第110話 一応協力者を得ました。
諸事情により明日の更新はお休みさせて頂きます!
こんにちは、勇者です。
「ではひとまず、外堀を埋めていきますか」
「証拠集めはそっちに任せていいのか?」
「ルルエ様の転移があれば今日のうちにでも色々と事は進められます。動くなら早いに越したことはないでしょう。クルーカを絞り上げて証拠のある拠点や収容場所は分かっています」
「わかったわぁ。それにエメラダちゃんじゃなきゃ伯爵のお相手なんて出来ないでしょ?」
「早馬の件もどうなっているか不明ですし、相手がどう動いてくるか分かりません。里の住民には悪いですが、無駄な不安を与えぬよう我々だけで事を運ぶとしましょう」
なんかみんなで悪巧み、でも自分は蚊帳の外でちょっと寂しい⋯⋯これが放置プレイ?
⋯⋯だから、自分はマゾじゃないですってば。
「んじゃそっちはよろしく! おら行くぞグレイ」
「――――んぁ!? 行くってどこに!」
「お・ん・せ・ん♪」
◇◇◇◇◇◇
というわけで、やってまいりました温泉の街クルグス。
う〜ん、自分でもちょっとビックリです。
以前は馬車での移動だったとはいえ六日掛かった行程が、精霊術の強化された今では飛んでしまえばたったの数時間。しかもエメラダを抱えていたというのにです。
昼過ぎに出て陽が落ちる前には街に着いてしまいました。
街中は以前きた時と変わらず、道行く人の肩にぶつかりそうなほどの賑わいぶりです。
でも今回の目的は温泉ではなく、なんとその中の貴族街。
貴族街と言っても実際そこに貴族たちが居を構えているのではなく、ほとんどの建物は保養に使う別荘らしい。
それでも大きなお屋敷が立ち並ぶ光景は壮観でした。
その貴族街の最奥に、一際大きな門構えのお屋敷が一軒。
今日はそちらに用があるということで、エメラダの言うがままについてきたんですが⋯⋯。
「あの、エメラダ。貴族って訪問する時とか事前のご連絡を入れるとかじゃないんですか? いきなり行って門前払いとかされません?」
時刻は既に夕刻。観光地ということもあって、この時間に宿を取ろうとしてもきっと何処も満室。
そうしたら真っ暗な中を飛んで帰ることになります。
「あのなグレイ、あたしを誰だと思ってる?」
「分かってますよ〜王女様。でも王族だからこそ、そういう連絡は大事でしょう」
「ま、それも最もなんだがな。だけど今回はお偲びだ、あたしが此処に来ているってのは万が一にも他の誰かに知られちゃまずい。特に辺境伯とかな」
だからこその飛び込みなんだと豪語しますが⋯⋯本当に大丈夫なんでしょうか。
そう思っている間にエメラダはズンズンとお屋敷に近づき、門前に立つ門番に横柄に話しかけました。
「おう、おっさん。ちょっとアレノフ伯爵に取り次いでもらえないか?」
「あ? なんだ嬢ちゃん、ここは観光の冷やかしに来るような場所じゃねぇぞ」
ごもっとも。
せめて貴族の屋敷に来るならあのドレスに着替えればいいのに⋯⋯ってお偲びと言ってましたか。それでは目立ってしまいますね。今も充分目立ってますが!
「伯爵に鎖の拳姫が来たって伝えな。じゃないとアンタの仕事なくなるぞ?」
そう言いながら籠手を外し、王家の証であるという指輪を門番にそっと見せています。
それを見た門番は急に顔色を変え、緊張したようにお待ちくださいと言って屋敷の中へ猛ダッシュしていってしまいました。
あの、門番が門を離れちゃダメでしょ。誰かに取り次ぎなさいよ。
そして待つこと数分。先程の門番と連れ立って、背広姿の年嵩の執事らしき人がこちらに走ってきました。
「お待たせ致しました。伯爵に御目通りをとの事ですが⋯⋯失礼ですがお約束などが御座いましたでしょうか?」
まるで自分の方に不手際があるかのように遜る執事さん。
あのね、あなたは悪くないんです。全部この子の勢い任せなんです⋯⋯。
「いや。此度は少々事情があって誰にも話を通さずに参った。良ければ入れてくれるか?」
王女様モードではないけれど、いつもより幾分丁寧な口調でエメラダがそう言うと、執事さんは恭しく礼をして屋敷の中へと通してくれました。
応接室に通されしばし。
アレノフ伯爵は外出中とのことで、その間自分たちはここで少々一休み。
自分、高貴な方の居室に入るのはこれで三度目ですか。
一度目はクレムのハイエン公爵家。二度目はズルーガの王城。そして三度目がこの伯爵家。
ただの庶民なら体験し得ないことですね〜と思いながらキョロキョロ見回していると、凛とした態度のエメラダに「静かにしてろ、ガキかお前は」と嗜められました⋯⋯地味にショック。
それから一時間ほど経った頃でしょうか。部屋の外から慌ただしい足音が聞こえ、何か焦るような会話が漏れ聞こえてきます。
そしてノックと共に入室してきたチョビ髭で髪の薄い男性。
どうやら彼がアレノフ伯爵のようです。
「た、大変お待たせを致しました。エメラダ王女殿下、お久しゅうございます。王都での事件以降、お変わりありませんか?」
「あぁ、息災だ。久しいなアレノフ伯爵、急な訪問を詫びよう」
「とんでもございません、私はいつでもご歓迎致します。⋯⋯ですがその、王都では殿下がお姿を消したと一時混乱していたようですが、そちらの方は大丈夫なので?」
「⋯⋯⋯⋯陛下には、後ほどその件も含め報告と謝罪をしに行く。だがひとまずは今回の話だ。伯爵、今日は貴卿に頼みがあって来たのだ」
頭を下げながら、伯爵はチラチラと彼女を見遣る。
額には汗をかき緊張している様子で、先ほどから頻繁にハンカチで拭っています。
「なぁ伯爵。貴卿はとあるクソ野郎に喧嘩を売る気はないか?」
口調が少しいつものに戻りながら、エメラダは困惑する伯爵にそう告げました――――。
◇◇◇◇◇◇
「ふ、ふふっ! あぁいや、これは失礼致しました。あまりにも舞い上がってしまったもので」
つい先程まで気弱そうな印象だった伯爵が、今では活気に満ち溢れています。
笑いながらも、その眼はまるで狂ったかのように血走っていてかなり怖い。
その様子は今エメラダの話したことに、彼がこの上ないやる気を見せている証左と言えましょう。
要するに今回の急な訪問は、件の辺境伯へ一撃与えるための密談をするためだったのですが⋯⋯。
横で内容を聞いていた自分は、アレノフ伯爵があまりにも不憫に思えて仕方がありませんでした。
「で、乗るか? 伯爵。これには大義がある。しかし貴卿には大変な辱めを受けさせることになるのも変わりはない。それでも構わないか?」
「王女殿下⋯⋯私はあの日からこれまで、この時のために生きてきたのだと確信しております。いま私が殿下に協力せずしていつこの胸の闇を払えましょうか!」
伯爵の握る拳は力が入りすぎてブルブルと震えています。それだけの怒りが彼の中に渦巻いているのでしょう。
「では、いずれ王城に呼びつけることになる。こちらも相手の出方次第なのでどうなるかわからんが、いつでも出られるようにしておいて欲しい」
「かしこまりました。その際にはこのサルグレフト・アレノフ、すぐにでも駆けつけて参りましょう」
そうして今回の密談は終わりました。
ちなみに四日前に竜人の里から出立したはずの早馬はアレノフ伯爵の元へは来ておらず、恐らくは辺境伯の妨害にあったのだろうと結論づけられました。
「ところで⋯⋯失礼。あまりに話に夢中になったものでそちらの方にご挨拶をしておりませんでした」
「いえ、火急のお話でしたので。改めまして、自分はグレイ・オルサムと申します」
そう名乗ると、伯爵の憤怒と狂気に満ちた気配がほんのりと薄れます。
「おぉ! あなたが彼の英雄殿! 王女をお救いになったという拳姫の騎士でしたか!」
「ナ、ナックルガード⋯⋯?」
何それ⋯⋯⋯⋯いいじゃん、かっこいいじゃん。ふふん? 自分にも二つ名が増えましたよ!
獣人殺しの狂勇者とかもう呼ばせないんだからね!
「王都周辺では詩にされ、それはもう大人気ですぞ! 囚われの姫を助け出すため魔物の群れへと飛び入った、恐れを知らぬ豪胆たる勇者。
あの覇気溢るる拳姫を乙女に変えて、拳姫のみに忠誠を誓う真なる騎士と」
「な、なんだよ乙女に変えてって⋯⋯馬鹿にしてんのか」
そう言いながらも頬を染めちゃうエメラダちゃん。
まぁ普段の行いがねぇ?
ところで自分の扱い、それ勇者なの、騎士なの、どっち?
⋯⋯ふへへ、いいか? 騎士でもいいか! かっこいいし。
「なるほど、その英雄が此度の件に或るとなれば⋯⋯王女殿下の采配には頭が下がります」
「ん?」
「ゲフッ、ゴホン! ところで伯爵。今日は急いでここまで来てな。宿の当てが無いのだ。申し訳ないが今夜だけ滞在させてもらえないだろうか」
「勿論でございますとも! すぐに食事と湯殿をご用意させましょう、今夜はごゆるりとお過ごしください」
伯爵はまだ執務が残っているので一度これにてと退室され、自分たちは客間を用意してもらいました。
その日の晩餐はお貴族様の豪華な料理で喜んで舌鼓を打っていたのですが、エメラダはそういったものを食べ慣れすぎているのか、自分が旅路で作るものの方がいいと呟いていました。
――――可愛いこと言ってくれるじゃないですか。
今度作るときは腕によりをかけましょう。
それにしてもさっきの伯爵の言葉がなんか引っかかる⋯⋯まぁいいや! 次は温泉っ、温泉っ!
作者、こういう貴族のゴタゴタとか読むのは好きだけど書くのは苦手って今更気付きました。
ノリで書いてるからこういうとき困る⋯⋯。
アレノフ伯爵、実は過去の話の中で一度だけ描写があります。彼の怒りの元とは一体何なのか⋯⋯。
次回、再開と根回しです。
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