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2話 九条 重 


 世界平和管理特務課へ就職した俺は、召喚部門への配属が決まった。


 元々住んでいた家から、会社の寮へと引っ越しを済ませた。引っ越しして、三ヵ月が経った今、俺の研修生という肩書は社員へと変わった。研修を終えた今、会社の事も色々と分かってきた。


 俺は二年前、両親を失った。交通事故で一遍に二人共をだ。父さんが運転していた車には、助手席に母さんが乗っていた。二人で日光への旅行の最中に、山道に飛び出て来た猿を避けようとして、崖からの転落。即死だったと、担当した警察の人から言われた。

 俺は暫く両親を亡くしたショックで何もする気が起きなかった。両親が入っていた保険の金があったので生活の金には困っていなかった。だが、両親が残した金が無駄に減る事になっている状況に気が付いたんだ。

 残してくれた金がこれ以上減ることがない様にしようと思い、職探しをしていた。が、まさか俺がこんな会社に就職するとは、死んだ両親も思っていなかっただろう。


 世界平和管理特務課とは、一般の人、つまり普通に生活している人ではまず入社は出来ない。

 異世界に関わった事のある人が絶対の条件で、しかもその中でも、元の世界へ帰還した人である事が付け加えられる。そして何よりも重要な条件は、特別な力を持っている人である事だ。

 普通に生きていて、異世界と関わる人はいないと思うだろう? でもあるらしいんだ……勇者召喚が。ここ、日本では特に多いらしい。集団召喚ってのもある様で、学校の一クラスまるまる召喚されたって話も先輩たちから聞いた。

 異世界へ召喚される時は、魔法陣を使って召喚が行われることが一般的らしい。特務課の話ではってつくけど。その魔法陣が、女神が使用の許可を認めているかどうかが問題と言われた。女神が認めていない魔法陣の場合、特務課の召喚部門の人達の出番となる。


 勇者召喚の魔法陣には、世界言語理解と、帰還が入っている事が条件だ。魔法陣の細かな決まりごとは、特務課を作った人が神と決めたと教わった。この特務課が出来る前の勇者召喚は、行ったら最後、帰ってこれなかったらしい。勝手に呼んで、帰すことは出来ない。そんなのは、誘拐よりもたちが悪い。そう特務課を作った人は神に抗議したらしい。そこで、召喚する際の魔法陣に決まりを作った。言葉が理解できることと、帰還の約束だ。


 この決まりを守っていれば、勇者召喚をしてもいいって事だもんな。異世界があって、女神がいることを知った俺からしたら……


「この特務課を作った人は、本当に凄い人だ」


 特務課設立者は勇者召喚され、異世界へ。そこで世界を救い、英雄となった人だと聞いた。

 勇者と英雄とでは違う。英雄だと、神界にいる創生神とコンタクトが取れるらしい。

 神界も、創生神――異世界を創生した神は別格で、神の中でも住んでいる神界は女神とは別の場所になる。創生の神が住んでいる所を、特務課ではアルカディアと呼んでいる。女神たちが住んでいる所は、ユートピアと呼んでいる。俺がメノウという女神に呼ばれた世界は、特務課で言う所のユートピアだ。

 特務課には、神界を担当する部門もある。俺には関係はないけど、ちょっと凄いなーとか思った。別に羨ましいとか……思ったけど! でもここの部門の人達は英雄クラスの凄い人しか担当できないって聞いた。


 俺の様に、勇者召喚されても特に何もせず帰還することも、そう珍しくはない。俺の場合は違法な魔法陣だったから即帰還になったけど、違法な魔法陣じゃない場合でも、何もしないで帰還してしまう人はいる。召喚されて直ぐに、帰りたいと望めば、魔法陣が起動して帰還することとなる。これが、帰還を約束された魔法陣の使い方らしい。


 帰還の魔法陣が発動したら、異世界の事は記憶から消えるんだけど。普通は。

 女神が使用を認めている魔法陣の、最大の約束事がこれだ。記憶の消去があるお陰で、異世界の事は無かった事になる。召喚された人も、帰還した人も、普通の日常に直ぐに戻れる。

 異世界の事を忘れなかった人は、特務課から連絡がいく。ここも俺とは関係のない部門だが、確か……人事部門って言っていた様な気がする。記憶の消去をするか、特務課の事務員として働くかを聞かれるらしい。これは非常に珍しいケースらしく、ほぼ異世界の事は忘れる人が多い為、特務課の事務員になれる人は少ないらしいけど。


「実際、特務課で働いている人がどのくらいいるのかは、分からないんだもんな」


 世界平和管理特務課は、秘密の組織の様なものだが、地球の色々な国に支部はあるらしい。日本支部はその所在地も、社員の人数も公開していない。

 俺が連れていかれたオフィスビルも、表向きは普通の会社表記になっている。

 何処にでもある普通の会社のビル。普通と違うのは、中に入って乗ったエレベーターが横に移動することくらいだ。特務課から貰ったIDで会社に入ると、警備員に裏のエレベーターの場所を言われる。そこへ行くとエレベーターがある。見た目は普通。だが、上下の移動ではなく、何故か横に移動した。あれだけは、三カ月経った今も慣れない。


 世界平和管理特務課は、様々な部門がある。そこには機械部門や医療部門などもあり、独自に開発した物を、特務課の人達は使用する事が出来る。

 俺は、特務課とは現代社会の中の異世界の様に思えた。神界と交信し、特務課独自の技術があり、細かな制約の元、異世界を取り締まっている。そんな仕事をしている特務課自体が俺には異世界の様に思えてしまう。


 そう思いながら、窓から隣のビルを見た。


「東京の、それも目黒にある普通のビルの中に、異世界(特務課)があるとは……普通は思わないもんなぁ。しかも、その隣の十二階建てのマンションが全部会社の寮とか……出社が楽じゃないか」


 何故俺が寮生活を選んだのか。それは、俺が持っている力、無効化のせいだ。


 ありとあらゆるチート能力を無効化する力。それが俺の持つ、特別な力だ。この力、言い方次第で最強の様に聞こえるかもしれないが、純粋な力は無効化できないデメリットがある。その他にも、俺だけが使えない道具がある。

 チートな力は無効化してしまうため、会社へワープする魔道具も俺には発動してくれない。会社まで電車に乗ったりして出社していたが、通勤時間で三時間くらいかかっていたから、会社の寮があると聞いて、直ぐに寮入りをお願いした。そしたら、会社の隣じゃないか! 今までの苦労は一体……と、盛大に肩を落としたのは言うまでもない。


 そうそう、純粋な力とは即ち、その人が元々持っている力だ。

 例えば、元々攻撃力が五あって、チート能力でそれが五百になるとする。俺の受けるダメージは五だ。どんなに攻撃をしても、俺に与えるダメージは五って事。

 でも、元の武力が高い人……そうだなぁ、元の攻撃力が五百あるとする。鍛錬や技術の成長でその攻撃力が千になったとしよう。では、俺に与えるダメージはいくつでしょうか?

 答えは千です。ええ、チートな力しか無効化できない俺は、純粋な力のダメージは受けてしまう。

 それなら、俺はどうしたらいいのでしょうか? 剣豪や武闘家の純粋な力に太刀打ちできない俺は、戦う事になったら間違いなく死にます。では、どうすれば死なないのか。それは……


「筋トレして自分も鍛えるしかない!」


 という結論に至り、俺は少しずつ筋トレの道具を揃え、日々筋トレをしている。もう三ヵ月経つ今では、筋トレをしないと落ち着かなくなった。

 三ノ輪さんからは、筋トレマニアと呼ばれている。死なない為にそうしているだけなんだが、間違いな気もしなくなったからそれでいいやと。


 特務課の会社の中には、訓練所もあった。そこで初めて召喚部門の主任にあった。

 召喚部門で働いている人達は、全部で八人。

 主任を筆頭に、七名の社員。三ノ輪さんと八重垣さんも今や同僚に。まぁ、先輩と呼んでいるけれど。


 ――ガチャ


「重。買い出しの準備……って、なんでダンベルやってんの?」


「え? あぁ、何となくですかね」


 気が付いたら十キロのダンベルを振り回していた。十キロくらいだと、持っている気がしないから言われるまで気が付かなかった。


「はいはい、ダンベルは置くー。夕飯の買い出しを寮母さんに頼まれたのは、お前だぞー?」


「あ! そうでした、買い出しを頼まれていたんだった」


「俺も行ってやるから、早く行こうぜー」


「先輩も?」


「おうー。俺、お菓子欲しいんだよねー」


「用事があってのついでか。優しい先輩と言いそうになったのに」


「俺、優しいじゃん! 重が主任にアッパー食らった時、医療部門に連れて行ったの俺じゃん。ほらほら、俺超優しい!」


「あいあい。んじゃ、買い出し行きますか」


「流すなよ! おい、ちょっと、待ってー、俺も行くんだってばー」


 話しかけて来たのは、一条いちじょう 奏多かなた。召喚部門の二つ年上の先輩だ。苗字に親近感を感じ、二歳しか変わらないからと友達の様に接してくれと言ってくれた。優しい。見た目も人懐っこさのある可愛い雰囲気。でも、持っている力は――英雄の咆哮という強力な力だ。


 英雄の咆哮とは、その世界を支配する力らしい。使用回数は一世界で、一回だけ。しかも、一日だけの支配だ。でも、この英雄の咆哮で支配した一日で、色々な事が出来るらしい。世界を支配とは、奏多先輩がしたい様に世界を変えられるって事だ。居なかった精霊や、無かった国などを作ってしまったり、不都合な国を消して書き換えたりも出来る。

 この力を使った次の日には、なかった国があったり、あった国が無かったり……と、主に内政向きな力だと話していた。本人が。


 まぁ、名前からして格好いいんじゃないのかな。英雄の、咆哮、だもんな。かたや俺は、無効化。俺にも英雄とか……なんか格好いい名前があっても、良かったんじゃないか?

 まだ無効化がしょぼい気がしてならない。先輩たちからは、かなりのレアな力だと言われたけども。何故か敵に回したくないとも言われた。


「おま、歩くの早いよー」


「お菓子買いに行く人と、夕飯を買いに行く俺。どっちの方が優先ですかね?」


「……夕飯?」


「じゃあ、チャリは俺!」


「うう、仕方ない……走ることもトレーニングになるか」


 奏多先輩のぽつりと呟いた言葉に、ハッとさせられた。


「そ、そうか……走ればトレーニングにもなる」


「よし。行くかー」


「あ! 先輩にチャリは貸す事にしたから。俺は走って商店街に行く!」


「えー? 本当にー? わっるいなぁー」


 爽やかな笑顔をしている奏多先輩に、チャリを押し付けた。ちょっと強引だったかもしれないが、先輩は優しいから笑顔でチャリを受け取ってくれた。いい人だな。

 走れば体を鍛える事になるとは、盲点だった。先輩の呟きを聞き逃さなくて良かったわ、俺。

 まぁ、先輩なんだし、自転車チャリンコの方が良いだろう。俺はそう思いながら、商店街へとダッシュした。商店街までは、チャリンコだと約十五分くらい。安い商店街は近くにはない。一応ここはオフィス街だからな。


「ひゃっほうー! 坂道最高ー」


「むむ」


 チャリに乗った奏多先輩が、両足を広げながら坂道を下って行った。下りの坂道は、意外と足にくる。だが俺は、良い筋トレコースだと思えた。まだまだいける! 俺の足は今、鍛えられているんだー!

 

「うおおおおおお!」


 猛ダッシュで奏多先輩を追いかけた。チャリと並走しながら、商店街が見える頃にはいい汗をかけていた。帰りもダッシュしよう。そう、心に決めた。


「今日の夕飯は、鍋っぽい」


「マジで? 俺、鍋すっきー。寮母さんのご飯すっきー。お菓子は別腹ー」


「お菓子コーナーで騒いでいる先輩は放って置いて、豆腐と、野菜と……」


 メモに書かれた食材をカゴに入れて、ドリンクコーナーにあったプロテインのバナナ味をカゴに入れた。ついでに、果物のバナナもカゴに入れた。


 寮母と言っても、十二階建てのマンションだ。普通の寮とは違う。

 マンションの一階に三部屋あって、そこの一部屋にさくらさんというおばあさんが住んでいる。俺と先輩が話している寮母さんがこの人だ。

 桜さんは、今年八十四歳。勿論、この人も特務課の人だ。部門は魔法部門。魔法に関する事を扱っている部門らしい。詳しくは聞いていない、仕事の話は寮ではしないから。

 桜さんは俺と奏多先輩が孫の様だと感じてくれているらしく、ご飯を良く作ってくれる。寮母さんと先輩が言い出して、俺もソレに乗っかった形だ。


「一人じゃない食事は、いいもんだ」


 両親を亡くしてからは、誰かとご飯を食べる……そんな事すら出来なかった。今でも偶に、賑やかになった瞬間に、ふと両親の思い出に引きずられてしまう事がある。

 そんな時も桜さんは「沢山食べれば、明日も元気に仕事が出来るよ。ふふふ」と笑いながら、思い出から戻してくれる人だ。


「重、思い出し笑いは危険だ。変態と思われちゃうぞ」


「え、笑ってた?」


「笑ってたー」


「そんな馬鹿な……」


 奏多先輩は真面目な顔をしながら頷いていた。

 桜さんの事で思い出し笑いをしているとは思わなかった。俺の表情筋は、緩くなったのかも。帰ったら、表情筋のトレーニングをしよう。


「じゃあ、会計をして帰りますか」


「同意! 俺もお菓子買えて満足ー」


 いい笑顔を見せている先輩と一緒に、会計を済ませた所で会社からの呼び出しが入った。

 奏多先輩にも届いた様で、俺の肩をぽんっと叩いた。

 会社からの呼び出しは、携帯電話に届く。メッセージとして。


「んじゃ、頑張ってー」


「くっそう、俺と三ノ輪さんの出動依頼か」


「鍋はお前の分も、俺が美味しくいただきまーす!」


「くうううう!」


 残念な事に、奏多先輩の出動要請ではなく、俺だった。会社へとダッシュすることになった俺は、奏多先輩に、桜さんのご飯を残しておいてください! と、お願いをした。

 楽しそうに笑いながら、ひらひらと手を振っていた奏多先輩。ご飯が残ってなかったら、ダンベルでぬっ殺す。


 出動は、二人一組。それが基本。女神からの要請内容次第で、異世界へ行く人は決まる。

 今回は三ノみのわさんと俺だから、きっと直ぐに終わるだろう。


「か、いしゃについたー……はぁ、はぁ」


 特務課であるこのビル、表向きな会社の名前は「花丸はなまる株式会社」という。三ノ輪さんが花丸が良いと言っていたことを思い出す。ここの会社は私服がオッケーなので、出入りをしている人にスーツ姿の人はほぼいない。


「お疲れ様です。あちらになります」


「お疲れ様です」


 警備員さんにIDを見せ、あの横に移動するエレベーターに乗る。何度乗っても横移動に慣れない。


「あぁ、キモイ……」


 と、思わず呟いた。その瞬間にエレベーターは止まった。エレベーターに機嫌があるとかじゃなく、目的の階層に着いたからだ。

 さっとエレベーターから降りて、召喚部門の主任の部屋へと向かう。


「お!」


「むむ」


 主任の部屋の前で三ノ輪さんと会った。相変わらずの三白眼で、クマもある。髪の毛もボサボサのままだ。三ヵ月前と何も変わらない。


「どうして私の出動なんでしょうかね」


「きっと、一番早いからじゃないですかね」


言霊ことだまで、一発終了です!」


「お願いしまーす」


「ドアの前で、ごちゃごちゃとうるせーなお前達」


「「!」」


 三ノ輪さんがなかなか部屋の中に入ってくれないから、どうやら主任が迎えに来たようだ。

 俺と三ノ輪さんはギギギと鈍い音がしそうな程、声のする方へゆっくりと首を動かした。

 だが、予想した高さに主任の顔は無く、これはまたかと視線を下げた。


「主任……また小さな姿に」


「力の反動ですね、今日も可愛いです!」


「うっせぇな。三秒で着替えて行ってこい」


「はい!」


「はいです!」


 三ノ輪さんと俺は即座に返事をして、主任の側から消える様に走って自分のロッカーへ向かった。


 世界平和管理特務課、召喚部門主任、柳田やなぎだ 義之よしゆき三十六歳。男。主任のチート能力は「倍化ばいかの犠牲」と言うらしい。

 成長を犠牲に、能力を倍にしていく力。成長とは年齢の事。年を重ねれば重ねるほど、力は強くなる。それは犠牲に出来る年齢が多くなるからだ。

 倍にするのは、元がチートなんじゃないか? というくらい強い主任の肉体だ。


 因みに、今の主任の見た目は……小学生くらいだ。犠牲にした成長は、六時間は戻らない。その為、小学生の様な小さな子を主任と呼ぶことになる。

 初めて会った時俺は、誰の子ですか? と主任に向かって言い、顎にアッパーを食らってしまった。

 普通は、小さい子供が主任とは思わないだろう!


 ――ガン、バン!


 ロッカーを開けてパーカーを取って直ぐに閉めた。きっと一秒も経っていないはず。特務課の、特の文字をまるで囲んだ印の入っているパーカー。これが制服の様なものだ。

 それを着たら、要請の間へ入る。要請の間とは普通の部屋だ。特務課ではそう呼んでいるだけで、普通の部屋です。この部屋の扉に「要請の間」と書かれた紙が貼ってあるだけ。ただ、その部屋の床には魔法陣が書かれているけど。


「んじゃ、いっちょ行ってきますか。異世界へ」


「多分重の出番はありません。私の力で瞬時に解決ですから!」


「あいあい。おねしゃす」


 三ノ輪さんと一緒に魔法陣の上に立つ。この魔法陣は出動を要請した女神が書いたもので、魔法陣作成は女神が元々持っている力な為、俺の無効化は発動しない。よって、繋がった世界へ一瞬で移動が可能だ。

 俺が入ることが決まった時に、今までは魔道具で移動していたのを、女神が魔法陣を作ることになった。魔道具が使えなくなったからだった。この話を聞いた時、無効化って迷惑な力な気がして、泣きたくなったのを覚えている。

 女神たちは、魔法陣を作るのは簡単で手間も無いからと、快く引き受けてくれたらしい。凄いね女神って。

 魔法陣に入って直ぐ、視界は一変した。


「おお、此度の勇者召喚、成功したか!」


「勇者だ! 勇者が召喚された!」


 俺の時と似たような状況に、思わず笑いがこみあげて来た。ただ、召喚された人は俺の時とは違い、明らかに喜んでいるけど。


「俺、勇者だ! 最強じゃん、やったー!」


 喜んでいる所悪いんだが、女神の要請だから許して欲しい。三ノ輪さんと揃った声で、この場に水を差すような事を大きな声で言った。


「その勇者召喚は、違法です!」


 その瞬間、異世界の人達は俺たちを認識した様だ。勿論、召喚されてしまった人も。

 皆からの視線を感じながらも、決まり文句を言わなければならない。


「女神からの要請で来ました。世界平和管理、特務課の九条重です」


「同じく、世界平和管理特務課、三ノ輪玲です。この召喚の魔法陣は、女神の認可の無い魔法陣です。よって無効とし、召喚されし者を即座に帰還させます」


 何が何だか分からないと言った表情を見ながら、俺は異世界人の動向を見た。分からないと思う気持ちも分かる。あの日の二人を思い出して、思わずニヤリと笑ってしまった。


 父さん、母さん、俺の特務課の仕事は、こうして異世界へ取り締まりにくる仕事だよ。

 現実の世界で、異世界がこうも身近に感じる日が来るとは思わなかったけど、俺はこの仕事を心から楽しんでいます。

 


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