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Experience  作者: 皐月悠
8/10

【8】


【8】


 何処でもいいと言えば、『私の事どうでもいいの?』と怒られそうだけど、行きたい場所が限られているから、瑠奈に近場で決めてもらえる方が助かるのが本音だ。

 私だけでは、『カラオケ』か『喫茶店』のニ択になってしまうし、何かの歌詞のように友人の瑠奈が居るなら、友人としての範囲内で何処でもいいと思う。だけど、それを言葉として口に出すのが、なぜか危険な気がするので言わない。

 「この時間帯に来るのが珍しいと思ったら、何処か出かけるのか?」

 「そう、待ち合わせ」

 ルカにそう質問されて瑠奈は嬉しそうに答えている。

 「いいな」

 羨ましそうな視線をフクロウ君は向けてくる。そういえば、彼は、みんながフクロウ君と呼ぶのでそのまま私の中で定着してしまっているが、本名を知らないままだ。

 「フクロウ君も誰かと会えばいいのに」

 そう言うと、彼の周囲の空気が沈む。

 「予定があわなくて」

 「そうだよね、なかなかあわないよね」

 「予定があった時が、その分、嬉しく感じる」

 「そうだね」

 仕事をしていると、予定をあわせるのは難しい。なるべく職場の負担をかけない事を考えると、一ヶ月前には来月の予定をダブルブッキングにならないように、仕事と友人と会う予定を出しておくという、シフトみたいになってしまっている現状がある。ないわけではないが、学生のように当日に気軽に誘える行為が、ひどく懐かしい。

 ある程度の仕事中心に予定を組み立てる事に、ある日ぷつんと何かがきれてしまった友人を知っている。言い方は悪いが、職場は契約以上の事は何もする義務はないから、収入のために飼い慣らされている現状に嫌気がさしてしまったのだという。

 友人は、主な働き方は雇われる事をやめ、自営業のギャラリーを運営している。だけど、それだけですべてをまなかえるほど甘くはない。副業で空いた時間で足りない分の収入をバイトしていると聞いていた。何事も新しい事を始めるには、不安定な時期があるもので、そこの部分をなるべく正確に計算して、予算を組む必要があるらしい。

 「そうだ、ここの近くにギャラリーがあるけど、見に行ってみる?」

 「ギャラリー?」

 「知り合いがやっている場所で、今は、ちょうどオーナーの作品が展示されているはずだけど」

 「行ってみたい」

 「決まりで」

 その友人と会うのは久しぶりだ。最近、バイトの子を雇ったと連絡をもらっていたが、実際に会うのは初めてだから、楽しみだ。


 一戸建てのドアを開けて中に入ると、珈琲のいい香りがする。

 「久しぶり」

 オーナーの華の姿を見つけて話しかける。

 「あ、久しぶり」

 華は、椅子に座っていたが、私に気がつくとこっちに来る。飲み物が置いてある場所に行き、紙コップに珈琲と、紅茶をいれる。紅茶が入っている紙コップを瑠奈に渡してくる。

 「はい」

 「ありがとう」

 「ありがとうございます」

 「描いたの、久しぶりだったじゃない?」

 華に話しかけると、そのまま頷く。

 「久しぶりだったけど、色使いだけは、以前よりも大胆になれた気がする」

 「・・・そうだね、一言でいうと鮮やかになっている?」

 以前の華の絵も好きだった。だけど、モチーフそのままの色を使っている色使いも好きだったが、今の隠れているのかもしれない色を使っている方が鮮やかに見える。

 「・・・綺麗です」

 「ありがとう」

 「華、絵を売ってほしいという問い合わせが」

 二階から降りてきたのが、バイトの子なのだろう。雰囲気からして真面目そうだ。きちっとしていて頼りになりそうで、のほほんとした華にはよく合っていそうだ。

 「分かった。今、行く。ゆっくりしていて」

 「すぐに終わると思いますので」

 苦笑を浮かべて、その子は答える。

 絵とその子を見て、そのまま、今までの華からの連絡を総合して、この子がそうなのかと納得した。

 「?」

 「何でもないです」

 「焼き菓子があるので、よければどうぞ」

 「いただきます」

 食べたクッキーが美味しかった。

 「美味しい」

 瑠奈は表情が美味しいと出ている。

 「知り合いが作ってくれたものなので、数に限りはありますが」

 「ふーん」

 「ビーズのアクセサリーも、綺麗ですね」

 「オーナーの友人が作られた作品です。購入する事もできます」

 「そうなの?」

 「はい、展示期間が終了後に引き渡しになります」

 瑠奈は、興味津々に一つの作品の前で視線がとまっていた。

 「・・・そうなんだ」

 この時はまだ、こういうのが好きなのかと気になっただけだった。


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