第1話:peace of mind
どうすればいい?
自分で自分に問う
誰か答えを教えてくれないか
返事はかえってくることはない
だって俺は一人なのだから
孤独のために生まれたのだから
でも
望んでもいいのなら
ひとつだけでも叶うのなら
どうか
どうか―――――
その日はとても天気のいい日だった。
空は青いし、鳥たちの声が山いっぱいに響き渡る。
緑の葉っぱも機嫌が良さそうに風に揺られている。
誰が見てもその景色に頬を緩ますだろう。
そこに一人の少年が現れるまでは。
「ただいま」
「ん、おかえり・・・」
家事をしていた少女はゆっくりと振り返った。
その目に映るのは黒い顔。蜂蜜好きなあの生物。
「きゃあぁぁっ!」彼女は包丁を振り回した。
「こ、こないでっ!」
「わ、わ!落ち着けよ、俺だって!」
聞き慣れた声に少女は動きを止める。
「え・モート・・・?」
熊の間から顔が見えた。
「あったり!これ、まきを拾っているとき捕まえたんだけどたべりゃれ」
少年にフライパンがたたき込まれた。
「はっは!だからそんなひどい顔なのか」
茶髪のおじさんが笑う。
太っているからか、オンボロ小屋がギシギシ音を立てた。
「そ、そんなに笑わなくてもいいだろ、エーガルおじさん!」
そういうと同時に俺は犯人を指差した。
「ったく!お前のせいだぞ、コルダ!」
その言葉に挑発された、コルダと呼ばれる少女。
「ごめんっていったじゃないっ!大体あんたが悪いのよ!」
「いわれてねぇよっ!俺は夕飯を持って帰っただけだし!」
そこにおばさんの仲裁が入る。
「まあまあ。食事中よ、2人とも」
プランおばさんは長くひとつにまとめた髪を揺らして言った。
しぶしぶ喧嘩を止める。
心が落ち着いたことで気付く、おじさんの眼差し。
優しくて、暖かい。
「まさか熊を素手で倒せるようになるとはな。あの頃には思いつきもしなかったなぁ」
あの頃、というのは俺が拾われた時だ。
俺の髪が茶色じゃなく、藍色なのも
俺の瞳が翡翠色じゃなく、金色なのも
俺がここの家の子供じゃないからだ。俺は山の中で一人捨てられていたらしい。
それを見つけたのがエーガルおじさんとプランおばさんだった。
二人は俺を引き取って育てた。
本当の子供のように。
「おじさんとおばさんには本当に感謝してるよ」
そういうと、また地震のような笑いがおきた。
「はっはっは!お前も大人になったなぁ、モート!」おじさんが背中をバンバンたたく。
優しく、大きい・・・
家族を支える手。
大人になったと言われてもおじさんには勝てやしない。
しばらくして、落ち着いたのかおじさんは笑いを止めた。
「モートもコルダももうすぐ16歳になる。世間じゃ立派な大人だ。この国のことも話さなきゃいけないな」
おじさんは低く、心地のいい声で話しはじめた。
この国――エフィレ国は自然豊かで平和な国だ。
だが、この国のまわりでは連日戦争がおこっており、いつここも戦場になるのかわからない。
資源豊富なためかエフィレ国を狙う国も少なくない。
特に魔族とやらが住んでいるトリステ国―――
欲望の塊のような国だ。
そいつらがこの国を狙っているらしい。
だから、おじさんはそんな時代に生まれてきた俺たちが心配なんだ。
「大丈夫だって!そんなもんきても、俺がぶっ倒してやるからなっ!」
「そん時はしったりあたしを守りなさいよ」
「それも大丈夫。狙われるどころか、泣いて土下座するだろうぜ。お前の顔みたらっっ!!」
ナイフが飛んできた。
顔すれすれに。
「どぉいうこと?」
「いや、そういうところがっっ!な、ナイフは止めろ!リアルに死体がでる!」
また喧嘩がはじまる。
まぁ一方的なのだが。
命懸けなところもあるが俺はこの生活を幸せに思っていた。
だって
俺は自分の運命なんて
まだ知らないから――
まだ―――
まだ―――――
「「えぇぇぇぇ!!」」
朝早くから騒がしい声がする。
「なんであたしがこいつと一緒に村まで行かなきゃなんないのよ!」
俺たちの家は山の中にあるため村にいくには数時間はかかる。
でも問題はそこじゃない。「だって最近不振者がうろついてるって、新聞に書いてあったのよ」
山の中なので電波は入らない。
外からの情報はたまに飛んでくる鳥の新聞屋だけだ。
だからってそれを鵜呑みにするのもどうかと思うけど・・・
鳥だし。
この新聞、よく外れるんだよな。
「だ、だからって」
新聞に載っていた攻撃はコルダにはよくきく。
さすが親子といったところだ。
「おおげさだとおもうけど。一緒にいけばいいんだね?」
俺はプランおばさんにたずねた。
「うん、うん。コルダをよろしくね、モートくん」
おばさんは嬉しそうにわらった。
「すまんな、二人とも。」腰を押さえながらおじさんが現れた。
尊敬をしているが、なんとも情けない姿だ。
「大丈夫?お父さん」
娘の声に笑顔を向ける。
「薪割りで腰を痛めるとは老いたもんだ」
「次からは俺がやるよ。・・・じゃ行ってきます」
「きます〜」
コルダの気の抜けた声とおじさんとおばさんがいつまでも手を振っていたのをよく覚えてる。
だって運命の時間は近づいていたのだから。
村には昼過ぎに着いた。
前行ったときよりもはやい到着時間だった。
前より成長したんだと嬉しく思う。
「ん、あれか」
俺は遠くに見えた建物に向かって歩いた。
本日の依頼はどうしても山の中では補えない、生活用品を買いにくることだ。
この村だとここが一番安くて、品揃えがいい。
俺たちはさっさとクエストを終わらせてしまうことにした。
「うーん、やっぱ楽しいね」
思う存分楽しんだのだろう。
来たときよりもずいぶん元気になっている。
一方の俺はくたくたなのだが。
少し休める場所はないかと探したときだった。
キラキラと光る店に目がとまった。
近づいてみるとどうやら銀の装飾品のようだった。
そういえばもうすぐおじさんたちと出会った日だな。
いわゆる誕生日なのだが俺にとっては、おじさんたちへの感謝の日だ。
出会いの日を祝いたい。
そしておじさんたちの笑顔が見たかった。
俺は決して安くない銀のリングを買った。
恥ずかしさで顔を赤くしながら。
俺が買ってきてる間は、コルダはおとなしくベンチに座っていた。
口を開かなければこいつもかわいい女の子なんだ。
ふとそう思った自分に驚いた。
「遅い!何してたのよ!」
ほら、かわいくない。
俺は彼女の前に小さい袋を突き付けた。
「ホレ、お前のぶん」
最初は怪訝そうに袋を眺めていたが、中身を確認すると目を輝かせた。
「わあ!かわいい!」
「まぁ、感謝の気持ちもこめて・・・な」
少し照れくさいが、喜んでもらえてうれしい。
「たまにはいいことするのね〜」
うれしさが殺意にかわる。
たまにはとはどういうことだ。
「お前なあ!」
言うと同時にいきなり呼吸が苦しくなった。
「・・・モート?」
コルダが俺の異変に気付いた。
呼吸が落ち着くのを待つ。
呼吸が正常値に戻っても俺の心は何かを訴えかけていた。
・・・嫌な予感がする。
そう思ったとほぼ同時に遠くでどよめきが聞こえた。何かと思い振り返る。
そこに映るのは2色の色。
木々の鮮やかな緑と
小さく光る赤色ひとつ―
日常は、
幸せは、
崩れ去っていった。




