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Experience  作者: 皐月悠
9/10

【9】


【9】


 『作品を制作する事は、経験の結晶』と、誰かが言っていた。

 

 目の前の試作を見ながら、その一言を思い出した。

 先日、華の作品を見たのも、思い出すきっかけになったのだと思う。

 「どうですか?」

 たまたまできた平日の昼間、私は、土日のバイト先でバイトしていた。平日でも利用者は居るので、時々は呼ばれる事もあるらしい。

 「いいと思います」

 同じバイトの同僚は、ふふふと嬉しそうな表情を浮かべている。

 私には作る事ができないような、子供が好きそうな色彩で、複雑にはなりすぎないようにセーブし、なおかつ、魅力的な作品だった。

 「友里恵さんは?」

 「・・・まだ、少しかかります」

 どの程度までいいのかうまく掴めず、何も浮かばない状態だった。

  

 昔、どこかで、自分の作品を作りたい欲求は、たくさんの作品に触れた後にやってくるものだと教わった。これは、私個人の意見だけど、たくさんの作品に触れているうちに、尊敬をしながらも『自分であれば、この方法を知っているし、この方法が武器だからもっと違う角度で作る』と勝手に空想の中でイジってしまう。

 最初のうちは、力不足で、何もないところから生み出す事ができない事も多い。けど、頭の中でイジっているうちに、自分の個性を理解してきて、時間をかけても逃げずに生み出した最初の作品ができると手順を全部やり通す事ができる。

 これも、誰かの受け売りだが、努力の天才は、何回も繰り返すうちに、変に力がはいっていた部分に気がつき、選択肢が無限ではなくて、目的にあわせると限られた選択肢まで無意識に絞り込みをおこなっている。

 最初のうちは、この『絞りこみ』や、何を作ろう?という『思いつき』がうまくいかない。思いつきをよくするのは、普段から意識のアンテナをはって、ふと流れたテレビの音声や、書店に並ぶ本のタイトル、などで意識を少しするだけで、少しだけ世界が違って見えるもの、らしい。

  

 そして、その欲求が高まった瞬間、作る行動に突き動かされる。


 自分に対して、良い影響を受けた、と感じられる作品は、私にとっての良い作品で、その作品と巡りあえた理由だと思う。この作品も、このアトリエを訪れた子にとってそうなられる作品だと心の底から感じている。

 だから、もし、全部の工作共通で教える事にポイントがあるのなら、『再現可能な技術サポート』『テーマの提供』だと思う。

 大人になれば、悔しい思いもする。負けず嫌いだと感じる事があったとしても、それが向上心につながる前向きなものならば、自分を向上させる力になってくれるもので、ないよりあった方がいいのかもと思っていたりする。

 

 「友里恵さん?」

 「考え事していました。すみません」

 声をかけられて、思考に潜り込んでいた意識は現実に一気に引き戻される。

 「何を考えていたのですか?」

 「それは・・・」

 今考えていた事をかもっと省略して話すと、驚かれてしまった。話しすぎてしまっただろうかと、内心は冷や汗を流しながら、それを表の表情になるべく出さないように気をつけて、言葉を続ける。

 「あぁー、ごめん、まとめて考えるのが癖になっているから、つい。忘れて」

 「忘れないように、紙に書き出して欲しいです」

 「そう思ってもらえたなら、嬉しいかな」

 「友里恵さんは、頼りになりますね」

 「・・・そう見えているなら、嬉しいかな」

 アハハと乾いた笑いを浮かべて、視線をそらしてしまう。

 それは、たぶん、仕事だから、頑張って『頼りになる猫』をかぶっているからだ。

 瑠奈が見たら、

 『猫かぶっている、変な感じだね』

 と笑われると思う。 


 猫、そうだ、猫は使えるよね?

 描きながら、猫もこういう時のモチーフに万能だよね。と、手を動かしていくと、思っていたよりも、可愛い猫を描く事ができた。


 「あ、そうか」

 「何?」

 「いいえ、何でもありません」


 さっきまで、教える事に関して考えてまとめていた続きで、もしかして、つまずきポイントさえおさえていれば、美術が嫌いなままでも、嫌いが苦手ぐらいの意識を変える事もできるのかもしれない。

 作る楽しさは、もっと技術をたかめたら、教える事も可能かもしれない。

 全部ではないけれど、嫌いという感情の中には、上手く作りたいのに作れないもどかしさ、負けず嫌いがひそんでいる気がした。

 そもそも仕事と割り切る部分も必要だけど、教えるポイントに似ている、考え方を変えられるきっかけをつかもうと今の本職の仕事に向き合っていたのだろうか?

 どんな小さな事でもいいと思っても、何も浮かばない。向き合う事をしていなった。だから、私は、あれとあれが嫌いだったのか。 

 すっきりした表情を浮かべた。


 「友里恵さん、仕事できますよね?」

 「仕事はできないよ」

 ベテランの方の早さで仕事をこなせない。

 「そう見えるのは、教える事をきっかけで、考え方が変わったからだと思う」

 「?」

 教える事と仕事のつながりが見えずに、同僚は疑問を表情に浮かべていた。


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