第11話 マナ欠乏症
俺は厨房で「雑炊」を作るべく棚やテーブルの上にあったバスケットの中を覗きながら、具材探しを始めた。
「(もし、異世界の食品ばかりだったらどうしようか……)」
そんな不安もあったが、基本的には現実世界と変わりは無く人参や大根などの野菜の類をはじめ、お米や卵、味噌までもが揃っていた。
もちろん、食材探策しているうちに得体の知れない白い葡萄みたいな物や紫色のしいたけみたいな物があったのも事実ではあるが、そんな得体の知れない物が無くても雑炊は出来るので見てみぬ振りをしたのだった。
そして次は調理道具だ。
この世界にはご飯を炊く電気釜なんていう便利グッズは無いため、土鍋でご飯を炊かなくてはならない。
「土鍋、土鍋っと……」
最初は厨房の中を右往左往しながら探していたが、石釜の近くにあるテーブル下から土鍋があっさり見つかった。ついでにテーブルの下から具材を煮るためのお鍋もチョイスして用意は完了した。
準備が整ったので早速、お米を炊くところから調理開始だ。
とりあえず、計量カップが無いのでコップにお米を入れてそれを三杯半ほど土鍋に入れ、水できっちりと洗った後、お米が浸る程度に水を入れ、土鍋を石釜に設置し火を入れた。
ここら辺の感覚はたぶん、キャンプをやった時と同じ要領で大丈夫なはずだ。土鍋の様子を俺は横目で見つつ、その間に大根や人参を細く切り、少量の水と一緒にもう一つの鍋で煮つつ、味噌で味を調えていく。
しばらく経つと土鍋がブクブクと沸騰してきたので薪の調整をして火を弱め、じっくりと蒸していく。あくまで勘だが、数分ほど置けばお米はうまく炊き上がるはずだ。
「ふぅ……」
何とかここまでこぎ着けてやっと、一息つける。こっちではこうした調理方法が一般的なのだろうが、慣れない俺にとっては重労働だ。
「電気釜って本当にすげぇ物だったんだな……」
俺は純粋にそう思ったのだった。
そこから数分が経ち、土鍋の蓋を開けるとお米がふっくらと炊き上がっていた。最後に、出来上がったお米ともう一つの鍋で作っていたスープを合わせて沸騰させ、その上から卵を流し込み煮立てる。
これで「俺流、なんちゃって野菜雑炊」の完成だ。
ここまでに来るまで大体、一時間くらいかかっただろうか。ひとまず、俺は雑炊を味見してみることにした。
「(自分で食べるならともかく、他人に食べさせるからにはある程度、責任を持たないとな……うん。悪くない)」
実際に試食してみれば、大根と人参の甘みが出ているし、まずまずな出来だ。
味も確認できたので二人前の雑炊を底が深い皿に分けた。
一つは、ミレット、後の一つはルカか俺の分だ。
木製のお盆に雑炊の入った皿とスプーンを入れ、厨房を後にした。自室に戻るとルカは相変わらず、安らかな顔で寝ており、ピタリとミレットが寄り添っていた。
「ミレット、お待たせ。できたぞ」
「遅ぇよ……! もう、腹減ったぁ……」
その声はまさに死にかけの人みたいな声だ……。
「一体、その声どっから出てるんだよ……」
そう言いつつ、ミレットにスプーンと雑炊を渡した。すると、ミレットは餌を与えられた肉食獣の如くズルズルと音を立てながら食べ始めた。
少なからず、病人というか……体調が悪くて寝ているルカのために咀嚼音を抑えるという発想はミレットには無いらしい。
「(さすがにルカも起きるか……?)」
しばらくルカの様子を観察して居たが、そんな音を横で聞かされても起きる兆しはまったく無い。結局、もう一つの雑炊はしばらく起きそうに無いルカに変わって俺が食べることになった。
お互い雑炊を食べ終わるとミレットは軍の本部に顔を出し、事と次第を伝えて今日は休みを取り、ここに戻ってくるという話を受けた。
「……俺としては嬉しいけど本当に大丈夫なのか?」
「アタシの仕事なんて書類に判子を打つか、敵さんが現れたらボコるくらいしかねぇから一日くらいルカ姉の近くに居たって問題ねぇよ! それにタツヤにはタツヤの仕事があるはずだろ? いつ目覚めるか、わかんねぇルカ姉を見てたら日が暮れちまうぞ?」
「まぁ……そうかもしれないけど……」
ミレットに言われたことは正しく図星だった。この状況ではルカの事が気になって集中することなんてできない。ミレットのそんな気遣いは非常に嬉しかった。
だが、当初の予定であった村の視察は延期せざる終えない。
本当は行きたいところだが、元々、今回の視察は前領主であるルカを連れて行き、違いを探らせようという計画を建てていたのでどうしようもない。
「(ならば、この状況で出来ることをしよう)」
そう考えて咄嗟に出てきたのは『一年半前と半年前のリテーレ領侵攻』の実態について調べることだった。
まだ試していないものの、本が読めるようになったという事とミレットが今日一日、ここに居るという事。それに加えてルカが寝ているということもあって情報収集をするなら今日が好機だと考えたのだった。
そこで俺はミレットに一つお願いをした。
「急で悪いんだけど……この屋敷でミレットの父君に会わせてくれないか?」
「えっ!? それは……そのぉ……どういう意味で?」
『父君』なんて言い方が悪かったようでミレットがなんかとんでもない勘違いをしている。
「一年半前のリテーレ侵攻について聞きたいんだ。ルカが寝ているうちに……な」
「あ! ああ~! なるほどな!? ふぅ……。ルカ姉が寝ているうちに……か。分かった!」
どうやら、ミレットは俺の考えを理解したようで二つ返事で了承してくれた。
ミレットはその後、軍の本部に顔を出しに行くと共に父親をこの屋敷に連れてくるべく自室を後にした。
その一方、俺はミレットに変わってルカの様子を見たり、時には脈拍を測ったりなど出来る限りの事をやり続けたのだった。




