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Experience  作者: 皐月悠
4/10

【4】


 【4】


 どこかで聞いた事がある。

 新しく仕事を始めるのならば、『三日、三ヶ月、三年』が大切なのだという。理由まではきちんと聞いた事がないので、これは私の解釈になる。

 三日、仕事の一日の流れに慣れる。

 三ヶ月、一ヶ月ごとの基本的な業務に慣れる。

 三年、年間の仕事の流れを理解し、その上で改善点など自分の担当の視野が広く感じ、新人の文字がとれて一人前扱いされる頃になっている・・・はずである。いい面も苦労する面も全部含めて仕事に対してのやりがいを感じられるようになるのには、三年はかかるだろうし、それまではどうしても苦労する面が多く感じてしまうのも、私にとっては仕方のない事だった。

 そして、そんな時は決まって瑠奈に会いたくなってしまう。

 

 「・・・それで、私に話を聞いて、と。紙に書き出てもいいんじゃないの?」

 「人が恋しい、そんな気分です」

 休日の夕方、手頃値段でおしゃれな感じのイタリアン料理のお店に、呼び出した瑠奈に話を聞いてもらっていた。それで?とうながされた。

 「なんかさ、友里恵の愚痴は聞いていて、もう聞きたくないって、すぐにシャットアウトしたくなる話は、しないよね。愚痴だから、いい事だけ言っているわけじゃないけど・・・個人を攻撃じゃなくて・・・自分がどうしたらいいのか分からなくて、その方法が知りたくて話している」

 「そう? ただ、感情のままに話しているだけだけど」

 「自覚がないのも、友里恵らしいけど」

 笑いながら、瑠奈はワインを飲む。

 「そういう事を感じるのはさ、友里恵が・・・自分の中であの時にはこうしたら絶対上手くいく方法が浮かんでいて、それが絶対の方法だと感じでいるからだけど・・・そのまま口に出したら、相手を傷つけかねない怖さがあるよ。一つの方法だけが、正解でもないから。だから、今は心のノートにためておいて、いっそ、友里恵が企業する時までとっておけばいいんじゃない?」

 「しがない私の稼ぎでは、いろいろと無理です」

 「もしくは、伝え方を勉強する、とか」

 「伝え方の勉強?」

 「探せばそういう関連の本があるから、読むと面白いよ。私の場合、必要になって手にとったけど」 

 「伝え方か、意識してみた事ないな」

 よりこう言った方が相手にとっていいのではないかと、考えてこなかったわけではない。ただ、特別に勉強をしてまで意識してこなかった。よく行く本屋でも、見るコーナーは大体が決まっている。

 「友里恵は、これから必要になるかもね。どんな事でも、少しでも人をまとめる立場になったら、必要だって感じるようになると思うよ」

 「・・・・・・つまり、瑠奈はそういう立場を経験していると、すごいね」

 尊敬の視線を向けると、フっと遠くを見て瑠奈は苦笑を浮かべる。

 「バイト歴が長くなってくるとね、気づくとそうなっていたのよ」

 いろいろと疲労がにじみ出ている。

 「お疲れ様です」

 「そう、疲れるの。だから、お酌して?」

 「あ、はい」

 デキャンタに入っているワインをグラスに注ぐ。

 なぜ疲れているから、私がお酌する事になるのかが分からないけれど、ま、嬉しそうに飲んでいるからいいか。その部分はふれないでそのままでいるのが一番だと、理性が言っている。ふれてしまえば、『大切な人にいれてもらう酒は美味しくなる』とか、なんとか、ほろ酔いだから、ストレートの威力が強まった言葉が出てくる。

 「いつもより美味しい」

 いつもと中身は同じワインです。

 そう心の中でつっこみを入れながら、私は自分のグラスに入った残りのワインを飲み干した。 


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