第23話 魔術の練習
村への視察当日の朝を迎え、まだ日差しが出てきていない薄暗い早朝。
俺とルカの姿は裏庭にあった。時刻はまだ午前四時。
「それでは準備から行きましょうか! まずは緩衝材の用意から始めましょう」
「了解!」
俺とルカは二人で協力して土嚢を積み重ねていく。
一段、二段、三段と高さを上げ、横幅の厚さも持たせていく。
そして、結構デカい土嚢の壁が出来上がった。
「ルカ、こんなもんで良いかな?」
「はい! もうこれくらい積めば大丈夫だと思いますし、そろそろ始めましょう!」
何をしているのかというと話は昨日に遡る。
「私と魔術の練習……ですか?」
「ああ、さっきミレットには前に立つから軍の連中を鍛えて欲しい、とは言ったけど実際、俺は剣も魔術も経験ゼロだからせめて、ルカに魔術を教えて貰って完璧に使えるようになれればなぁ~と思って……」
「でも、結構大変ですよ……?」
「ああ、知ってる。でも、いざって言う時に何もできないのは領主としてどうなのかな……と思ってさ? ダメかな?」
「いえ……そこまで言われるのなら……お引き受けしますけど、一日、二日でどうなるものではないですよ?」
「それでも……練習したいんだ。ルカの負担にならない範囲でいいから……」
そして、今――。
ルカは地面に簡単な絵を書きながら俺に魔術のレクチャーをしている。
「まずは基本的なことからですが、魔術の威力は思いの強さで決まります。もちろん、込めるマナの量も関係するのですが……『なぜ、その力を振るうのか?』という思いが一番、魔術の効力に影響してきます」
「じゃあ、込めるマナの量を多くして何か思い込めて撃てばいいって事か?」
「大まかにはそれであっていますが、マナをあまり込めすぎるとすぐにマナが枯渇するので注意しないといけないんです。なので、鉄則は『冷静さを保つこと』です」
「冷静さを保つか……」
「難しいとは思いますが、慣れればできるようになりますから安心してください! では、ちょっと私も練習ついでにやってみますね?」
ルカは土嚢の前に立ち、左手を構えた。そして、言葉を紡ぐ。
「……<深遠なる・眩き光旋よ・我が敵を薙ぎ払え!>」
とてつもない威力の光の刃が土嚢に向かって飛んで行き、当たったと同時に強烈な風が吹き抜ける。そのタイミングと同時に数歩、飛び下がり、再び手を前に構える。
「……<彼我の理・冷徹なる光の刃を以て・貫け!>」
一本の光の矢が空中に構築され、高速で土嚢へと飛んでゆく。そして、矢を飛ばしたと同時に姿勢を低くし、地面に手を着いて早口で言葉を紡ぐ。
「……<光の加護よ・光の障壁を以て・我を守れ!>」
すると、今度は自分の周囲に光の半円状の膜を構築した。おそらく、防御魔術だ。
さらにその体勢を取りつつ瞬時に防御魔術を解除し、懐から濃い青色の石……魔法石を取り出し、言葉を叫ぶ。
「<クイックキャスト!>」
一節で紡がれた言葉によって一閃の雷光が迸る。
「すごい威力と速さだな……」
俺はルカの動きと魔法石の攻撃速度を見て呆気に取られていた。
「ふぅ……こんなものかな……」
そんな凄まじい一連の動作をやり終えたルカは少し納得が行かないような表情でそんな事を言う。
「あれだけの凄い動きで『こんなもんかな?』って……」
「いえ、まだまだです。戦場であれば予期しない反撃だってありますし、本来なら詠唱速度もさらに上げないとダメなんです。今はまだマナ濃度が戻ってないので力は抑えましたけど……」
「えっと……つまり、戦いではこれ以上できないと使い物にならないってこと……?」
「まぁ……そういうことです。特に魔術師同士の戦いになればいかに効果がある魔術を素早く撃てるか、相手が予想しない立ち回りができるか……そこが重要になってきますね」
「なるほどなぁ……」
「じゃあ、実際に達也さんもやってみましょうか」
俺はルカにイチから手取り、足取り教えてもらいながら魔術の基礎と呪文を教わりながら土嚢へ向けて魔術を次々に成功させ、撃ち込んでいく。
そんな俺の出来栄えにルカはというと――――。
「す、凄すぎます……私が積み上げてきた苦労はなんだったのか……正直、自信がなくなりました」
ルカは肩を落としながら俺の出来に褒め言葉を送る。
俺にはどうやら魔術師としての才能が有るらしい。
そして、基礎的な魔術の撃ち込みを一通り終えると今度は魔法石を使用した詠唱練習に移ったのだが、こればかりは一筋縄では行かなかった。
「よし、石を持って……クイッ」
「そ、そうじゃありません! 魔法石は尖がっているほうを敵に向けてください!」
「こ、こうかな?」
「そうです! あ、あと! 魔法石は『クイックキャスト』の一節起動ができますが、そのぶん威力を出すのが難しいので注意してくださいね?」
「ああ、分かった!」
俺はルカの指示通り、言葉を叫ぶ。
「……<クイックキャスト!>」
ビリビリッ――――。
青い雷光が発生したが、やはりルカの魔術的威力に比べて数段階、低い出力だった。
「はぁ……ダメだな。もう少し何とかなるかなって思っていたけどさすがに甘かったか……」
「私からすれば、一度目で発現させてしまうこと自体、驚きなんですが……」
「そうなのか?」
「ええ、本来であれば魔術のスクロールを起動するところから始めるのが、一般的なので……それをスキップしている時点で凄いですから! きっとこのまま練習を重ねればいろいろできるようになりますから諦めず、練習しましょう」
ルカは横で熱心に指導しながらそう励ましを飛ばしてくれる。そんな姿勢を取られたら否が応でも頑張るしかない。俺はその後もひたすら魔術を詠唱し続けるのだった。
そして一時間半後……。
「あれ……?」
急に足の力が抜け、立っているのが辛くなり始めた。
「あ……やっと出てきましたね」
「出てきたって何が……?」
ルカにそう問うと驚くべき答えが返ってきた。
「マナ限界の初期症状です」
「マナ限界!?」
「ええ。達也さん、今、体がダルい感じがしませんか?」
「あ、ああ……確かに」
膝に手を当てながらそう答えるとルカはマナ限界について話し始めた。
「マナ限界はそれが最初のサインなんです。それを無視し続けると目眩や吐血といった症状に変わって最悪の場合、死に至ります」
「魔術って危険もはらんでいるんだな……」
「ええ、それを理解しながら魔術を行使することも戦闘における必要なスキルです。覚えておいてくださいね?」
「ああ、肝に銘じるよ」
「はい! では、これ以上、無理してもしょうがないのでそろそろ朝食にしましょう!」
ルカはそう言うと屋敷の方へと歩いて行き、ランチバスケットと飲み物が入っているであろうポットを持ってきた。バスケットの中身はサンドイッチで野菜の瑞々しさが今までの疲れに安らぎを与えてくれた。
「うん……! うまいっ……!」
「そ、そうですか! なら良かったです」
ルカはそんな俺の言葉を聞いて嬉しそうに微笑んでいたのだった。




