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1話 不思議な体験と就職



 俺――九条くじょう かさね――は、一年前に突然異世界へ勇者召喚された。


 二十歳になった俺は、就職希望の会社の面接を受け終えて家に帰る所だった。今回もきっと落ちるだろうと思いながら、家の近くにある公園に立ち寄り、次はどこの会社の面接を受けに行こうか……そう考えながら、公園にあるベンチに座った。 

 そう、座ったのはベンチだったはず。それも家の近くの公園に居た筈だった。だが、座ったと思ったら一瞬で視界は変わり、見た事も無い服装をした人たちが俺を囲んでいた。

 周りを見ると、明らかにどこかのお城だと思えた。何故なら、目の前には王様がいた。玉座というのだろう、豪華な装いでそこに座り、床に座っている俺を見ていた。


 「な、んだ、ここは……」


 俺の呟きなど聞こえなかったのか、その王は言った。


 「おお! 勇者が召喚された!」と。不思議な事を言い出したこの王様らしき人は、隣にいた女に「よくやった!」と頻りに褒めていた。

 褒められた女は、頬を赤らめながらこう言いだした。


「王様の意思が強かったからですわ。私は古の文献を読み解いただけですから。勇者様が来て下さったので、これでこの世界も救われますわね」


「うむ。後はこの者に任せ、我々は救いの瞬間を待つだけだな」


「そうですわね、王様。では――」


 王様と話していた女が俺を見た。その瞬間、俺の周りが光りだした。


「!」

 

 何だこの光は? 自分が座っていた場所を初めて確認した。そこには、アニメやラノベで見た事のある、魔法陣が書かれていた。そう、俺が座っていたのは魔法陣の上だった。


「その勇者召喚は、違法です」


 魔法陣が光ると共に、人が現れた。

 現れた人は、背中に白い文字で特に〇がついた、黒いパーカーを着ていた。

 俺と同じく魔法陣から現れた。ってことは、この人たちが本物の勇者なんじゃ? 咄嗟にそんなことを考えたが、どうやら違う様だ。現れた人達は男女の二人で、この世界の人達とは服装が明らかに違う! 何なんだその服装は。特に〇模様のパーカーとか、世界観が違うだろう。どちらかと言えば、地球の日本で見る様な……


「世界平和管理、特務課召喚部門の三ノ輪玲みのわ れいです。この勇者召喚は、許可のない魔法陣を使用。なので違法行為と認定されました。よって無効とし、召喚者の帰還を行います」


「へ⁉」


 世界、平和、管理? 聞いた事がない。特務課? 召喚部門? 

 何が何だかさっぱり分からない。分かることと言えば、俺が勇者召喚で異世界に呼ばれたらしいって事だけだ。それも今さっきだ。だが、この子の話だと、俺を呼んだこの魔法陣が違法なもので――俺の隣で話しているこの人達は、それを取り締まりに来た。ってことなのか。

 オーケーオーケ、状況を理解した。だが、ここは一つ……俺は大人しくしておくべきだろう。だって、勇者召喚にも疑問だし。こんなラノベ的な展開は、俺に無縁な筈だ。

 俺はそっと成り行きを見守ることにした。分からない事は、分かっていそうなこの二人にお任せしよう。


「何なのだ? この者達も勇者なのか? おい!」


「えーっと? そうなのでしょう、か……確かにあの魔法陣から現れましたが」


 王様もその隣の女も困惑している様だ。

 でも、俺はもっとどうしたら良いのかが分からないんだ。そんな俺の気持ちを分かってくれたのか、特務課と話していた男の方が三ノ輪さんと話し出した。


「玲。召喚者に説明を。俺は、こっちを担当する」


「八重垣さんと戦うなんて……ご愁傷様。では、私は召喚者と話をしましょう」


 この場に異質な人が現れたら、君ならどうしますか?

 俺なら話を聞こうと思うんだ。決して戦闘態勢なんて取らない。でも、ここは異世界らしい、異世界の人はそうならない様だ。俺、武装した人たちに囲まれてしまった。

 八重垣と呼ばれた人は、ここの人達が戦闘態勢になった事に気が付いた様で、周りを牽制しだした。


「世界平和管理特務課、八重垣藤間やえがき とうまが相手をしよう。死にたい奴から、こい」


 渋い名前だ。硬派っぽいイメージ。しかも、なんか格好いい?


「怯むな。我々の勇者を奪う気なのかも知れん、皆でかかれ!」


 うっそーん! 王様もやる気じゃーん。いきなりの戦闘に、呆然としてしまう。

 しかも、俺を我々の勇者とか言ってなかったか? やっぱり、俺が勇者って事なのか? 


「自分がどんな状況か、理解していますか?」


 三ノ輪さんが俺の顔を覗き込みながら話しかけて来た。視界の隅では、八重垣さんが甲冑を着ている人を拳でぶっ飛ばしている所が見えた。

 もうヤダ、怖い、異世界怖い、戦闘怖い、


「召喚者、聞いていますか?」


「む、はひ?」


 三ノ輪さんに頬を抓られた。痛くないから良かったけど、突然の頬抓りはやめて欲しい。ふんっと鼻息を出したと思ったら、三ノ輪さんはどこからかファイルを取り出し、俺の目線に合わせる様にしゃがみ込んだ。


「今の状況を理解できていますか? と聞いたのです」


「今の状況……は、どうやら俺は勇者召喚でこの世界に来たらしい。が、魔法陣が違法らしく、君たちが取り締まりに来た。そして、あっちでは戦闘が起きている」


 我ながら、的確な状況説明だと思う。真っ直ぐ三ノ輪さんを見ながら、俺は話をした。

 この世界に呼ばれてから、初めて言葉という言葉を発した気がするよ。


「凄いです。満点を差し上げましょう。ささ、手を出してください」


「え……」


 言われるままに三ノ輪さんの目の前に手を出した。

 体育座りしている俺の手をむんずと掴み、三ノ輪さんはボールペンで俺の手の甲に……花丸を書いた。


「花丸です!」そう言いながら、満面の笑顔で俺を見た。この行為が、可愛い女の子からのものだったら、俺は間違いなく惚れていただろう。だがしかし、この三ノ輪さんは……髪の毛はボサボサで化粧っ気のない顔、三白眼の目の下には濃いクマがある。

 うん。色々と駄目な感じ。好みとかの話以前に、三ノ輪さん……もう少し女子力を上げよう?


「召喚者。今、何か良からぬ事を考えませんでしたか?」


「何のことでしょう?」


「私に対して、もっと女性らしくしたら? 的な事を考えませんで、し、た、か?」


「……花丸を貰ったのは、いつだったかなぁ? とは考えましたが」


「そ、そうですか。へへへ、花丸って良いですよねー」


「そうですねー」


 ご、誤魔化せた。語尾が区切られた時、三ノ輪さんの三白眼が一瞬光って見えた。恐ろしや、怖くて心臓がきゅっとなった。三ノ輪さんに対して、女子力的な話はしない様にしよう。考えるのも危ういと、心の中メモを残した。


「では、話を続けましょうか」


「は、はい」


「この世界の女神から、許可のない召喚の魔法陣の発動を感じたので、私たちへ出動依頼が来ました。女神からの要請ですから、権限は私たちの方にあります。あなたがこの勇者召喚に同意するのであれば、帰還の保証はありません。さて、どうしますか?」


「え?」


 今帰還がどうとか言った! 帰れないと思っていたけど、帰れるの俺!

 しかも女神。やっぱり異世界なんだなぁ、そんな不確かな存在がいるんだから。宗教に興味はない俺からしたら、女神からの要請って所も胡散臭い――


「もしも、この異世界の勇者として過ごす。と言ったら、俺は帰れないんですか?」


「出来ません。良いですか、今回使用した召喚の魔法陣を見てください。帰還まで保証された魔法陣であったのならば、ここにこの文字が入っていないといけません。ほら、ここに書かれてないでしょう?」


 そう話しながら見せられたファイルには、見た事も無い文字で書かれた魔法陣っぽいのがあり、指で指定した場所には赤いペンで×マークが付いていた。


 うん。全く分からないんだが、どうやら駄目な魔法陣で俺は呼ばれてしまったと。その事だけは伝わってきた。


「じゃあ、帰りたいから同意しません。って言えば良いのかな?」


「帰りたいのならば、それが正しい選択です。正常な考えが出来る人でこちらも助かります。稀にいるんですよねー、俺は勇者だ! って言い出して話も聞かない奴が……」


「あー……」


 何故か納得出来てしまった。勇者の召喚で呼ばれたという事は、自分が勇者だからだ。と、そう思う人もいるだろうから。勇者召喚って響きが、そう聞こえさせるんだろう。でも、俺が勇者なはずがないじゃないか。運も、特別な力もない。そう分かっている、だから勇者と言われた時に、間違いだろうと思ったんだから。そしたら、間違いという以前に、違法行為だという話になって驚いたけどな。


「玲、まだなのか? お兄さん少し疲れて来たぞ」


「はい? おじさんの間違いでしょう」


 あ、そう言えばあの男は大丈夫だったの、か……

 確認しようと男がいた方を見たら、男が三人に増えていた。同じ男が三人って!


「ドッペルゲンガー⁉」


「そうだが。男とは余り話をしたくはない」


「へ⁉」


「女の子だったら親切丁寧に話したが、男は別だ」


「八重垣さんは、女好きのダメ人間です。会話もイライラするだけです。放って置くのが一番いいんですよ」


 嘘だろ、渋くて格好いい男かと思ったのに。ただの女好きとか……


「ドッペルの力も、三人の女の子と同時に付き合うのにちょうど良いって話していましたから。どうしようもない、クズです」


「便利だろうが。違う女の子と、同時に三人も付き合えるんだ」


「クズですね」


 女好きの更に上を行っていたか。駄目だろう、そんなことに力を使ったら。特務課って、どんな所だよ。


「元勇者に向かってクズはないだろう……」


「勇者⁉」


 って事は、この人も勇者召喚の経験者なのか⁉ 異世界救った事があるのか⁉

 そりゃー強いわけだ。まじまじと八重垣さんを見たら、ものすっごく嫌そうな顔をして、そっぽを向いてしまった。しかも。八重垣さんが向いた先には、王様と抱き合っている女がいた。王様と違法な魔法陣で俺を呼んだであろう女は、互いに抱き合って震えていた。

 何故なら、八重垣さんのドッペルさんが二人の目の前に立っているからだ。


 八重垣さんの強さを怖がっているんだろうな。ここにいた人達は、この二人を残して意識を飛ばしている。それをした人が目の前にいるんだから、怖くて仕方がない。と、震えてしまうもの分かる。


「元でも勇者なら、強くて当たり前か。って、俺とは会話する気なしか!」


「話しかけるな。男とは話したくないと言っただろうが」


「うわ、ひでぇ」


 よくよーくドッペルさんを確認してみたら、王様は見ていなくて女の方しか見ていなかった。ドッペルの方も同じ性格なのかよ……どうしようもないなこの人。


 俺がそう思っていると、突然三ノ輪玲から機械の音声の様な声が聞こえた。


『世界平和管理、特務課コード送信――女神の許可を受信――これより、三ノ輪玲が言霊ことだまを発動します。

 制約執行――異世界「コロアニウス」は、違法勇者召喚の罰として今後百年間の勇者召喚を禁じます――諾――女神の了承により制約は行われました――言霊を継続します。

 召喚されし者の記憶を消去し、帰還を命じます――エラーが発生しました――九条重には言霊は使用できません――強制終了します』


「⁉」


 八重垣さんがバッと勢いよく俺を見た。その勢いにも驚いたが、男は視界に入れなさそうな八重垣さんが、俺、を見たんだ。八重垣さんと目が合った途端に、俺も伸されるもかも知れないという不安がよぎった。


「ちょっとちょっと! 何者ですか君! 私の言霊は絶対なる力なのですよ⁉ 余りにも力が強いから、使用制限がかかっているっていうのに。な、の、に! 使用できないって何でなのですか!」


 わーわー! 三白眼な三ノ輪さんにめっちゃ言い詰められているけど、どういう事なのか知りたいのは俺の方だ!

 言霊って何だ? 俺に使えないのは何故だ! っていうか、記憶が消される所だった事にも驚いたんだが。本人の了承も無しに記憶の消去って、それこそ違法なんじゃないのか?


「お前を連行する。抵抗するのならば――」


「今すぐついて行きます!」


 八重垣さんの言葉に、半泣きで被せ気味に返事をしました! 


 就職も出来ず、突然異世界に呼ばれ、突然戦闘が起こり、関係ない傍観者気取りでいたら、言霊が使用出来ず――俺は何故か連行されてしまう結果に。


「一体、俺に何が起こっているんだ……」


 そんな俺の呟きも虚しく、がっちりと八重垣さんに腕を掴まれている。逃げる所がないのに、腕を掴まれている。が、正しい気がする。


「では、帰還しましょう――召喚門の起動――世界平和管理特務課、三ノ輪玲と八重垣藤間――連行者一名――召喚部門へ帰還致します」


 三ノ輪さんから機械音声が発せられた後、新たな魔法陣が書かれ、そこに門が現れた。その門が音も無く開くと、僕を連れた二人は戸惑うことなくその門へと足を進めた。

 向こう側が見えない門の先が気になったが、俺の異世界体験がこれでおしまいだと感じると、なんとも離れがたい気もした。だが、俺の意思とは関係なく、体は門を通ろうとしている。何故なら、八重垣さんに連行されているからだ!

 怖いから大人しくしているけど、何か聞かれたら全部話してやる……


「では異世界人達、再び会わない事を祈る――」


 俺の考えている事など知らない八重垣さんは、そう言うと俺を連れながら門へ入った。


「なーに格好つけてるんですか、クズなのに」


 と、思ってしまった俺は、思わずポロッたかと自分を殴りたくなった。

 でもこの発言は三ノ輪さんから発せられていたので、俺は密かに安心した。俺がそう言っていたら、きっと伸されていた筈だ。八重垣さんも男なのに、男というだけで嫌われるとは……何たる理不尽。


「これからどこに行くんですか?」


「どこ? どこって聞かれても、召喚者がいるのはもう召喚部門なのだけれども」


「え! でもここ、普通のビルの中って感じで……」


 通ってきた門を抜けたら、どこかのビルの中に着いた。普通のオフィスビルで、おかしな所はどこにも……って、今開いていたドアの部屋の中に、小さいドラゴンみたいな生き物がいた様な。次々と部屋を通り過ぎ、角の部屋の前で一度止まった。でも止まったのはその一度だけで……


「あのあの、ちょっとおかしくないですか? ワンフロアがこんなに広いビルは無いですよ!」


「あるだろう。ここに」


「くっ……」


 帰り道を覚えようとか考えていた。部屋数の多さと、広すぎるフロアに、何処を通ってきたのかと覚えておくことは無理だ。それにしても、誰にも会わないのもおかしい。

 こんだけ広いんだったら誰かしらには会うでしょ! 何処なんだここは。

 何度目かの曲がり角で、三ノ輪さんが突然止まった。


「駄目です、何時もの様には起動しません。ひょっとして、この召喚者のせいでは……」


 そう話した三ノ輪さんに続いて、八重垣さんまで俺を見て来た。


「え? 俺? 何もしてないんだけど――」


 そう答えた時だった。周りが一変したのは。さっきまでただのオフィスビルの中に居たのに、視界が一変した。周りには青空、床は草の生えた……まるで草原の中にいる様に感じた。


「なんだ、ここは」


「あらら? ここは――」


 八重垣さんも三ノ輪さんも慌てていない。という事は、ここは安全なのだろうと思った。まぁ、何かあってもこの二人がいるんだから大丈夫な気もするし。


『ようこそ、召喚部門の皆様。そして、私の作った世界に召喚されし者よ、初めまして女神のメノウです』


「はぁ⁉」


 本日何度目の驚きだろうか。

 就職の面接を終えた俺は、公園のベンチに座ろうとして、異世界に召喚され、異世界では勇者と言われ、召喚の魔法陣が違法と言われ、言霊が使えないのを俺のせいにされ、連行されて何処か分からないビルに連れていかれた俺――今、女神を目の前にしています。


 目の前の女神は、優雅に微笑んでいる。


「女神様~、ただいま帰還しました。が、どうして私たちを呼んだのですか?」


 え? 呼ばれてたの? なら、一言くらい話してくれても良かったんじゃないか?

 突然目の前に女神とか……


「女神って、本当に居たんだな……」


「お前馬鹿だろう? 世界には沢山の女神がいる。こちらの女神様も素敵だが、俺はみよこちゃんが良い」


「みよこちゃん⁉ そ、そんな日本人っぽい名前の女神もいるのか……」


「みよこは八重垣さんが今付き合っている女の子です。因みに、女神ではなく普通の人間です」


「紛らわしい事を言うんじゃねえよ! あ――」


 思わずツッコミを入れてしまい、俺、終わった気がする。八重垣さんのパンチできっと死ぬ。あははは。短い人生だった。終わる前に異世界行けてよかったな! 女神にも会えたしな! さようなら人生!


『いえ、生は終わりません。これから始まるのですよ。九条重様』


「へっ?」


 女神に様付けされた! 名前呼ばれた! 

 スッと八重垣さんに掴まれていた腕が解かれた。俺を殴る事も無く、八重垣さんと三ノ輪さんは、女神が用意したであろうテーブルへ移動して行った。

 ホッとした俺は、目の前の女神へ向き直した。

 さらっさらな金髪の長い髪、緑の目、白い肌、見た事の無い服装。うん、綺麗な女神だ。

 綺麗な女神からの言葉は、謝罪から始まった。


『先程は私が作った世界に勝手に召喚をしてしまい、誠に申し訳ございませんでした。そして、話難いのですが……召喚の魔法陣を通って異世界に召喚された者には、特別な力が授けられます。その、九条重様にも……』


「何か特別な力が付いてしまった。と、そう言いたいのですね」


『はい。その特別な力がどのようものなのか、それが判明しましたので……私のいる領域に呼んだ次第でございます』


 呼ばれたって、そっちかよ⁉ 初めから呼ばれていたのかと思ったら、突然の呼び出しの方か。三ノ輪さんの言い方だと、初めから呼ばれていた様に聞こえた。

 俺に特別な力か……その力のせいで、言霊が俺には適用できなかったんだよなぁ。だから今ここにいるんだった。


「で、その力とは……一体どんな?」


『非常に珍しい力です。きっと、世界平和管理特務課では……その力が最大限に発揮されると思います』


「おお? そんな強い力なんですか!」


 人生捨てたもんじゃない! 違法でも勇者召喚されて良かったと言える! 

 勇者召喚され、特別な、所謂チートな能力を授かったんだから、俺の人生勝ち組の様な気がして来たー!


「その、どんな力なのか聞いても良いですか?」


『……』


 女神からの返事は、微笑みでした。大変綺麗でした。

 いやいやいや、にこっじゃなくて、どんな力なのかを聞きたいんだ。チートな力の説明プリーズ!


『聞いても、怒りませんか?』


「え、怒るような力なの?」


『ええ。いるかもしれません。何故、自分はこんな力なのですか? とか。九条重様は……言いませんか?』


「えっとー……」


 あれかな? こんな力があったんじゃ、普通の人生はもう送れない……どうしてこんな力を寄越したんだ! 的なやつ? 強すぎて誰も相手にならないじゃないか! 的なやつ?

 どうしよう、俺、そんな強力な力が付いちゃったの?

 あれ? どうして女神は笑い堪えているんだ? 俺、変な事言ったっけ?

 俺の目の前の女神は顔を背けている。が、肩は小刻みに揺れていた。


「あの、その力は、今後消えたりとかは……」


『非常に申し訳ないのですが、九条重様の特別な力は……九条様が死ぬまで消えないでしょう。それでも、聞きますか?』


「でも、聞かないとどんな力か分からないから、困ったりしませんか?」


 消えないのなら、尚更聞いておかないと駄目なんじゃないのか? もしも、日常生活に面倒をかけてしまう力だったら、困るのは俺だ。何かあった時に相手に説明もできないと、それはそれで困る。

 授かってしまった力がどんなものなのか、俺には聞く権利がある。大丈夫だ、どんな力でも使いこなせる筈だ。って、ちょっと恥ずかしい事考えた気がする。八重垣さんの事言えないな。


 ん? また女神が笑いを堪えている様な気がするんだけど。

 あ、咳払いした。女神でも咳払いってするんだな。


『九条重様、貴方に授かった特別な力は――無効化の力です。良かったですね、日常は普通に過ごせますし、誰かに迷惑がかかる事もないと思いますよ』


 そう話しながら、女神は優雅に微笑んだ。


「はああああああああああああ⁉」


 散々勿体付けて、ただの無効化の力とか……もっと想像も出来ない、強力な力かと思ったじゃないか!

 ハズレな力の様な気がしてならない。無効化って響きが、しょぼい……


「なるほど。だから私の言霊が効かなかったのですね」


「召喚部門へのワープが出来なかったのも、こいつのせいか」


「……」


 二人には悪いんだが、そう言われても俺のせいの気がしない。貰いたくて貰った力じゃない……


 後から三ノ輪さんに聞いた話では、女神や神の前では、心に思った事が筒抜けになってしまうらしい。そうとは知らなかった俺は、女神にからかわれたと憤慨していた。

 だが、からかわれたのは間違いではないと思う。メノウと名乗った女神は、確かに何度も笑いを堪えていた。俺はそれを見逃さなかった。


 こうして俺は、普通に暮らしても問題のない力を持った。でもこの力は、世界平和管理特務課としては希少な力らしく……女神の強い推薦で、俺は特務課への就職を勧められた。


 異世界へ勇者召喚された俺は、無効化の力を得て、良く分からない所への就職が決まりそうです。


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