでしょぉ〜?」


 当たり前でしょ! 感謝や恩は受けた者が自然と感じるものであって押し付けるものじゃないんです!

 これじゃ自分が恩着せがましく食事を与えたみたいじゃないですか。


「どぉ〜っちにしたって変わらないわよ。だったらこの先の利益になるよう働きかけるのがお利口さんってものでしょ?」


「えぇ〜? これでどう利益に繋がるっていうんです」


「グレイくんの名が売れる」


「別に売りたくないです」


「グレイくんの詩ができる」


「⋯⋯別に歌われたくないです」


「グレイくんのカッコイイ二つ名ができる」


「⋯⋯⋯⋯まぁ、皆さん満足したようなので今回はこれで良しとしましょう」


 べ、別に二つ名が欲しいとかそういうんじゃないんだからね!

 ほら! もう拳姫の騎士(ナックルガード)とか呼ばれてるらしいし!


 でも、多いに越したことはありませんよね、うん!


 ⋯⋯あれ? なんか誤魔化された気がする。


「さてと、エメラダちゃ〜ん。そろそろいいんじゃな〜い?」


「あぁ、そうだな姐さん」


 ルルエさんが声を掛けると、エメラダが頷いて少し高いところへ登って大声を張り上げました。


「この中にセマンドという名の男はいるか! いるならば前に出ろ! 私はズルーガ国第一王女エメラダ! 貴方たちを助けると共にこの悪事を働いた者を裁くため、貴殿の協力が必要なのだ!」


 夕暮れに染まり、斜陽の差し込む廃城で一つの影がゆらりと動いた。


 痩せほそった長身の男はよく見れば中々に凛々しく、肉がしっかりと付いていればさぞ女性にモテるだろうという風貌でした。


「私がセマンドでございます。王女殿下」


 少しフラつきながらも前に出て跪くと、彼は深々と頭を垂れました。


「良い。そうかしこまるな、貴殿に罪も咎もない。ただ魅入られた相手が魔性の女だっただけのこと。それは身に沁みて分かっていよう」


「⋯⋯⋯⋯はい、おっしゃる通りにございます」


「お父上がご心配なさっている。他の彼らは安全のためここに留まらせるが、貴殿には我らについて来てもらう。ご実家へ送ろう」


 エメラダがそう言うと、セマンドと呼ばれた青年は嗚咽を漏らしながら蹲ってしまいます。


「泣くのは後だ、セマンド。貴殿には果たさねばならぬ事がある。例え親不孝と罵られようとだ」


「――――はい殿下。私は自らの過ちでこの場におります。父には申しわけが立ちませんが、これも己の行動ゆえのこと。どうか私に責任を全うする機会をお与えください」


「もちろん与えよう、セマンド――――セマンド・アレノフ」


 その言葉に青年――セマンドはゆっくりと頭を上げ、大きく頷いたのでした。

なんか最近肉ばっか食ってる気がしますね。クロちゃんは完全に狩り担当と化している⋯⋯。

次からもう少し物語全体が動き出します。

次回、誘拐です。


ここまでお読みいただきありがとうございます!少しでもお楽しみ頂けたら是非ともブクマや☆☆☆☆☆評価をお願いします!

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