【3】
【3】
1日の流れはざっくりと言えば、次のような感じだ。
朝礼、朝の掃除と準備、受付時間帯、夕方の掃除・片付け、終礼、解散。休憩は就業時間内に合計1時間とる。二回にわけてとるので、一回の休憩時間は30分ずつになる。
掃除は、作業机の拭き掃除と床の掃除はき掃除までは、画材の準備は、プログラムによって違うらしい。
「何か、いつもと表情が違う気がする」
バイトを始めて数ヶ月が過ぎた。
土日のみだから、週5日のバイトに比べたら、時間的に縮めるとやっと一ヶ月が過ぎた感覚だと思う。休日の昼間、よく来る個人経営の喫茶店で、自分へのご褒美として優雅に珈琲セットを堪能していると、同じく常連仲間のフクロウ君が話しかけてきた。
「新しく、バイトはじめて」
「ダブルワークは疲れるから、ほどほどにな」
実感のこもった口調で、眼鏡の店員が忠告してくる。
「それで、どんなバイトだ?」
「どんな?」
そう質問されて、どう返答しようか迷ってしまう。
「ざっくり言えば、子供に工作教えるところ?」
「教えるのが好きで?」
「美術が好きで」
「あ、なるほど」
眼鏡の店員は納得したらしい。
「好きな事をしている人は、表情が変わるのか」
フクロウ君は、ジーと私を観察している。演じる事が好きな彼は、できるだけ観察する事が習慣になってしまっていると、以前、本人がそう言っていた。
「好きな事を仕事にできるとは限らないけど、仕事にできたなら、仕事だという事を忘れて熱中できそうだ」
眼鏡の店員は苦笑を浮かべて、フクロウ君の食べ終わったケーキ皿を片づける。
「言われてみれば、時々、仕事だと言うことを忘れる。展示用の試作を作る時は、完全に忘れて楽しんでいる」
「羨ましい。そんな事、感じた事ない。時間を忘れてバイトするなんて」
「そう、だよね」
「それでも、やりがいは感じている」
生き生きとした表情でそう言いきれるフクロウ君が、私には眩しい。自力でそこまでたどり着けている部分に、羨ましく感じる。
「フクロウ君のバイトは、どんな仕事?」
そういえば、どういう仕事をしているのか質問した事がなかったのを思い出した。彼は困った表情を浮かべる。
「どんな? ・・・・・・一応、事務仕事」
どこまで仕事内容を話してもいいのかを考えなら、そう答えてくれた。
「きちっとした仕事です」
「きちっとした仕事か、向いているの?」
「・・・・・・なんとか、続けられています」
「私もまだ、始めたばかりだから、まだこれからかな」
「お互いがんばりましょう」
「そうだね」
そう、まだ始めたばかりだ。
いい面も苦労する面も両方分かり、仕事のすべてを理解するには早すぎたのだった。