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93.新たな出会い

 エリシアとナリアは二人、森の中を歩いていた。

 ナリアの頭に上には大きなカブトムシであるガーラントが頭の上に乗っている。

 今し方、少し大きな地震が起こったところだった。


「すごく揺れたねっ」

「ええ……さっきも大きな音があったけれど」

「ふむ、おそらくもう起こらないだろう」

「え、そうなんですか?」

「ふふふっ、わたくしはこのユグドラシルの番人。ここで生活する者であればユグドラシルの情勢くらいは理解していますとも」

「じょーせい?」

「そう、情勢。状況を把握し続けているのさ」

「そうなんだっ! じゃあ、わたしとおねえちゃんは今どの辺りにいるの?」

「どの辺りとはまた面白い質問だ。だが、それにはお答えできないのさ」

「ええー、どうして?」

「ふふっ、これはあくまであなた達への試練――すなわち、わたくしが手を貸す事はルールの外という事になりますとも」


 ガーラントはそう言うと、パタパタと羽を広げて再び飛んで行ってしまう。

 二人の視界から姿を消すと、またエリシアとナリアの二人きりとなった。


「モーゼフ待ちくたびれちゃうよ」

「そうね……このままだと何日かかるか」


 エリシアが遠くにある大樹を見つめる。

 あそこの地下が、先ほどエリシア達のいた場所という事になる。

 だが、進んでも進んでも近づいている感覚がない。

 そこにあるはずなのに、まったく進んでいる感覚がなかった。


(諦める事はできるって言っていたけど……)


 ガーラントの姿はまた見えなくなったが、近くにはいるのだろう。

 声をかければ、すぐにでも元いた場所に返してくれるかもしれない。

 けれど、エリシアもナリアもまだ諦めるには早いと考えていた。


(どうすれば辿りつけるかを考えた方がいいのかしら……)


 何も考えずに進むナリアとは裏腹に、エリシアは思考する。

 進んでも近づく感覚がないのは、あの大樹が本当に遠いだけなのだろうか。

 ユグドラシルという場所は、そもそも常識的が通じるようなところではない。

 モーゼフと共に地下に向かった時は、それほどの時間はかからなかった。

 何か魔法の類で移動したのかもしれないが、ひょっとすると先ほどいた場所に辿りつくには同じような方法を取らなければならないのかもしれない。


「おねえちゃん、どうしたの?」


 先行していたナリアがエリシアの下へと戻ってくる。

 エリシアの進みが遅いため心配したのだろう。

 エリシアは屈みこんでナリアに話す。


「ちょっと考えていたの」

「考え事?」

「そう、どうやったらあそこに辿りつけるか」


 エリシアが大樹を指差すと、ナリアは首をかしげる。


「真っ直ぐ進めば着くよ?」

「そうかもしれないけど、あまり遅くなるとモーゼフ様やヴォルボラ様も心配するわ」

「あっ、たしかに……ウィンガルも待ってるもんね!」


 ナリアの言葉にエリシアは頷いた。

 モーゼフは二人が試練を受けている事を知っているが、ヴォルボラやウィンガルはそれを知らない。

 長く戻らなければ、二人に余計な心配を掛けてしまう。

 そこで、エリシアはナリアに話した。


「だから、裏道を探そうと思うの」

「裏道?」

「そう! さっきモーゼフ様と行ったみたいに」

「えーっ、それってズルじゃないの?」


 ナリアが驚いた表情でそう聞き返す。

 ナリアにとっては正攻法で行かない場合はズルとなるらしい。

 エリシアとしても、本来ならば二人で真っ直ぐ進み続ける事が正解だと言いたいところだが、今の感じで進み続けても辿りつかない気がする――そうエリシアは直感した。


「ううん。この場合の裏道って言うのが少し正しくなかったわ。近道しようっていうお話し。モーゼフ様も使っていた道だから、ズルにはならないわ」

「そっか……モーゼフも近道でさっきの場所行ったんだもんね」


「モーゼフずっこい」という言葉を、ナリアが後に続ける。

 エリシアはそれを聞いて苦笑いしながら、二人で別の道を探る方法を取る事にした。

 ナリアは手当たり次第に草木をかき分けていくが、特に目新しい道は見当たらない。

 一方のエリシアは、小さく深呼吸をすると周囲に意識を集中した。

 モーゼフと繰り返し続けてきた魔法の練習――今回はそれが役立つ気がした。


(落ち着いて……集中)


 エリシアが目を瞑る。

 狩りをしている時と同じ感覚――近くに別の生き物の気配を感じる。

 ユグドラシルは大量の魔力がある場所だ。

 魔力の感覚だけで言えば、常に騒音の中にいるような感じがある。

 それでも、集中すれば何かしら動いていたり、魔力の流れが変わったりする場所がある。


(……あそこ、少しおかしい気がする)


 エリシアが目を開いてそこを見る。

 丁度、ナリアが確認しようとしている場所の近く――草むらに隠れているが、どこか魔力が別の方向へと流れていた。


「ナリア、そこに何かない?」

「んー、何か……あ、あった!」


 ナリアが草むらの中に人が一人通れるくらいの穴を見つける。

 それは丁度、地面に垂直になっていた。

 穴は暗く底が見えない。

 とても飛びこむには勇気があるように見えたが、


「ここにモーゼフがいるのかな! あ――」

「ナリア!?」


 ナリアが穴を覗き込むようにして、そのまま滑り落ちて行ってしまった。

 エリシアも慌てて追いかける。

 狭く暗い穴の中はカサカサと草木が擦れるような音が響く。

 ポンッと穴の中から飛び出すと、先ほどいた場所に近いが、少し違ったところに出た。

 ナリアは草のベッドによって怪我をする事なく着地できたようだ。

 エリシアもお尻から落ちたが、怪我はない。

 腰をさすりながら、周囲を確認する。


「さっきの場所とはまた違うのかしら……」

「んー、よく分からないね」

「そうね……目印とかあればいいけれど」

「あらぁ、こんなところにお客さぁん?」


 艶のある女性の声が聞こえ、エリシアとナリアが振り返る。

 そこにいたのは、花で優雅に蜜を吸う一匹の蝶だった。


「あ、チョウチョ!」

「そういうあなたはエルフねぇ。可愛らしい娘さんが二人もぉ。ユグドラシルにようこそぉ」

「あの、あなたは……?」

「私ぃは《蝶》のフリフラ。ユグドラシルの番人の一体になるのかしらねぇ。まあ、立ち話もなんだからぁ、花の蜜でも吸ったら?」

「吸うっ!」

「あ、ナリア――」


 エリシアが何か言う前に、ナリアも近くの花に顔を近づける。

 だが、花粉によって「けほっ」と軽くせき込むだけだった。



「あらぁ、あなた達は蜜を吸う事はできないのだったわねぇ。失念していたわぁ」

「花粉が……へくちっ」

「ごめんなさいねぇ。そのかわり、絞り出したものをあげるわぁ」


 フリフラがそう言うと、葉っぱでできたカップが二人の前に出てきた。

 そこにはとろみのある液体が入っている。

 これが、花の蜜を集めたものなのだろう。


「それじゃあ改めて歓迎するわぁ。可愛いエルフの娘さん達」


 ユグドラシルの番人――ガーラントと同じ存在であり、その名を冠する者とまた遭遇する二人だった。

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