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第102話 一応帰ってきました。

 こんにちは、勇者です。


 クロちゃんのお父さんの生死確認。

 蒼の勇者ツムラとの衝突。

 西の英雄、白金等級筆頭の勇者ブラックとの死闘。

 そして勇者首謀による奴隷売買の犯罪露呈。


 数え上げれば、ほんの数日足らずでよくもまぁここまで問題が巻き起こるなと自分でも感心します。

 もはや何しに来たんだか分からなくなりそうなくらいです。


 しかし此処で出来ることはもうありません。

 自分たちは元奴隷のドワーフを連れ立って竜人の里へと帰還することになりました。


「で、一体どんな方法使ってこんな大所帯で帰るんですか?」


 以前からずっと思っていた疑問をルルエさんにぶつけます。


「ふっふっふ〜。それはもちろん転移(テレポート)でひとっ飛びするのよぉ、いつもと規模は違うけど」


 自分たちの背後でずらりと整列するドワーフたち。

 彼らはてっきり山を降りて徒歩で目的地へ向かうのだと思っていたようで、一向に下山しない自分たちへ疑問に満ちた視線を投げかけています。


 そんなことは全く意に介さず、ルルエさんはドワーフたちが手を付けなかった荒地のままの地面に杖で何やら落書きを始めました。


「お絵かき? クロもしたい!」


「クロちゃん、これはお絵かきじゃなくて魔法陣よぉ」


 お絵描きと勘違いして混ざろうとするクロちゃんを優しく押し留め、ルルエさんはまた作業に戻ります。


「魔法陣⋯⋯なんかエルヴィンが木札に書いてるものと似てますね」


「当たり前よぉ、アレを教えたのは私だしぃ。それにエルヴィンの使う公式陣はこれの劣化版、こっちが本家本元なの」


 地面には丸い円を基礎に、なんだか蛇がのたくった様な文字が細かく書き込まれていきます。

 それを覗き込もうとすると「あぁまだ途中なんだから踏んじゃダメ!」と怒られてしまいました。


 時間にしておよそ二十分弱。ようやく完成したのか、手を止めたルルエさんがフゥと袖で額の汗を拭いました。

 ハンカチ使いなさい、はしたない!


「じゃあいくわよぉ? 魔象拡張(ワイドエフェクト)!」


 トン、と魔法陣を杖で突くと、地面の落書きが淡い光を放ち始めました。


「おぉ、なんか分からないけどすごい」


「結構本当にすごいんだから。エルヴィンあたりがこれを見たら丸一日はここから動かないわよぉ?」


 研究バカ⋯⋯ゲフン! 研究熱心なエルヴィンが見てそう反応するのであれば、これは本当にすごいものなんでしょう。


 ルルエさんの説明によれば、この魔法陣は使用する魔法の効果や範囲を拡げる効果があるらしい。

 ただし使用するにはこのように地面などに刻印する必要があるらしく、あまり使い勝手は良くないんだとか。


 そしてこれはルルエさんの使う蘇生魔法と同じく、今は殆ど使える人がいない魔法なんだそうな。

 でもそれを言ったら転移(テレポート)だって使える人はほぼいないのでは?


「はいは〜い、皆さんこの上に乗ってねぇ。円から外にはみ出ちゃダメよぉ? 失敗したら身体の半分千切れちゃうんだから」


 ワラワラと魔法陣の上に移動するドワーフたちに、なんか怖いことを言って注意してます⋯⋯。

 それを聞いてみんな顔色が変わり、押し合うように円の中心へ陣取ろうとギュウギュウ押し合ってかなり窮屈そうです。


 最後にクロちゃんと自分も円の中に入ると、最終確認とばかりにルルエさんが周囲を見回しウンと頷きました。


「じゃあやるわぁ、転移酔いにならないよう気をしっかり持ってなさいなぁ! 転移(テレポート)!」


 詠唱した途端、既に自分にはお馴染みの浮遊感が身体を襲います。

 視界が暗転し、そして次に目に入った光景はもうすっかり懐かしく感じるようになってしまった里の中の街並み。


 どうやら転移した場所は一番開けた里の中央広場のようでした。

 そして突如現れた自分たちに、道行く里の住人――人間やエルフたちがギョッと目を剥いて固まっていました。


 そうなるよね! なんか突然で本当にごめんね!


「ほいッ! とうちゃ〜く、みんなお疲れ様でした〜」


 事もなげなルルエさんの言葉に対し、ドワーフたちは里人同様に突然のことで理解が追いつかず誰も動けない様子。

 しきりに周囲を見回して、何か喋ろうとしてはただ口をパクパク開いては閉じるの繰り返し。


「⋯⋯あ〜ドワーフの皆さん、ここが件の竜人の里です。一先ずは皆さんのことを説明してきますので、ちょっとここで待機してて下さい」


 対応しあぐねているドワーフたちにそう言うと、ちょっと申し訳なく思いながら自分たちは彼らを置いて郷長のお宅へ向かうことにしました。


 途中すれ違う人には簡単な説明と他の人への周知も呼びかけ、ドワーフたちと諍いが起こらないよう注意喚起も忘れずにっと。


 さて、あっさりと郷長宅の前へと辿り着いてしまったわけですが⋯⋯自分は眼前の扉を開くのに少し躊躇してしまっています。


 まずドワーフたちの説明をどうするか。

 まぁこれはルルエさんのノリで強行したと言えば否応なく納得してくれる自信がありますが。


 問題は、しばらくの間離れていたクレムたち。

 特に連絡も入れず――というかその手段もなかったんですが、あの危機的状況から結構経っているので皆から怒られないか不安なの⋯⋯。


「みんなー! ただいまぁーっ!」


 ⋯⋯そんな自分の葛藤は砂山を踏み潰すかの如くあっさりと崩されました。


 クロちゃんがバーンッと勢いよく扉を開け放ち、大きな声でご挨拶。

 よくできました! でも今はもうちょっと時間欲しかったな!


 声が屋内に響きしばらくすると、奥から慌ただしい足音が複数聞こえてくる。

 そして数日ぶりに見た皆の顔は――――総じて泣きそうに歪んでいました。


「お、お兄さ⋯⋯う、ふぅえぇ〜〜ん!」


 腰元にがっしりとしがみ付き、大声で泣き出すクレム。


「グレイ! お前⋯⋯無事だったのか⋯⋯そっか。よかっ、ぐすっ⋯⋯」


 そっと自分の服の袖を掴み、気が抜けたのかへなへなと座り込んでしまい啜り泣くエメラダ。


「グレイ様――――よくぞご無事でお帰り下さいました! 本当に、本当に良かった――」


 二人とは少し離れたところで、胸に手を当て嬉しそうに拳を握るエルヴィン。


 ――――あぁ、こんなに心配させちゃってたんだ。ちょっと戸惑っていたのが馬鹿みたいです。

 反省しろ、自分。そして言うべきことがあるでしょう。


「皆ただいま。心配かけちゃってごめんなさい」


 一人一人の手を握り、自分が無事だと確かめさせる。

 そのとき彼らの手が震えていることに気付き、さらに申し訳なさが胸に募ります。


 一頻りの再会を喜んだ後、自分はやらなければいけないことを思い出します。


 一足遅れて迎えに出てきてこちらの様子を見ていたドータさんとサルグ・リンの里代表たち。

 二人へ応接間へ通してくれるようお願いすると、ドワーフたちのことをなるべく簡潔に説明しました。


「なんと、そんなことが⋯⋯それでは受け入れる区画を大至急決める必要がありますね」


「ドワーフはエルフにとって旧知の種です。困っているのならもちろんお助けしますとも」


 話は早く、二人は急いで人間、エルフのまとめ役を数名ずつ招集してキビキビと指示を出し始めます。

 正直こんな簡単に受け入れてもらえるとは思っていなくて、自分は若干戸惑いを隠せませんでした。


「人間もエルフも、共に暮らすようになって色々と意識が変わってきたのです。以前は閉鎖的な場所でしたが、今後は外との交流も密にしていこうと先日話し合っていたところなんです」


「それに何よりも、里の救い主であり精霊の寵愛を賜るグレイ様のお頼み。誰が無碍に出来ましょう? 勇者様の他種族まで慮る博愛の精神を汚すようなことは、我らにとって恥ずべきことにございます」


 持ち上げ過ぎぃぃっ!!

 それにドワーフを連れてこようって言ったのはルルエさんですからね!


 なんかもう、あまりの過大評価と自分の至らなさに恥ずかしくなってきた⋯⋯。

 穴があったら入りたい、もう自分で掘っちゃおうかな!?


 とまぁ内心で反省したり悶絶したりとしていたものの、それを忘れさせてくれるような慌ただしさが里中を包んで自分の精神はなんとか均衡を保てました。


 エルフの入植にあたり、今後の人口増加も加味してかなりの規模で土地を拡張していたのが功を奏しました。

 まだ建物の柱一本立っていない土地ではあるけれど、ドワーフたちが今後暮らしていける場所は確保することができました。


 簡易な天幕も用意され、案内されたドワーフたちは早速自分たちの寝座(ねぐら)作りを始めます。

 人間とエルフの手伝いもあってそれもあっさりと済んでしまうと、始まるのはもちろん『アレ』。


 特にエルフたちはその辺を心得ているのか、頼んでもいないのにえっさえっさとドワーフの新天地に大量の酒樽が運び込まれてきました。


 そしてあっという間に始まりました大宴会。

 人間、エルフ、ドワーフ入り混じり、すでに喧々早々の大盛り上がり。

 それにしても里のみんな、随分と積極的になったねぇ⋯⋯グレイくん嬉しいです!


 だけどここに至り、自分はある違和感を抱いていたことに気付きます。

 そういえばエルフとドワーフって、仲悪いんじゃなかったっけ?


 確か昔読んだ絵本や物語では、そんなことが書かれていたような気がしたんですが。


 その疑問をサルグ・リンにそれとなくぶつけてみると、フフフと含み笑いを浮かべながら囁かれました。


(それは大昔に、私たちとドワーフの交流をよく思わない人間が流した嘘ですよ。むしろ山と森とで生活が密接していた彼らとは、人間よりも仲が良いくらいです)


 遡ること遥か太古の時代。

 人間たちはドワーフの作る画期的な鉄の武具を求めた。


 しかしドワーフたちは簡単に武具を与えるのを良しとせず、怒った人間たちは彼らを捕まえようとした。

 それに抗うためドワーフはエルフに助けを求めて同盟を組み、人間と争った。


 しかし種族としての絶対数が多い人間側が長い戦争の末に勝利を納めて、ドワーフたちは乱獲されてしまったらしい。

 そして森を焼かれ住処を追い立てられた生き残りのエルフは、聖地である大樹が聳える本郷へと隠れ住み一時的に外界との接触を絶った。


 おかげでエルフは安全圏を確保できたが、ドワーフはそうもいかず、その多くが人間に支配されてしまう。

 それを人間たちはエルフがドワーフを見捨てたと囃し立てて、時代は移ろい現在へと至る。


 エルフ、ドワーフ不仲説とはそうして出来上がったのだという。

 実際は二種族間に大きな禍根など残らず、生き残りたちは時折接触しては交流を続けていた。


 しかし近年(と言ってもエルフ基準なので数百年単位)魔物を使役するための隷属魔法を改良した奴隷魔法を練り上げた人間は、数の減ったドワーフをさらに絞りあげてしまった。


 今の時代にドワーフが絶滅危惧種族と言われているのはそういう出来事があったかららしいです。


(でもですね。実はドワーフにもエルフにとっての聖地と呼べる場所があって、多くはそこへ隠れ住んでいるんです)


(へぇ⋯⋯あの、そんな大事な話を自分にしちゃっていいんですか?)


 こそこそと耳打ちしながらそんな話をしていると、サルグ・リンがおもむろに顔を上げてニコリと笑いました。


「だってわざわざドワーフを保護しようとするグレイ様がそれを知っても、どなたにもお話しなさらないでしょう?」


 はい、また過大評価きましたぁ!

 まぁ言わないけど、そういう情報はお願いだから自分に洩らさないでね。

 何かと火種になりそうだから⋯⋯。


「それにルルエ様ならその辺の事もきっとご存知でしょうし、いずれグレイ様のお耳に入っていましたよ」


「否定できない! むしろ連れて行かれそうな気がしてきた!」


 よし。そんな嫌な予感は酒で洗い流そう、そうしよう。


 明日にはエメラダも交えて捕らえた奴隷商人たちの扱いも決めなきゃいけないし、余計な情報は隅っこへポイっ!


 だがしかし――――、


「おらぁドワーフ! かかってこいやぁ!!」


「おっ、ワシらに酒で挑むたぁ剛毅だな姉ちゃん!」


 完全に酔っ払ってドワーフに酒で絡むエメラダを見て、明日は話出来ないかもな⋯⋯と思う自分でした。

ようやく!帰還!これにて黒竜の山編終了です。なんか凄く長くなっちゃったなぁ⋯⋯。

クレム始め仲間たちとの再会もあっさりとしたものになってしまったので、次回はその辺をじっくりと書きたいと思います。


そして作者のモチベ向上のため、是非ともブクマや☆☆☆☆☆評価をよろしくお願いします!

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