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92.《大賢者》vs《救国の魔女》

「まさか、本当にあなたも生き返っていらっしゃるとは……」


 モーゼフは貫かれた状態で、驚きの声を上げた。

 だが、モーゼフの言葉にカルテナは答えない。

 モーゼフの身体を貫く黒い槍を握りしめる。


「《ソウル・バニッシュ》」


 カッと槍全体が黒く光り、モーゼフの身体を包み込む。

 闇の上級魔法――本来ならば、魔力で構成されたモノを打ち滅ぼすために使用されるものだが、カルテナはモーゼフの骨部分ごと消滅させようとしている。

 一瞬の間に、モーゼフの身体は跡形もなく吹き飛ばされた。


「――《ガイア・ランス》」


 だが、別の方向からモーゼフの声が響く。

 地属性の上級魔法により、地面から槍のように鋭く尖った岩がいくつも飛び出してくる。

 カルテナはすでにフェルクスの身体部分から飛び出し、同時にフェルクスの首元を掴んで跳躍した。

 着地したのは同じく捕らえていたフレストの隣だ。

 カルテナの持つ黒い槍が、モーゼフの使う木の根を一瞬で消滅させる。

 周囲には以前、霧が立ち込めたままだった。


「無事のようだね、モーゼフ」

「ほっ、一瞬遅れたらまずかったかもしれんの」


 モーゼフが霧の中から姿を現す。

 カルテナによって消滅させられたモーゼフは幻影――《ミラー・ワールド》の効果は未だに続いている。

 改めて、モーゼフはカルテナの方を見た。

 少し長めの黒髪に、年齢に対して随分と若い姿をしている。

 それでいて、大人の女性の雰囲気を持つ――齢にして六十歳を超えるのがカルテナ・バルティスという魔導師だ。

 すでに年齢だけで言えば、現代に彼女が生きているのならば百歳はゆうに超える。

 そもそも《救国の魔女》と呼ばれた彼女は――モーゼフの前で死んだのだからこの世にいるはずもない。


「なぜ、カルテナ殿はここに?」

「……フェルクス、フレスト。あれはお前達の手に負えるものではないな」

「――答えんか、カルテナ」


 モーゼフの方から動いた。

 バッと両手を広げると、凄まじい量の魔力がモーゼフの後方へと集まっていく。

 モーゼフはすぐに後方のオリジンに声を掛けた。


「ちと荒くなるぞ!」

「ああ、結界を広げる!」


 モーゼフの言葉にオリジンが答える。

 モーゼフの動きを見て、カルテナも動いた。

 同じように両手を広げると、カルテナの後方に魔力が集約していく。

 出現したのは黒い穴――そこから現れたのは、巨大な《隕石》だった。

 火と地属性の混合魔法、《メテオ・ストライク》。

 燃え盛る大岩に対し、モーゼフが繰り出すのは《絶対零度》の風。

 水の風の混合魔法、《コキュートス》。

 発動前からカルテナ側にある木々は燃え盛り、次々と朽ちていく。

 一方、モーゼフ側の方は木々が次々と凍りついていき、砕け散っていく。

 さらに二人は魔法を重ねる。


「《ブラック・コア》」

「《ロック・ホールド》」


 カルテナが発動したのはドス黒く、大きな球体の重力を司る魔法。

 モーゼフが使ったのは、地面から大きな輪が出現し、相手を捕らえる魔法。

 だが、どちらもその用途で使おうとは思ってない。

 互いの大技を発動させるための牽制だ。

 それに加え、カルテナは手に持っていた黒い槍を振るう。


「《グラヴィティ・クロス》」


 巨大な重力の波がカルテナの槍から発せられた。

 触れるだけで押し潰されるような魔力の波――闇属性の上級魔法だ。

 それに対し、モーゼフも剣を振るう。


「《ガイア・ガーデン》」


 地面の底から、次々と巨大な木の根が出現する。

 カルテナの重力に逆らうように、そしてモーゼフを守るようにそれは幾重にも重なっていく。

 そして――互いの魔法が発動した。

 カッ、という小さな音の後に、周囲を爆風が包み込む。

 燃え盛る大岩と、凍りついて砕け散った岩の破片が周囲に雨のように降り注ぐ。

 再び、カルテナとモーゼフが対峙した。


「こいつぁ、次元が違うな」

「驚き、というものですよぉ。さすがにワタシ達では手に負えないというのは事実なようですねぇ!」

「何で嬉しそうなんだ、お前は」


 そうカルテナの後方に待機するのはフェルクスとフレスト。

 モーゼフとカルテナの戦いを見て、いつの間にか傍観者のようになっていた。

 モーゼフとカルテナ――これ以上二人が戦いを続ければ、ユグドラシルという場所そのものが滅びてしまう。

 そうその場にいる全員に思わせるほどに、二人の戦いは凄まじいものだった。

 だが、二人も戦闘力は十分に高い。

 カルテナと連携をすれば、モーゼフも押し切られる可能性はある。

 一方、こちらには《ユグドラシル》の現主であるオリジンがいる。

 だが、オリジンが扱うのは木々を操る魔法――すなわち、いずれも相性としては悪かった。


「ですがぁ、これはチャァンスというものでは?」


 にやりと笑いながら、フレストがそう呟く。

 フェルクスが同意するように頷いた。


「三体二だ。これなら押し切れるだろうよ」

「いや――」

「三体三だよ」


 カルテナの否定の言葉に合わせるように、その声は周囲に響く。

 気付けば、周辺は濃い霧に包まれていた。

 モーゼフもその存在に気付く。


「ほっほっ、これもまた驚きじゃの」

「まったく、ここは本来神聖な場所なんだけれどね。ボクが対処するために招き入れたわけだけど……それならこちらも戦力は補充したいところだったからさ」

「なるほど――よく分からないが、何となく理解したよ」


 そこにいたのは吸血鬼――《霧界王》と呼ばれるウィンガルだった。

 幼子の姿のまま、口元から血を垂れ流してモーゼフの前に立つ。


「食事中に変なところに巻き込まれたと思えば、あなたは相変わらず面白い事に巻き込まれているね」

「すまんのぅ」

「なに、謝る必要はないさ。何せ私も暇だからね」


 そう笑いながら言うウィンガル。

 モーゼフがエリシア達といた森の中に、ウィンガルも食事をするためにやってきていたのだろう。

 それを、オリジンが回収した。

 向き合う形となった六人だったが、カルテナが制止をするように右手を横に出す。


「私は滅びないが、お前達は滅びる事になる。それは良しとはしない」


 カルテナがそう言うと、ズズッという奇妙な音と共に、カルテナの後方に黒い渦が出現した。

 そこにフェルクスとフレストが入っていく。

 深追いする事は危険――モーゼフも分かっている。

 ちらりとカルテナがモーゼフの方を見る。


「我々に関わらない事だ。そうすれば、無用な争いは起こらない」


 そう一言だけ言い残すと、カルテナも姿を消した。

 荒れ果てた大地のようになってしまったユグドラシルの一角は、すぐに新しい命が芽生え始めていた。

 ものの数時間もすれば、ここでは何もなかったかのように戻るだろう。

 だが、カルテナが消えた後も、モーゼフはしばらく動かずにその場所を見つめていた。

更新遅れて申し訳ないです……。

公式の方にも載っていたのでポロリしますが書籍化します。

後ほど活動報告にも書こうかと思います。

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