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悪役令嬢の報酬  作者: のりまきとか
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目を覚ますと見慣れた天蓋が目に入った

「そう、戻ってきたのね」

エリシアは自分に言い聞かせるように声を出すとふわりとベッドから身を起こし鏡の前へと足を進めた

そこには先程までの投獄されていたエリシアとは違いまだ幼さを残す少女の姿が朝の日差しに照らされ映し出されていた。

エリシアは鏡に映る自分の姿をじっと見つめると、自分の中の決意を確かめるようにそっと目を閉じ、意識を集中させた。


***


エリシアとフェリアの出会いはごくごくありふれたものだった、エリシアの生家であるフィール公爵家とフェリアの生家であるルーン侯爵家は上流貴族の中で共に存在感のある家であり

加えて、王族、フィール家、ルーン家に同年代の子息令嬢がいるため出会うなという方が難しいのである

しかしエリシアの父は娘を溺愛していたため王都にある邸宅よりエリシアを出すことは少なくそのためエリシアに中のいい友人はおらず、そんな生活環境のためかエリシア自身も数少ない他人との交流の機会を活かすためのコミュニケーション能力を培えずフェリアに会うまでのエリシアは本を読むか刺繍をするかの2択が主な日常で使用人との会話さえしどろもどろと言った内向的な少女へと成長していった

そんなエリシアに初めてできた友人がフェリアだった、フェリアの性格は明るく快活で時を重ねるごとにエリシアはフェリアのことが好きになっていきエリシアがもうすぐ20になろうかとしていた時、二人の友人関係は不意に終わりを告げた。

フェリアが死んだのだ、その頃のエリシアにとってフェリアはもはや自分の人生にとって必要不可欠な存在になっており唯一無二の生涯の友とエリシアの中では認識されていた。

これからのエリシアの人生はエリシア自身もはっきりとイメージできてはいなかった、近々婚約する予定のあったフェリアのように、まだ見ぬ誰かと婚約し、結婚し子供を育て、ゆっくり年齢を重ねていく…

エリシアにはおぼろげな未来のイメージであったが明確にイメージできることが彼女にはあった、それはどんな人生だったとしても『友人であるフェリアが共にいてくれる』ということだった。

しかしフェリアは死んだ、フェリアがいないということをエリシアは到底受け入れることができなかった、フェリアの死を知ってより数日後エリシアは自身の20歳の誕生日に自ら己の人生に終止符を打った、それほどエリシアの中でフェリアという存在は大きなものだったのだ。

しかし神の悪戯かエリシアの魂は神の御許へ行くことはなく、次にエリシアの意識が戻った時にはエリシアの人生で初めてフェリアと出会う15歳の王家主催で行われたお茶会当日の朝のベットの上だった。

当初エリシアは激しく混乱し現状を認識するまで一人自室にて狼狽の限りを見せたがやがてあることに気づくと一転神に感謝した、そうこの世界においてフェリアはまだ生きていのである。

エリシアは喜び勇んでお茶会に出席しフェリアと友誼を結んだ、フェリアに前世の記憶の方なものは内容だったが前世と変わらず二人の絆は深まっていった。

20歳の誕生日が近づくにつれエリシアはまたフェリアが死んでしまうのではないかと不安になり時間を見つけてはフェリアと行動を共にした、エリシアは前世でフェリアの死因を詳しく聞いてはいなかったか、もしくは聞かされていてもそれを記憶できる精神状態になかったので結果としてどういう経緯でフェリアが死んでしまったのか分からなかったがエリシアのできうる限り一緒にいることでエリシア自身の不安を解消したかったのである。

そんな小さくも懸命な努力も虚しくまたしてもフェリアはエリシアを残しこの世を去っていった。エリシアは後悔や自責といった前世よりもより深い絶望に抗うことができず奇しくも前世と同じ20歳の誕生日に自ら命を絶った。

そしてふと目を開けたエリシアは自分が自身の人生をループしていることに気づく、それは目を開けた彼女の目に映ったものが見慣れた天蓋であったためだ。

それからのエリシアはどうにかフェリアを死の運命から救おうと方々手を尽くして駆け回った、時に直接フェリアに事故や事件などに気をつけるよういって見たりもした。しかしエリシアがどうがんばろうとフェリアは死にエリシアは自殺、他殺問わず20歳の誕生日に死ぬのである。

そしてフェリアを救うことのできないまま訪れる何十回と繰り返される親友の死、そしてエリシア自身の死を経験するうち、エリシアの心を確実に摩耗させ憔悴させていった、そのためエリシアの心の中に『こんな思いをするならフェリアと出会いたくない』といった感情が芽生え始めそれは何十回目かの15歳のお茶会で行動として現れた。

お茶会で父親に連れられてエリシアの元にやってきたフェリアを見た瞬間摩耗し思考を停止していたエリシアはとっさに持っていたティーカップの中身をフェリアに勢いよくかけた、なんの前触れもなく行われた奇行に本人たちを含めた周囲の時が一瞬止まると同時我に返ったエリシアは凄まじい勢いでフェリアに謝罪した、それほど彼女は精神的に追い詰められていた。

エリシアの真摯な謝罪と家が公爵家であったこと、加えた紅茶は緩くなっておりフェリアは火傷をおわなかったこともあり大事にはならず後日エリシアは父親とルーン侯爵家へ謝罪に行く程度でことなきを得たがそれまでのどのエリシアの人生よりフェリアとの友情は深まらず、嫌われてはいないもののどこか距離を置かれているような扱いをエリシアは受けた。

エリシア自身も自業自得だと反省し受け入れてはいるものの本心ではさみしく思いつつフェリアを死なせないためにあまり賢くない頭を捻った。

そしてエリシア20歳の誕生日の4日前がやってきた、何十回と繰り返すうちにさすがのエリシアもフェリアが死んでしまう日が毎回同じであることには気づいた、原因は分からずフェリア自身の死因もバラバラではあったが誕生日の4日前に必ず事が怒っているのである。

なのでエリシアは今日の日中はずっとフェリアと一緒に居ようと、事故や事件を未然に防ぎフェリアを助けようとちょっとぎこちない素振りのフェリアと行動を共にし、あくる日祈るような思いで目覚めると前もって約束しておいた通りフェリアの家へと出かけた。

過去の人生の中でフェリアの安否が気になり翌日ルーン家を訪問しようとしたことは何度もあったが門前へ着くとすでに普段とは違う雰囲気わかるほど使用人やフェリアの家族は慌ただしくしていたり憔悴していたりと、その様子を見るだけでエリシアはフェリアのみに何かが起こった事を理解できてしまっていた。

ややあってルーン家の前に着くとエリシアは恐る恐る馬車の中からルーン家の門を見た、一見して普段と変わらず落ち着いた雰囲気のルーン家にこれまでにない期待と違和感を感じつつ馬車を降りると玄関から元気な姿のフェリアが現れそれを見たエリシアは突如嗚咽まじりの号泣を始め、ルーン家の使用人やフェリアに多大な困惑を与えたがエリシアには人目を気にする心の余裕は一切なかった。そしてエリシアはこう思った。

『フェリアは救われた、フェリアは死んでない』

ひとしきり落ち着くまで泣きその後あり得ないほどのハイテンションでフェリアと過ごしたエリシアは、次の日フェリアの死の知らせで再び絶望へと叩き落される。

知らせを聞き失神したエリシアは頭を強く打ち自身も生死の境を彷徨いながら朦朧とする意識の中様々な感情と思考の渦の中を漂っていた、そんな中不意に『なぜ今回だけフェリアの死んでしまう日が1日遅れたのか?』という疑問がエリシアの中に浮かんだ、三日三晩頭部を強打したことによる高熱と戦いながらこれまで何十回という人生と今回の人生の違いを考えエリシアは答えをたぐり寄せた、それはきっと初めての出会いで紅茶をかけた事が原因なのではないかというものであった。

その結論を心中に抱えつつエリシアもまた自らの命が消えゆくのを感じ意識を手放した。

それからのエリシアは自身が出した結論を確かめるようにまた、その事を確かめるように何十という人生を経験し最終的な結論を導き出した

それはーーーーーー

エリシアがフェリアに意地悪をしフェリアとの仲が悪くなればなるほどフェリアが死ぬ日が遅くなって行く

と言うものだった。


***


過去何十、何百の人生の記憶を思い出しながらエリシアはすっと目を開けた

「あと、1日…あと少しですわ…私の20歳の誕生日までフェリア様が生きられたとして、その後どうなるのか…フェリア様はご無事なのか、私はやはり死んでしまうのか、分からないけど…フェリア様を助ける事ができるのであれば…私…あきらめませんわ!」

そう自分を鼓舞するように呟くと小さな両手でパンっと自分の両ほほを叩き、エリシアは気合いを入れ自室を後にした。

なにせ今日は王家主催のお茶会が開催される日、確認などせずともエリシアは15歳のその日に戻ってきている事を確信していた。

そう、初めてフェリアを出会う日に。

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