第0話 一応これが始まりでした。
それは幼いころの彼が抱いた夢のお話、そしてこれから続く努力の始まり。
「たぁー! とやぁー!」
洗濯物干すお母さんの横で、自分はいま剣の稽古中です! 手にするのはでんせつの剣、拾ったのは裏山だよ!
「そんな木の棒振りまわして、また勇者ごっこしてるの?」
「ごっこじゃないです、勇者の練習をしてるんです! 自分がおとなになってすごい仲間をあつめたら、わるいマオウをギッタンギッタンにするんです!」
「……その喋り方、ひょっとしてお爺ちゃんの真似? 礼儀正しいのはいいけど、オレとかのほうが格好良いんじゃないかしら」
「自分は自分です! オジジのしゃべり方っておもしろいんだもん! 自分はこれでいきます! 「流行の発信源」になるんです!」
「.......何処のお貴族さまよ。それが流行るとは思わないけど、まぁ丁寧ならいいんじゃない」
お母さんはそう言うと、ぼく――じゃなかった、自分の頭をグリグリ撫でます。恥ずかしいからやめて!
……やっぱりあと十秒くらいしたらやめて!
「それで、勇者様は今日はどんな冒険をしてきたのかな?」
「険しい山みちをのぼり、巨大なオオカミとたたかったのです! 自分はみごとに追い払って、報酬に伝説の、かじつ? を手に入れました!」
「裏山のお爺ちゃんとこに行って犬を追いかけ回したのね、あんまりいじめちゃダメよ。あと森の中で木の実を拾い食いしないって約束忘れたの?」
「わ、わすれてない……でも報酬だから! 食べないとしつれいだから!」
「誰に失礼なんだか。もうやっちゃだめよ」
ハァとお母さんがため息をつきます。よかった、おこられなかった……。
「ねぇ! お母さん、あれ読んで! いつものやつ!」
「またぁ? もうこれで何度目よ。本当にあの勇者の絵本が好きね」
「だってすごいんだよ、かっこいいんだよ! こまった人や、本当は倒さなきゃいけないマモノだってたすけてあげるんだから! あー、はやく自分も勇者になれないかなぁ」
きっと大人になったら、本の中に出てきたようなキレイな魔法使いのおねえさんや、頼りになる剣士とか、たくさん仲間をあつめて冒険するんです!
村から出たらすぐに勇者になって、こまっている人やかわいそうなマモノも助けてあげなきゃ!
かっこいい剣とか、キラキラな鎧もほしいな! きっと自分はすごい勇者になるんです。ふふふ! 自分が世界を救う!
……なにか、かっこいい名乗りとか考えたほうがいいかな?
う~ん、そうだ!
「こんにちは! 勇者です!」
それを聞いたお母さんがクスッと笑って、また頭をなでてきます。ほめられたので、どうやらとっても良いみたいです!
よし! これから自分はこうやって名乗りますよ!
こんにちは、勇者です!
次回より本編です。
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