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Experience  作者: 皐月悠
6/10

【6】


【6】


 自分の知っている知識を、他人に教えるという事は難しい。

 自分の中での思考だけではなくて、相手にとって馴染みのある言葉で伝え、理解するところまでもっていく事ができなければ、『教えた』とは言えないと私は思っている。

 ただ、作品を作る事になると、感覚は人によって違うから仕事を教えるよりも難しく感じる。感覚まで押し付けてしまったら、もう、それは、その人の作品とは言えなくなってしまう。教える事ができるのは、実現するための技術だけだというのは、知ってはいる。

 知ってはいるのだけれど・・・。


 「どこまで話していいのか分からなくなった、と?」

 「うん」

 ソフトドリンクの紅茶と珈琲を追加注文して、今の悩みを聞いてもらうと、瑠奈に成長した子を見るような表情を浮かべられる。

 「成長したね」

 「一応、あなたよりも年上ですよ」

 「だって、仕事を人に教える立場を意識しているなんて」

 よしよしと頭を撫でられて、瑠奈にとっての私はどんな存在なのだろうかと不安になってきた。

 「今の話聞いたかぎりだとさ、教え方が分からないというより、相手がどこまで求めているのかが分からないと思うのね。その場合、相手から質問でひきだせばいいのよ」

 「簡単にいいますね」

 「うん、そこに意識して観察すれば簡単だと思う」

 「・・・・・・ありがとう」

 追加注文の飲み物がきて、食べ終わったお皿は綺麗に片づけられる。

 「どういたしまして。私も人に対する助言ってさ、言うのが難しいなって感じる事があるのよ。でも、なんだろうな、否定するような言葉選びの助言はしたくないなって思う」

 紅茶を飲みながら、瑠奈はメニュー表の中のデザートを見る。

 「仕事って、給料も運営も関わってくるものだから、どうしても結果は大事になるの。そこは、知っているのね。結果を出すためには、相手のニーズにあわせた物にする事が必要だけど、担当者が考えた事を、助言する時に初めから否定していると受け取ってしまうような言葉選びは嫌い」

 「瑠奈、妙に具体的だけど、何かあった?」

 「ううん、気のせい。ただ、私はこういう言葉が嫌いって言いたくなっただけ」

 「あるよね、そういう時も」

 紅茶の入っていたコップを、瑠奈は片手で弄ぶ。

 「知り合いに作曲を趣味でしている子がいるのね。歌をカラオケで歌うのも好きだけど、その時に意識している事は、曲と詞に込められた感情を、伝えるためにはどうしたらいいのかって、寄り添って歌うようにしているって。趣味で作曲するようになって、編曲をする人は曲が主役でこれを表現するためには、この音も付け足せるよねって、優しく寄り添えるような、そんな気持ちだって。それを聞いて、助言をする時は、そういう気持ちで選ぶ言葉でしたいなと思うの」

 いつもは私よりも年上に見えるのに、この時の瑠奈は年下に見える。気づいたら、手を伸ばして頭を撫でていた。

 撫でられていた瑠奈は、心地よさそうに目を細める。

 「いい子だね」

 「いい子でもないけど、好かれるように気をつけている」

 「そう思える事が、いい子だよ」

 そう言えば、瑠奈は微妙な表情を浮かべている。

 「私は好きだけど」

 撫でていた手を離すと、寂しそうな表情を瑠奈は浮かべている。

 「今日は付き合ってくれて、ありがとう」

 私は満足げに温かい珈琲を飲み干した。


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