英雄と死刑囚のはなし
英雄と謳われる人間のほとんどは、知識や行動、凡ゆる面で公の利になる功績を遺した者達だ。
英雄になり損なったやつらもゴロゴロいた。大体は首になっちゃったけどね。
君は、英雄を本当に英雄だと思うかい?
功績を遺す為に、汚い手を使いまくってたくさんの人を殺した人間を本当に英雄だと言い切れる?
むかしむかし、お金持ちが暮らす国の地下牢に一人の英雄と死刑囚がいました。
死刑囚は盗賊でした。貧しい人達に、奪って手に入れた金品を分け与えて、貧しい人達の命をたくさん救っていました。しかし、その裏では、お金持ちの人達をたくさん殺していました。
英雄はお金持ちの小間使いでした。お金持ちの言うことは絶対だと信じて、お金持ちの嫌いな人や、それに群がる貧しい人をたくさん殺していました。
「そなたの執行日は3日後だ。それまでに祈りをささげるといい。」
英雄は死刑囚に言いました。
「なるほど、最期にまみえるのが我らが国の英雄とはな。わたしも運がいいものだ。」
死刑囚は英雄に言いました。
「ひとつ、そなたに聞きたいことがある。」
「もうじき首になる身で良ければ、なんなりと答えよう。」
「なぜ、盗みをはたらいたのだ?」
「この国で貧しさゆえに骨になる者が少なくないのは知っていよう?わたしは、その者達の英雄になろうと決めたのだ。だが、いかんせん、わたしには学がなくてな。彼らを救う術を他に知らなかったのだ。」
死刑囚は淡々と告げました。
「わたしからもひとつ、英雄どのに問おう。」
「よしてくれ、おれはそなたに勝っただけのただの小間使いさ。」
「では小間使いくん。おのが主のために貧しい人を殺す時、きみは何を思った?」
英雄は答えられませんでした。答えられないかわりに、自分の行いをふりかえると、なぜか涙が止まりませんでした。
「ああ、ああ。おれは一体何をしていたのだ?本当に主のためを想うのならば、人徳にはなれた行動をとる前に主を止めるべきだったのに!」
わあわあ泣く英雄を、死刑囚は優しい声でたしなめました。
「泣くのをやめなさい。公の利にかなったのは、わたしではなくきみなのだ。だが、ちと安心した。きみがそれを分かっているのならば、わたしは安心して地獄へゆける。」
面会が終わり、英雄は沈んだ気持ちのまま牢獄をあとにしました。そして3日後、彼らは処刑台の上で再び会うことができました。
そして、お互いに向き合ってこう言いました。
「「もはや言葉はいらぬ。さらばだ、英雄よ。地獄でまたまみえようぞ。」」
死刑囚は首を切られました。小間使いはその首をかかげて、新たな国をつくると宣言しました。
小間使いが新しく作り上げた国は、貧富の差がない、みんなが笑って暮らせるような理想郷になりました。
ふたりの英雄が最後に向き合った場所には、死刑囚の銅像が建てられましたとさ。
めでたし、めでたし。
本当の英雄は誰なのか。それを決めるのは私たち自身です。