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悪役令嬢の報酬  作者: のりまきとか
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「エリシア嬢、君との婚約を破棄する!」

静まりかえったホールに強い怒気を含んだ王子の声が響いた、

(そう…きましたか)

ホールの中央、ぽっかりと空いた人だかりの中心で渦中の人物であるエリシアは心の中でそっとつぶやいた。

エリシアが目を向けた先にはシャンデリアの光を受け王族を象徴する銀髪を水面の湖畔のようにキラキラと輝かせたエリシアの婚約者、この国の王子であるドレイクが険しい表情を浮かべ立っている。

その傍ら、王子の斜め後ろからはふんわりとしたプラチナブロンドの髪にサファイアのような透き通る青い瞳をした美しく、とても愛らしい少女が不安そうな顔をして王子に隠れるようにしながらこちらを見ている。

「エリシア嬢、君がこのフェリア嬢にしてきたいやがらせ…いや、犯罪の数々。

証拠がある分だけでも君を罰せるだけのものだ、私は王族として、婚約者として…また、フェリア嬢を愛する者として、君の行いを看過することはできない!」

今夜、夜会に参加しはからずしもこの騒動の傍聴人となっている周囲の人物にも聞こえるようドレイクは大きく声をはりエリシアを断罪した。

「やはり、このお二人は運命の赤い糸で結ばれていらっしゃるのですね…」

エリシアは長いまつげをそっとふせうつむき加減になると誰にも聞こえないほどの小声でそっと呟くと、覚悟を決めたようにドレイクに向き直った。

「エリシア嬢、弁明があるならこの場で聞こう。」

そうつげるドレイクにエリシアは毅然と答えた

「いいえドレイク様、私がフェリア様に行ってきたこと、どのことをおっしゃっているのか分かりませんが、証拠があるということは事実なのでしょう。」

実際、エリシアはフェリアに対して長年嫌がらせをしていた、と言うよりもドレイクが言うようにその内容は言葉で表せば『いやがらせ』ではなく『犯罪』となるほどの内容が含まれている。

「では、罪を認めると言うのだな」

この国に裁判はない、法にてらし裁かれるだけである。貴族が貴族に危害を加えた事が公になった場合、両者合意上立会人を介した『決闘』以外は加害者は処刑される。それは国の根幹をなす貴族社会を維持する上で曲げることのできない法であった。

ドレイクはそっとホールの入り口に目配せすると事態を予測し準備されていた衛兵が静かにエリシアへと向かい腕をつかんで連行しようとする。

しかしエリシアはその衛兵の手をそっと払うと

「私はエリシア・フィール公爵令嬢、自分の引き際くらいわきまえています」

そうしっかりした口調で言うとグラデーションのかかった青いドレスを小さくつまむと淑女の礼をとった

「それではドレイク様、失礼いたします」

そう言うと衛兵に促されエリシアは会場を後にした、エリシアの毅然とした態度におされてか衛兵は腕を掴むことはせずエスコートするかのようであった。


***


月明かりが照らすだけの薄暗い牢の中エリシアは一人静かにその時を待っていた、けして死にたいわけでは無かったがフェリアへの行いが許されるものでは無いことは理解していた。いや、たとえ法が許したとしてもエリシア自身が絶対に許すことはないだろう。

静まりかえった静寂に唐突にドアを開く音がする、見回りの兵士がきたのだろうと思い備え付けのベッドに腰かけ俯いたまま大きな石で敷き詰められた床を見続けていたエリシアは予想外の声にハッと顔を上げた。

「エリシア様…」

そこには数時間前ドレイクの肩越しに見たプラチナブロンドの髪が月に照らされ優しく輝いていた。

「フェリア様、どうし…」

そう言いかけてエリシアは我に返ったようにきゅっと口を結び、そして姿勢を正してから再度口を開いた。

「あら、ごきげんようフェリア様。こんな王城の地下牢にまでやって来て、牢屋に入れられた私を笑いにでもいらしたのですか?」

そう言うと嘲るように口角を上げてみせるエリシアは内心フェリアがそんなことを絶対にしないと思っていた。

「そ…そんな事!…そんな事しません!!」

慌てたように言い返すフェリアの潤んだ瞳、感情を高ぶらせた表情、その仕草何もかもが愛らしいとエリシアは思った。

「わ、わたし…どうしてもエリシア様にお尋ねしたいことがあって。それで…無理を言ってここまで連れてきていただいたのです」

少し冷静になって声を荒げたことが気恥ずかしくなったのかフェリアはうつむき加減でそう切り出した

「そう、それで?フェリア様は私に何をお聞きになりたいの?」

そう問いかけるとフェリアは意を決したように向き直った

「わたしは…わたしはなぜエリシア様から嫌われているのでしょうか?わたしには貴女様に嫌われる理由が分からないのです」

もっともだとエリシアは思った、なにせエリシアとフェリアはこれまでの二人の人生の中でエリシアが一方的に罵倒する事はあれどそれ以外でこれと言った会話をしたことはなく二人の共通点と言えば『貴族であること』『王都の邸宅が同じ地区にあること』『同い年で通っている学園が一緒であること』ぐらいである。

正直エリシアにフェリアを嫌いになる理由は微塵も思いつかなかったが、少し考えてエリシアは回答した

「私と貴女に接点がないからそのようなことを言っているのですね、そうですね…私の婚約者、、、いえ元婚約者になるのでしょうかドレイク様のお心の中にフェリア様がいらしたから私は私は貴女につらく当たるのでしょう」

それがエリシアの出した答えだった。

すこし考えるように間を置いてフェリアは言葉を紡ぐ

「わたしは、どうしても貴女様を…エリシア様を悪い人だとは思えないのです。ハッキリと理由を言えるわけではありませんがエリシア様からされた事でわたしの身が傷ついたことも、わたしの持ち物が傷ついたこともなく、ドレイク様がおっしゃっていた事柄も全てそれが起こった後早時を置かずして何事もなく解決してしまう…それに何より私はエリシア様から罵られるような言葉はかけられてもハッキリと『嫌い』だと言われたことがないのです」

その言葉にエリシアはハッとした、そもそもエリシアはフェリアを好いてこそいても嫌って言いないのでこれまでフェリアに嫌いなどと言ったことが無かった。

(聡い子、本当に賢く、気高く、美しく、愛らしい…私の一番大切な親友『フェリア』…)

フェリアの言葉に押し殺していた感情のフタが開きそうになるのを感じエリシアは必死でそれを押さえるとフゥと深く息を吐き心を落ち着かせた。

「あら?貴女、私と仲良くしたいの?あいにく私はもうすぐ処刑される身ですし、何より貴女と仲よくしようなどと…」

「君は本当に性根が腐っているんだな!」

突然の言葉に遮られエリシアが牢室の入口へと目を向けるとそこにはドアに寄り掛かるようにドレイクが立ちこちらに侮蔑の視線を向けていた。

それを確認すると無言で立ち上がり礼をとろうとするエリシアの動作も待たずにドレイクは言葉を続けた

「君に後悔の念やフェリア嬢への謝罪の意思があるのなら処刑の日を君の誕生日である明後日以降に延ばし懺悔の猶予を与えてやるつもりだったが今の話を聞いて君に救いの道は無いと思った、よって処刑は明日行うものとする」

そう告げるとドレイクはフェリアの肩を抱き足早に牢室から出て行った

「誕生日を待たずに処刑…これはあまりよくありませんわ、、、このままではまた…」

一人残されたエリシアは先ほどのドレイクの言葉が引っかかるのか一人ブツブツと考え込みながら呟いていた。


***


翌日もエリシアは牢屋で静かに過ごしていたが待てど暮らせど見慣れた小瓶が牢へと届けられることはなかった。貴族を処刑する場合、王族への反逆以外は大抵拘留された後差し入れられた毒を服毒することで刑が執行される。それは処刑される貴族の最後の名誉を守るため自決扱いとするための処置である。

イレギュラーな処刑日を告げられ困惑したエリシアだったが内心毒の入った小瓶が届けられないことに安堵していた。

(そう、やはり私の選択は間違いではなかったのね、投獄されている身だから状況が分からないけれど、どうやら今日の執行はなさそうね)

その思惑通りその日エリシアの処刑はされずエリシアの元に毒入りの小瓶が届いたのは翌日のことだった。

小瓶を運んできた使用人の後ろにあるドレイクの姿にエリシアは言いしれぬ不安を覚え牢の中へ差し入れられた小瓶を手に取りつつドレイクへと言葉を発した

「ご、ごきげんようドレイク様。薄明かりのせいでお顔がよく見えませんが顔色がよろしくないようにみえますわ」

確かにドレイクの姿は憔悴していた投げかけられたエリシアの言葉にもドレイクは反応を見せない。

「そんなに私と話したくないのですね、元婚約者の責務として私の服毒を見届けてくださるだけでも感謝せねばならないのかもしれませんが」

嫌みを含んだ言い回しにもドレイクは反応しない、意思表示をしないドレイクに困惑しつつもエリシアにはどうしても聞いておかねばならないことがあった。

「まぁいいですわ、そう言えばフェリア様はお元気かしら?私の死に様を見に来るとは思えませんが」

そう言うとドレイクの身体がピクリと反応した。

その反応に言いしれぬ不安を感じたエリシアは静かにドレイクの言葉を待った

「しんだよ、昨日…殺されたんだ」

「!!」

その言葉でエリシアは全てを悟った。瞬間、身体がカッと熱くなるのを感じ焦燥感と自分への憤怒の感情が身体の中からわき上がった

(私は、選択を間違えたのだわ)

様々な感情を乗せ小刻みに震える手で力強く小瓶のフタを開けると、エリシアは迷い無く一気に毒を飲み干した。

ツンと鼻を刺す匂いと苦みをかんじる、遅れて喉が焼けるように痛み内臓からコポコポと鉄の臭いがわき上がってくるのを感じながらエリシアは膝から倒れた。

かすみゆく視界の中でドレイクが何かを言っているがその声はもはやエリシアには届かない。

冷たい床の上に横たわりこぼれる命を感じながらエリシアは思う

『次こそは絶対救ってみせるわ、フェリア』

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