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第101話 一応供述しました。

 こんにちは、勇者です。


 土下座をしたまま一向に頭を上げようとしない三人。

 アルダムスさんに言って無理やりに面を向かせて今度こそ話を聞けば、なるほど予想通りとんでもなく面倒で面白くもない胸糞サイドストーリーでした。


 まずは彼らの素性。


 セレスティナは自分で言っていた通り、このペルゲン辺境伯領の御令嬢「だった」。

 婚約者への調教を皮切りに辺境伯家からは勘当されている。


 しかし天賦とも呼べる持ち前の調教スキルとズルーガでは禁制とされている隷属魔法の使い手で、無頼の冒険者として頭角を表す。


 旅する各地でペットと称し隷属魔法で奴隷を蒐集。こっそりと元自領へ持ち込んでは彼らをコレクションして色々とお楽しみだったのだとか。


 その蒐集能力を買われてツムラにスカウトされ、奴隷売買の謂わば仕入れ部門役となっていたらしい。


 次に痩せぎすの男、名前はクルーカ・キンリ。


 なんとビックリ、彼はエルヴィンの勇者時代の仲間「だった」。

 エルヴィンの喉の傷、そして勇者引退の要因を作ったのもコイツが絡んでいるらしいです。


 冒険者としての能力は中の下とは本人の談。しかし彼の本質はその人脈でした。

 勇者パーティ時代から様々な国に出入りし、裏で悪どい小金稼ぎをしては各諸国の貴族に取り入り、良い意味でも悪い意味でもとにかく顔が広い。


 彼はセレスティナの確保した奴隷たちを選別し顧客に勧めたり人脈を使って販路を拡げたりと、表の商売ならば中々のやり手と称賛できたでしょう。

 しかし扱うのが人間や亜人じゃあ誉めるところは皆無です。


 そして人狼の大男、グアンター・ロンド。


 こいつは根っからの犯罪奴隷。そしておぞましいほどの性的倒錯者「だった」。

 あまり詳しく聞きたくはなかったのですが、どうやら自分の趣味のこととなると雄弁になるタチらしい。


 なんでも生まれはスルネアで、小さく弱いものを壊すのが大好き。子供を攫っては悪戯ついでに()()()()いたそうで、ある日それが露見し捕まって収監。


 奴隷として誰かに買われるか、期限内に売れなければ処刑というところでセレスティナに買い取られ、以来恩人である彼女に心酔しているらしい。

 二人とも少し方向性は違うけれど、趣向が似通っていたのでとっても仲良しらしいです。


 彼はクルーカが選別した奴隷の管理と教育を行い、艶事の得意な奴隷や使い捨てても構わない安い傭兵などを育てていたようです。


 ちなみに性的倒錯者だった、と過去形にしたのはクレムに負けて以来、小柄な人間を見るだけで震えが止まらないどころか、そういうことを妄想してもアレが全く機能しないんだとか。

 いらねぇですよそんな情報!


 そしてツムラはそんな彼らの束ね役と裏の広告塔。

 蒼の勇者様が直々に黒い商談を持ちかけて来るなら、ちょっと悪質な貴族ならホイホイ話を聞いたでしょうね。


 とまぁなんだかんだで彼らの商売はバレもせずそれなりに繁盛していたらしい。

 クロちゃんのお父さんの件はブラックからの特別な依頼だったようですが、黒竜の素材という宝に目が眩み、その欲が仇となって現在に至る、と――――。


 さて、じゃあ言っていい?


 め! ん! ど! く! さ!


 街のドブ川の方がまだマシに思えるくらい汚く真っ黒じゃないですか。


 え? なんでこの人たち生きてるの? なんならもう二、三日くらいさっきの拷問続けましょうか?

 そして一番痛いのが首謀者のツムラがブラックに持ち帰られてしまったこと。


 あいつを裁けないとか、自分の人生の汚点に数えていいくらいです。

 次に見つけたら絶対に逃しません。なんならこの三人にしたことをフルコースです。


 も〜、これなんて報告すればいいんです?

 多分ただ突き出すだけじゃ済まないですよね⋯⋯お貴族様や国のゴタゴタとか、本気で勘弁なんですが。


 ――決めた。自分の名前は伏せて全部エメラダに任せましょうそうしよう。

 王族がその辺調べて捕まえたことにすればこっちにくる面倒ごとはきっと少ないはず!


 エメラダは尊い犠牲となったのだ。

 ⋯⋯絶対怒られるやつだこれ。



◇◇◇◇◇◇



 話を聞き終わり、嫌悪感で彼らに触れるさえ躊躇いながらも再度縛り上げて納屋から出る。

 フゥと溜息を吐けば、自分が思っていた以上に緊張していたのに気付きます。


 クロちゃんのお父さんを探しに来ただけなのに、どうしてこうなっちゃったかなぁ⋯⋯。


 恐らく濁った目でボーッと空を眺めていると、向こうからルルエさんが歩いてきたのが見えました。


「お疲れさまぁ、その様子じゃあ色々とお話が聞けたみたいねぇ?」


「それはもう。世間の悪意ってものは知っていたつもりでしたが、世の中っていうのは広いものです」


 あぁ、なんか無性に気持ち悪くて吐き気がしてきた⋯⋯。


「顔色、悪いわよぉ」


「二日酔いは残ってませんよ」


 思わずぶっきら棒に答えてしまうと、ルルエさんが少し怒ったように顔を覗き込んできます。


「冗談言ったんじゃないんだけど?」


 するとムスッとした顔で自分の手を取り、何処かへ歩き出します。

 なんだか抵抗する気も起きず引っ張られるままに付いていくと、山頂の中でもかなり開けた高台に出たようでした。


 それほど高い山ではないとはいえ、遮るものが一切ない美しい景色は自分の意識が切り替わるのに十分な効果がありました。


 ルルエさんは何も喋らないまま、手を引いて座るよう施してきます。

 膝を抱えるように地べたに座ると、ルルエさんも同じように腰を下ろしました。


「⋯⋯⋯⋯」


「⋯⋯⋯⋯頑張ったね」


 言葉が耳に届いた瞬間、優しく頭を引っ張られる。

 顔に柔らかいものが当たり、なんだか言い表せない甘い匂い。


 母親が子供を慰めるように、自分はルルエさんの胸に抱き寄せられていました。

 いつもならドギマギして狼狽えるのに、今日に限ってはそのまま抵抗せずに力を抜いてしまう。


 気が付けば無意識に溜息が溢れていて、瞼を閉じてゆっくりと体重を預けました。


「なんか、色々あり過ぎました」


「そうねぇ」


「ブラックとか超強いし」


「そうねぇ」


「自分、パパになっちゃうし」


「それは良かったじゃない」


「うん」


 あ、気を抜き過ぎた。思わず子供のような返事をしてしまった。


「グレイくん、いっぱい頑張ったねぇ」


「⋯⋯うん」


 なんだか今更取り繕うのも格好悪いので、もうそのまま身も心も預けてしまう。


「これからもたくさん大変かもだけど、みんなもいるからねぇ」


「⋯⋯⋯⋯うん」


「お姉さんも、ずっと一緒だから」


 ――――うん、と。

 返事をしたかった。


 でも、ルルエさんは本当にずっと一緒にいてくれるんでしょうか。


 時々、不安になることがある。

 ルルエさんは何か秘密を持っていて、それのために自分の側にいるような。


 もし。


 もし、自分にその価値がなくなったら。

 ルルエさんはいなくなっちゃうんじゃないかな。


 そう思ったら急に苦しくなってきて、思わずルルエさんをきつく抱きしめてしまった。


 それに一瞬身体を震わせ、でもルルエさんは拒みませんでした。


 じんわりとした温もりが互いの身を強く意識させる。

 あぁ、こうしてずっと、一緒にいられたら――――、


「あーーーーっ! パパがルルーと仲良ししてる!」


「っとぉ!?」


 これは教育上よろしくない!

 クロちゃんの大声に反応し、自分は弓の弦のように飛び跳ねました。


「⋯⋯あ〜ぁ、もう少しくらい良かったのに」


 そんなルルエさんの微かな呟きが、今更ながらに自分の鼓動を加速させます。

 な、何やってたの自分! あんな流されるようなことしちゃダメでしょ!


「クロもパパと仲良しぃーーーっ!」


「グッヘァッ!?」


 背中から強烈なタックルを喰らい、思わず呻く。

 ちょ、なんか日に日にクロちゃんの力が強くなってませんか!? せ、背骨が⋯⋯!


「ふふふ〜、お姉さんも仲良しぃ〜!」


 そう言ってルルエさんはクロちゃんに抱きつきます。

 何これ、なんの儀式? ちょっと、いや結構恥ずかしい。


「⋯⋯あ〜、パパさんがた。団欒中に申し訳ないんだがね」


「うぃぁッ!?」


 不意にウオンドルさんの声が聞こえ、また素っ頓狂な叫びを上げてしまいます。

 い、いつからいたの!!


「ルルエの姉御に言われて準備が整ったんだがね⋯⋯お邪魔しちまったみたいですな」


「じゃじゃじゃ邪魔じゃじゃなな無いでしゅよっ!?」


「パパさんよぉ、初々しいのはいいがも少し耐性つけちゃどうだい⋯⋯」


 なんだかほんのり呆れられてます。

 ちゃうねん、初々しいとかそういうのちゃうねん。


「準備って⋯⋯あぁ、もう出来たんですか。早いですね」


「おう。元々ワシらは奴隷だったかんの、持ちモンも碌すっぽありゃしないんですわ。精々が酒と食料。それに粗雑だが工具類くらいだわな」


 そう、今日はようやく自分たちも竜人の里へと帰ることに決まったのです。


 果たしてドワーフ三十名を無断で連れて行ってどんな反応をされるのかとても心配ですが、随分とお世話にもなった手前置いていくわけにもいきません。


「じゃあお手数なんですが、例の下手人たちを麻袋でもなんでもいいので詰めておいてもらえますか?」


「⋯⋯あぁ、わかりやした。『荷物』として扱っていいんで?」


「もちろん。壊れ物じゃありませんから、多少乱暴でも構いませんよ」


 そう伝えると、ウオンドルさんはグルグル肩を回しながら意気揚々と納屋へ向かって行きました。


「――――さて、みんなのところに帰りましょうか」


「うー! クーとメーとエウビーに早く会いたいっ!」


「そうねぇ、今度はあの子たちも混ぜて飲まなきゃねぇ?」


 まだ飲む気なんかい!

 ⋯⋯いや、ドワーフを連れていくってそういうことですよね。


 戻った後どれだけの人に解毒魔術をかけることになるのかと、今から自分は心配でなりませんでした。

なんか甘い雰囲気にしたいなって思って⋯⋯中々帰らないね?

次回、修羅場です。


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