第11話:in battuta
気が付けば、1話を書いてから一年以上経ってしまったのですね・・・お待たせしました・・・
「やっっっっと、着いた!」
森を抜け、たどり着いた町。
ちょうど、シフトと会ったアーテムの街と王都ルヴェネの中心にある町、デトネの町である。
小さな町ではあるが、位置的に〈ターミナル〉と呼ばれている町だ。
人の行き来が多いだけに、宿泊施設がきちんとしていて、俺たちは久々の宿に喜んでいた。
「あー!!温かいお風呂に、おいしい食物、柔らかいベッド・・・あぁ、素晴らしきかな、我等の旅路!!」
コルダが喜びの声をあげた。
確かに、これまでの旅は女の子には辛いものだっただろう。
男の俺も泣き言をいいそうになったほどだ。
・・・もしかしたら、言ってたかもしれないけど。
「いやー、全くだ。シフトが金持ってなかったら、また野宿だったかもしれねえけどな・・・」
情報屋であるシフトは、相当の金持ちらしく、俺たちの食費や旅費は全て出してくれている。
・・・考えれば、考える程シフトの存在が不思議に思えてならない。
どうして、俺たちにこんなにしてくれるのだろうか・・・
「ん?そういや、シフトは?」
「さあ?どっかで女遊びしてんじゃないの?」
「はは、あり得るな。情報収集とか言ってな」
シフトも大人なのだから、そういう遊びはやめたほうが良いと思うのだが・・・
株が落ちるぞ、シフト。
「あれ、そういえばマカナもいないな・・・」
マカナも、シフトと同じく部屋にはいなかった。
さっきまで、居たはずなのだが。
「いいんじゃない?どこにいてもあたしには関係ないし!」
「なんで怒ってんだよ」
「怒ってないし」
さっきまで、にこにこしていた筈なのに、今ではしかめっ面をしている。
女の子は分からない・・・
そういや、コルダの心から楽しそうな顔を永らく見なかったような気がする。
いや、二人切りでいるのも久し振りなのではないのだろうか。
「・・・俺達、結構遠くまで来たな」
「行ったことあるのは、麓の村だけだったのにね」
「アーテムに行って、リベルテに行って・・・いろんな人と出会って、様々なことを知った。本当に世界って広いな!」
「まだ、知らないこともあるのよね」
「・・・コルダよりも恐いものもあるのかな」
「kill you!」
ぱぁんという音が鳴り響く。
ひよこが沢山飛んでいるのが見えた。
コルダは
「モートなんかハゲちまえ!!」
と叫んで、部屋を出てってしまった。
(いてぇ・・・)
叩かれた頬が痛む。
殴られるのも久し振りだな思っていると、つい笑みがこぼれる。
「・・・って、殴られて笑ってるだなんて、ドMかよ・・・俺」
自分で言って、凄く恥ずかしかった。
頬の腫れも大分納まってきた頃・・・
「にしても、皆遅いなー」
コルダも未だ戻ってきていない。
何だか、いやな予感がした。
さっきから、下の階で揉めているようだし・・・
「うるさいな・・・」
様子を見てこようかと、ベッドから降りようとしたときだった。
閉じられていた扉が、いきなり開け放たれ、武装した男たちが部屋へと傾れ込んできた。
俺は咄嗟のことに驚き、動くことが出来なかった。
男たちの中の一人が俺を床へと押し倒し、額に銃口を突き付けた。
「う・・・なんだ、お前等は!?」
「兄ちゃん・・・黙って付いてきてもらおうか」
嫌とは言えない状況である。
俺は仕方なく、奴らの言う通りに動いた。
「モート!」
「コルダ!!」
連れていかれた場所は町の広場で、多くの人が集められていた。
その中に、コルダの姿があった。
「よかった・・・あんたも無事だったのね」
「あぁ」
コルダの怪我も無さそうで、安心した。
「あっ、モート!」
「マカナ!お前も大丈夫そうだな」
コルダが嫌そうな顔をするのが見えた。
マカナは気付いていないのか、嬉しそうに笑っている。
「すごい人ですね・・・こんだけ人がいる中、モートを見付けられたのは運命ですかねッ!?」
コルダから殺気を感じたような気がした。
マカナ、コルダで遊ばないでくれ・・・
「・・・でも、確かに。町の人を集めて、何するつもりなんだ・・・?」
その時、広場の演説用の台の上に人影が現れた。
俺を捕まえた男だった。
「みなさーん、聞いてくださあい!」
右手にメガホンを持ち、叫んでいる。
人々もそれに気付き、視線を集めた。
「いやぁ、皆さん集まってくれてありがとうねー」
「なんだよ、あれ・・・」
町の人が怪訝そうな表情を浮かべた。
「ああ!!説明がまだでしたね。じゃあ僕らの紹介をしようと思います」
へらへらと笑っている。
その顔が一瞬固まり、俺達を見下したような目を見せる。
「僕達は・・・・・・魔族です」
体に電撃のようなものが走った。
それが、怒りなのか悲しみなのかも分からない。
・・・・もしかしたら喜びだったのかもしれない。
魔族とわかった瞬間に額から汗が噴き出て、俺の体の中心から熱い感情が外に溢れだす。
力が溢れてくるはずなのに、臆病な俺が奴らの前に出たくないと首を振る。
二人の俺が別々の事をしようとする、不思議な気分だった。
「モート・・・」
不意に、頭にコルダの声が響き、うねっていた世界が正常に戻る。
俺は額に汗を浮かべたまま、コルダ方を振り向いた。
「コル、ダ?」
「モート、今すごく恐い顔してた。変な考え、持たないでよね?」
「・・・ごめん」
コルダの言葉は冷水のようで、熱を持った頭を冷やしてくれた。
騒ついた人々が目に映る。
肺に溜まったものを、全て吐き出した。
落ち着け・・・落ち着け・・・
「あはは、いいですねぇ。皆さんのその顔。・・・まあ、あなた方を殺すつもりはないんで、ご安心を」
それを聞いても、喜ぶものはいなかった。
皆、魔族など信じられないのだ。
「あっれー?皆信じてくれてない感じだね。・・・しょうがないか」
悲しいなぁ、と魔族は呟いた。
その瞳から感情を読み取ることは出来ない。
「僕達、魔族は君達に戦争を仕掛けようとしているんだけど・・・」
再び、広場が沸く。
人々は顔を合わせ、不安そうに話し合っている。
「え?戦争のこと知らなかったの?ダメな国だなあ・・・ま、いいや。このアルディ様が教えて差し上げよう!」
アルディ、と名乗った男はは語りはじめた。
「この国は、豊かな土地に恵まれている。僕等の王は、そこに目を付けたのです。王はこの国を欲している。だから、僕等はこの国を受け渡すように、君達の国王に話したんだけど・・・拒否されちゃってね。しょうがないから、武力でどうにかしようとしているんだ」
「そんな、不条理な・・・」
民衆から声が上がった。
「戦争に条理を求めるなよ。正義の戦いなんか、無いんだから」
広場が静まる。
静寂を破ったのは、やはりアルディだった。
「・・・ま、僕達もこの国を荒らしたい訳ではないんでね。国王が要求をのんでくれるのが一番。で、僕達が何でこの町に来たか、って話に戻るんですけど」
アルディのその言葉が合図だったのか、魔族が俺達を取り囲んだ。
「人質になってもらいます」
魔族達が近寄る。
誰かが息を呑む音が聞こえた。
このまま、言う通りにするしかないのか・・・?
俺が動こうか迷っている時に俺の斜め前の男が叫んだ。
「ふ、ふざけんな!誰がてめえらの言いなりになるか!!」
その男を戦闘に他の人々も思いを叫びはじめる。
「・・・はー、うるさいですねぇ。言うこと聞いてくれないと・・・」
左手を懐に入れ、黒い物体を取り出した。
それは遠目でも、何なのか分かった。
が、分かった時にはもう遅い。
次には、高い破裂音が響き、赤い雨が地を濡らした。
先ほどいた男は、頭から血を流し、倒れていた。
「う、うあ゛あぁああ!!!」
恐怖の声が広場にこだまする。
治まっていた熱が再び蘇る。
「あ、の・・・やろう!」
「待って、モート!!」
コルダが俺の手を掴む。
「はなせ、コルダ!」
「嫌よッ!!今、モートが奴らに喧嘩売ったら、殺されちゃう」
「んなこと、言われてもッ・・・人が殺されて、黙ってられるかよ!!」
心が抑えられる気がしなかった。
このままだと、体がマグマみたいになって溶けてしまいそうだった。
「あたしだって、許せないよ!・・・でもお願いだから・・・お願いだから、今は抑えて・・・」
俺の手の甲に涙が落ちるのを感じた。
「・・・くそ・・・」
俺は歯を食い縛って、己の心に堪えた。
コルダの手を握る。
手が、震えた。
「・・・ありがとう、モート」
コルダが優しく握り返した。
「皆さーん、聞こえてますかあ?」
混乱の中、呑気そうな声が聞こえた。
「死にたくない人は大人しく従って下さい。女の人はそちらの馬車へ、男の人はあちらのホテルへどうぞ」
人々が悔しそうな顔を浮かべ、移動する。
俺達の周りには、やはり、悔しそうに俯くマカナと、男の死体が残された。
「モート・・・」
「おい、そこの奴ら!何をしている!!」
銃を担いだ魔族が近寄ってくる。
俺は、コルダと繋いだ方とは反対の手をポケットに突っ込んだ。
そして、そこから銀色に光るものを握られたコルダの手に滑り込ませた。
「!!・・・これって・・・」
「絶対、助けるから・・・」
俺は、魔族に聞こえないように囁いて、ホテルへ走った。
「・・・モート」
コルダは去っていく後ろ姿の名を呟いた。
そっと、指を開く。
中には、銀の指輪が転がっていた。




