異世界勇者
異世界へと飛ばされた人間が、特別な才能を付与されて、仲間と出会って旅をしたり、恋をしたりして、終いには神様になったりする。
…哀れだね、その人達。自分が死んでる事を受け入れなれないなんて。
『何でそう言いきれるのか』って?当たり前だろう?
第二の人生、それも、自分に都合の良すぎる世界なんて、あるわけないじゃないか。死んだら、そこで生命は終わりさ。
ましてや、何もしてない引きこもりの人間が?笑わせないでほしいね。
……あんなのは全部、死にきれない亡者の戯言だよ。
むかしむかし、ある若者が目を覚ますと、知らない世界にいました。
「ここはどこだ。」
しかも若者には、今まで自分になかった特別な力がありました。
姿を変えられたり、魔法が使えたり、剣技が達人のようにできたのです。
「おぉ、これはすごい。」
そこへやってきた、知らない世界の住人が、若者に言いました。
「あなたは一万年に一人の選ばれた存在だ。今、この世界は混沌に支配されている。おぉ、救世主よ、どうか、私の願いを叶えてください。そして、世界を救ってください。そうすればあなたは、元の世界に帰れるでしょう。」
調子に乗った若者は、誇りながら言いました。
「任せたまえ。世界など、すぐにこの手で救ってみせよう。なぜなら私には、人智を超えた力があるのだから。」
そうして、若者は、長い旅を始めました。
幾多の街を抜け、新たな仲間と出会い、別れ、そしてようやく世界の大元に辿り着きました。
若者は、そこにいる人物に言いました。
「諸悪の権化め。私はおまえを倒して世界を救うぞ。」
その人は、こうこたえました。
「空想の力に酔った死体が何を言う。いい加減、おまえは死ね。」
強いワルモノの攻撃に、仲間は何人も倒れていきました。それでも若者は倒れませんでした。
「これで終わりだ。くらえ!」
若者は、全部の力をワルモノにぶつけて、見事にやっつけました。
すると、若者の力がすうっと抜けて、顔がしわくちゃに、腕や足は枝のようになりました。
せめて残った目は、腐って地面に落ちました。
「嫌だ、まだ死にたくない。まだ死ねないのに。どうして、ど ウ 死 テ……
そこには、亡者の抜け殻がありましたとさ。
…何度聞いても中身のない話だろう?そりゃそうさ。全部紛いモノなんだから。
逆に理解できたら、それはそれで……いや、何でもないよ。