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姫は愚者だが、領主は平和を望む  作者: LAST STAR
リテーレ領とゲレーダ領
17/44

第17話 卑怯な取引

翌日――――


ルカを屋敷に残して俺とミレットの姿は軍本部内の尋問室にあった。

その理由は言うまでも無く、黒幕を吐かせるためだ。


俺が目をつけたのは歳がまだ二十歳過ぎたくらいの“ザール”という若造だった。

ザールは尋問室に入ってくるなり、威勢よく噛み付いてくる。


「今度は領主様が出張ってくるとはな! ご苦労なことだ!」


そう言い放つほどの狂犬だった。


「では早速だが……今日、お前の尋問を担当する領主の達也だ。お前には黙秘する権利がある。答えたくなければ答えなくたっていい」

「は? マジで言ってんのか? てめぇ、俺を尋問しに来たんじゃねぇのか?」

「はぁ……マジだし、俺は尋問しに来たんだ」

「フッ……そうかよ」


そこから数十分間、他愛も無い質問を投げつける。

だが、黙秘する権利があるといった事もあって「知らないし、分からない」の一点張りだった。


「ふん……そうか、何もお前は知らないでこの計画に乗ったわけか?」

「ああ、そうさ?」


「(さて、そろそろ仕掛けるか……)」


「でも……お前さ、後のことを考えなかったろ?」

「後のことって……なんだよ?」


俺は机の上に頬杖をつきながらザールの目を見た。


「領主の屋敷を襲ったってことは死罪に値するってことだ」

「それで俺を……俺を脅してるつもりか!」

「いや、まぁ……こんな事を犯す奴がそれを知っていないとは思っちゃいないさ。ただ、さぞ『家族』も無念だろうよ……? 自分が犯した罪じゃないのに刑に処されるとなればな……」

「なっ……! 俺が、やったことだろ? 家族まで殺す気なのか!?」


俺は少しザールを睨みながら冷酷に薄っすら笑みを浮かべて告げる。


「ああ……。俺が領主である以上、それは決定事項だ。……そうだ。いっその事、貴様を主犯に仕立て上げて見せしめで家族を公開処刑してやるよ」

「そんなこと出来るわけねぇだろ! 領民が黙ってねぇ!」

「はぁ……? そんな奴らは根絶やしにするまでさ……。話は終いだ。良き旅路になるといいな……」


俺が出て行こうとするとポソッとザールが喋った


「……助けに来るんじゃなかったのかよ」


俺はそれを聞き逃さなかった。


「誰がだ! 誰が助けに来ると言っていた?」

「…………。」

「そうか、また後で来る」


またしても、ダンマリを続けるザールにそう吐き捨てて俺は尋問室を出た。

尋問室を後にした俺は、軍本部の二階にある長官室を目指した。扉を開けて中に入ると判子を片手にこっちに手を振るミレットの姿があった。


「忙しそうだな……?」

「まぁ、いつもの事だから慣れちまったけどな……。で、そっちの方はどうだた?」

「ああ、ダンマリだったよ。だから、例の件、手筈どおりに頼むな?」

「はぁ……わーったよ。あんまり乗り気はしねぇけど……きっちりアタシが連行してくるさ」


そして、ミレットは仕事を半分やりっぱなしで剣を携えて出て行った。


「さて……っと」


俺はミレットが連行してくる人物の到着を待つ間、軍の本部内を視察して歩いた。

軍の本部は基本的に治安維持を担う警備隊の人間やマレルが統括を勤める隠者の養成施設、それから兵士たちの稽古場に、仕官の勉強スペースなど多岐に渡る機能があった。もちろん、その他にも武器庫や武器の製造工房なども豊富にある。


特に武器庫は弓矢や剣、防具が異常なほど貯蔵されている。


「さすがというか……当然か」


その圧巻の量を見て、そう思うのであった。


そして、時は経ち、その日の夕暮れ時――。

ミレットが女一人、子ども一人を連れて戻ってきた。


そう。言うまでもないが、ザールの家族だ。

その者たちには何の罪は無いが、手と足に手枷をハメて自由を奪い、ザールの隣にある牢獄に入れた。


その仕事を終えたミレットは少し心配そうな目をしつつ、俺にザールの妻が身に着けていたお守りを渡した。


「なぁ……達也。あの家族に怪我一つさせるんじゃねぇぞ……?」

「わかってる……。首尾よくやって見せるから期待してな」


俺はそう啖呵たんかを切った。


そして、俺が次に向かったのはもちろん、ザールの元だ。

ザールが居る尋問室に入った直後、机にザールの妻が持っていたお守りを置いた。


「やぁ、ザール。お前にいい知らせがあるぞ? 今、ここにお前の家族が来てる。あ~ただ、居る場所はおまえの牢獄の隣だけどなぁ?」

「くッ……! 卑怯なことしやがって!!」

「フッ……卑怯だと? お前には言われたくないな?」

「うるせぇ!! 殺してやる!!」


ザールが興奮し、取り乱したところで俺はパンパンと手を叩いた。


「さて、交渉の時間だ」

「テメェと交渉することなんかあるものか!!」

「落ち着けよ、ザール。お前の返答次第では家族を殺さずに済むかもしれないんだぞ?」

「……!?」

「(よし、今だな……)」


俺は交渉の話をゆっくりと始めた。


「俺が今、最も欲しい情報は今回の襲撃を計画した首謀者が誰か?……だ。お前がもし、俺との取引に応じれば家族を解放する。それとおまけでお前が今回の襲撃に関わった理由と経緯も話してくれれば、お前の身も一緒に開放するぞ?」

「つまり…………俺がすべてを話せば無罪放免にしてくれるってことか?」

「ああ、そういうことだ。だが、もしお前が条件を全て蹴ったり、虚偽の報告をすれば、家族諸共……待つのは死だけだ。まぁ、すぐに答えろとは言わない。期限は明日の正午までだ。正午前までに答えを出しておいてくれないと夕刻には家族の首が飛ぶからな?」

「そんな…………!」


俺が立ち去ろうとするとザールが問いかけてきた。


「アンタが言う取引が嘘じゃないという根拠はあるのか……? 仮に俺が答えたとしてアンタが俺を裏切って俺たちを殺すかもしれないじゃねぇか!」

「そりゃあ、確かにそうだな……。ならば、今後、罪を犯さないという誓約書に一筆もらえれば協力者として名を告知し、一階級、軍の昇進を確約しよう。それなら、問題は無いだろう?」

「…………」


ザールの表情は満更でもなかった。俺はザールに明日、午前十時ごろに接見に来ると告げて再び、長官室へ向かった。長官室に入ってみると机の上で魔術の詠唱に纏わる本を下にしてミレットが寝ていた。


「……? ミレット?」

「ヌフフ……コレでぇ……」


完全に夢の中だ。そこで俺は「これならどうだ?」と耳元で囁いた。


ルカが来たぞ――――と。


「ぎゃあああああああああ!!! ごめんなさい!!」


ミレットは椅子から飛び上がって目覚めた。


「アレ……? ルカ姉は……?」

「居ねぇよ……ったく!」

「つい、転寝しちまって……てへ?」

「てへ? じゃねぇよ……屋敷に戻るぞ?」

「はいはい……。わーったよ」


ミレットは、おもむろに鞄に書類や本を詰め込んで軍本部を二人で後にしたのだった。道中、俺は言葉を伏せながら例の件の状況をミレットに話した。


「ん~つまり……明日には事が終わるつー事か」

「ああ……あいつが吐けば、だけどな……」

「アタシなら吐いちまうけどな……犯罪者ではなく無罪放免になるわけだから」

「まぁ、普通ならそうなるはずだ。あ、そういえば頼んだ件、やってくれたか?」

「もちろん!」


俺がミレットに予め、頼んでおいた事があった。

それはザールの家族がいる牢獄に虫除けの魔術陣と保温を保つ魔術陣の構築。

それと、手枷の調整と称して外れない程度にゆるくする事だった。


「そうか。ありがとう」

「しっかし……鬼のような領主を演じてると思ったら、影でコソコソと優しく手を伸ばすんだから達也は……」

「当然だろ? 風邪引かせるわけにも行かないしな……」


そんな他愛も無い話をしながら屋敷へと足を進めるのであった。


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