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第104話 一応執務してました。

 おはようございます、勇者です。


 昨晩はもう何度目かも分からない狂乱の宴を乗り越え、今は郷長宅の書斎を借りて物書き中です。


 もう正直ね、自分は学がないのでこういう作業は向いてないんですよ。

 一応文字の読み書きは出来るものの、王宮に提出するような書類の作成なんて平民出の自分がすることじゃないんですってば!


 というのも、先日捕らえた奴隷商人たちの証言をわかりやすく文章にまとめているのが今やっているお仕事。

 まぁ最終的にはエルヴィンやエメラダあたりに内容を見てもらい、それらしい体裁に整えてもらうのが本当のところですが。


 しかし実際に尋問したのは自分だということで、今は慣れない机に向かい羽ペンをウロウロさせながら孤軍奮闘しているわけです。


 本当はここにエメラダもいるはずだったのですが⋯⋯昨晩の飲み過ぎで今はまだベッドでお休み中。

 一応解毒の魔術は掛けたのですが、どうやら自分に施すよりも効果は薄いらしいのです。


 少しは楽になったと言っていましたが、それでも顔色は優れませんでした。


 ちなみに昨夜の大胆な行動を覚えているのかそれとなく探ってみたところ「お、覚えて、ねぇよ⋯⋯」と目を伏して気まずげなお顔。


 ばっちり覚えてるじゃないですか⋯⋯。


 それにしても――あの性格とはいえ格別の美人、それも王女様からのキスとくれば思わず自分の頬も緩むもの。

 朝から気を抜いてはだらしない顔をしていると、クレムが尖った針のように睨みつけてくるのでとても怖かったです。


 そのクレムはといえば、今はエルヴィンを伴ってクロちゃんのお勉強、という名の鍛錬に勤しんでいます。


 黒竜の山での出来事があってからというもの、口には出しませんがクロちゃんは自らの力不足で自分を傷つけてしまったんだと思い込んでいます。


 どうしても早く強くなりたいのか、朝食の時間からクレムに食いつき戦い方を教えて〜! の一点張り。


 仕方がないとクレムが了承し、その監督役兼回復役としてエルヴィンも付いていきました。


 ルルエさん? どうせまた部屋に篭ってちびちび飲んでますよ!


 そういうわけで今は一人もしょもしょと文字書きしているんですが⋯⋯全然進まん!


 いい加減休憩でも挟もうか――そう思っていたところに、扉を控えめにノックする音が響きました。


「どうぞ〜」


「グレイ様、お忙しいところを失礼致します」


 やってきたのはドータさんでした。

 最近は婚約者のサルグ・リンともうまくいっているのか、顔付きが自信に満ちていてちょっと凛々しくなったように感じます。


「実は先日お話していた風の精霊様の祭祀殿が、間も無く完成の予定なのです」


「おっ、ついにですか〜」


「それで、完成後の儀式をどのように執り行おうかとご相談に参りました」


 なるほど。まぁ、ぶっちゃけ自分は祭祀殿とかあまり興味ないんですが。


(何言っちゃってんの君ぃ〜! それは言わば僕の家だよ!? 興味持ってくれなきゃ困るよ!)


 脳内に語りかけてきたのはお久しぶりのシルフさん。


 そういえば何かと気軽に声を掛けてくるのはサルマンドラさんが多いんですよね。

 あの人⋯⋯じゃない、精霊は結構お喋り好きなんでしょうか?


(そうでした、すみませんシルフさん。それでどうします? 自分はその祭祀殿の儀式とやらで何をどうするのかってまるで知らないんですが)


(そこら辺はエルフたちに任せちゃっていい、奉納の儀式のことはきっとよく知ってるからね。一番重要なことはアレだよ! そこの人間とエルフの娘との結婚式だ!)


 ん〜、精霊って世俗に疎いようなこと言っといて結構そういうの大好きですよね。

 いや、普段関われないからこそ逆に興味を持ってるんでしょうか。


(なんなら奉納の儀式と結婚式を同時に行なってもいいから! そしてさっさと婚姻して子を孕めと伝えるんだ!)


(情緒が無さすぎる⋯⋯大体エルフって子供が出来にくいんじゃないですか?)


(そんなもの、祭祀殿で祈りを捧げて僕がちゃちゃっと加護を与えればポンと出来るさ)


 ポンって⋯⋯お手軽すぎるでしょ。


(子供はいいぞぉ、すごく可愛いんだ! 僕がまだ精霊ではなく妖精だった頃は何十人と子供を作ったからね)


 なんと⋯⋯お、お盛んなことで。

 シルフさんは子供がそんなにお好きなんですね。


 ハァと溜息を吐きながら、先程からシルフさんとの会話に夢中で放置してしまったドータさんに目を向けました。


「今シルフさんからのお言葉がありました。奉納の儀式と言うんでしょうか? それはエルフの皆さんを中心にお任せするそうです」


「おぉ、シルフ様よりお言葉が!」


「それと奉納の儀式と一緒に結婚式も行えとも仰っています」


「そっ、それは! よろしいのでしょうか⋯⋯しかし誠に光栄なお言葉です」


 ドータさんは驚きつつもほんのりと顔がにやけていました。


 そりゃ側にいても結婚をお預けされていれば焦ったくもなりますよ。


「あ〜、それと⋯⋯早くお子さんが見たいそうです」


「えぇ!?⋯⋯え〜っと、その、頑張ります」


 今度は顔を真っ赤にして若干俯いてはモゴモゴと努力宣言。

 でも、きっとそう遠くない未来にはこの里に新しい命が生まれる。そう思うと自分も少し嬉しくなります。


「それとグレイ様、もう一つお話、というかご相談が」


「あぁ、はい。なんでしょうか」


「実は昨日ドワーフと共に連れてきた罪人たちなのですが、どうにも扱いに困っていまして」


「はぁ⋯⋯というと?」


 粗雑な麻袋に詰められて殴られ蹴られ連行された彼らは、確か里で滅多に使われないという懲罰房に入れられていると聞いていますが。


「ご存知の通り、彼らの中にはペルゲン辺境伯の御令嬢が混ざっています。そのような方をあの場所に閉じ込めておいて良いのやら、と」


「いや、悪いことして捕まえたんですから気にする必要はないでしょう」


「それはそうなのですが⋯⋯何分、この里の領主様のご息女ともなれば我々も少々戸惑うものがありまして」


「⋯⋯んん? え、ここってひょっとしてペルゲン辺境伯領だったんですか?」


「ご存知ありませんでしたか」


 てっきり温泉の街クルグスがナントカ伯爵の土地だとかって話だったので、ここもそうなのかと思い込んでいました。


「ソファレス山から向こう側はアレノフ伯爵の治める土地です。そして山を境にした森からこちら側は、ペルゲン辺境伯領となっているのです。と言っても此処はかなり端のほうですが」


「そんなことエメラダは一言も言ってませんでしたよ⋯⋯」


 苦々しくそう呟くと、ドータさんはなんとも言えないという風に苦笑いをしていました。


「私は直接面識はないのですが、父がご息女のセレスティナ様と何度かお目通りしたことがあるようでして。里の者たちもそれを知ると、このまま懲罰房に入れていたらご領主のお怒りを受けるのではと不安の声が上がっているのです」


 なるほどねぇ。確かに相手が領主の娘ならどう対応したらいいか悩むのは当然でしょう。

 でも本人曰く、家からは勘当? 廃嫡? されているから身分としては平民らしいですけど。


 それに罪は罪。こちとら辺境伯どころか国の王女様がいらっしゃるんですから。

 そのやんごとなき御方はいま二日酔いで寝込んでますがね?


「安心してください。決して里の方々に不利益になるような結果にはなりませんから、そのまま懲罰房に入れておいてください。もし相手がごねるようなら自分が行って黙らせますので」


「いえ⋯⋯むしろ罪人たちは大人しすぎるくらいで、ちょっとの物音でも過剰に反応するくらい怯えているんですよ」


 ⋯⋯知らな〜い。

 そうなっちゃった原因とかぁ、自分見当もつきませ〜ん。


「――とにかく、彼らが静かにしているなら問題ないので現状維持ということで。でもそれでは里の人たちもあまり落ち着かないでしょうし、祭祀殿の儀式はその件が片付いてからということにしましょう。結婚式、伸び伸びになってしまうようで申し訳ないですが」


「とんでもありません、そのように取り計らって頂ける方がこちらとしても助かります」


 頭の中でシルフさんが(なんでだー! 早く結婚しろー! 子供作れー!)とやかましいですが、今は無視無視。


 そういうのは後顧の憂いがないからこそ、心からお祝いできるものなんですから。


 そうと決まれば、明日からはエメラダにもきちんと働いてもらわないとですね。

シルフ(結婚! 結婚! はよ結婚しろー!)

ということで、まだ結婚式はお預け。本当にごめんねドータさん⋯⋯。

次回、騎士団です。


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