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87.蘇りし者

 オリジンの住まう場所はユグドラシルの地下だった。

 地下であるにも拘らず、明るい場所ではるのが特徴的だ。

 蔓でできたテーブルと、大きな葉でできた椅子が出現する。

 オリジンがその椅子に座ると、すっと両手を広げた。


「さあ、まずは席についてゆっくりしようか」

「はーいっ」

「し、失礼します」


 ナリアは葉っぱの椅子に興味津々で、そこに座ってすぐに椅子をバネのようにして跳ね始めた。


「こら、ナリア。落ち着いて座りなさい」

「うんっ」


 勢いが消えず、まだナリアは上下にゆらゆら揺れている。

 モーゼフも同じように席につく。

 テーブルの上にいるのはガーラント。


「他の者はいつも出ているから、ボクとガーラントしかいない。まあ、そんなに緊張しないでくれ」

「は、はい」


 緊張している様子なのはエリシアくらいだった。

 ナリアはまったく緊張する様子もなく、むしろテーブルの上のガーラントに話しかけ始める。


「ガーラントは何が好きなの?」

「何がというのは、食事の事かな?」

「うんっ」

「わたくしは樹液が好きだよ」

「樹液? おいしいの?」

「それはもう」

「じゃあわたしも食べるっ!」

「はははっ、エルフにとっておいしいかどうかは分からないけれどね」


 その様子を、微笑むように見つめるオリジン。


「ふふっ、とても素直でいい子だね」

「うむ、ナリアはそういう子じゃ」

「ごめんなさい、妹が迷惑かけて……」

「迷惑だなんてとんでもない。最初にも言ったろう? 受け入れたのは我々だと」


 そう言いながら、オリジンは視線をモーゼフの方に移す。

 ようやく話を始めるというところだ。


「さて、モーゼフと……エリシアはボクの話を聞くかい? 君もガーラントと遊んでいても構わないが」

「えっと、聞いてもいいんですか?」

「別に構わないよ。ただし、面白い話ではないけどね」

「ふむ、わしに用があるという事だったな」

「ああ、その通りだよ」


 オリジンはそう言いながら、トントンとテーブルを叩く。

 すると、テーブルの蔦から葉で構成されたカップが作り出され、そこから水があふれ出てきた。


「話を聞きながら、それでも飲んでくれ――おっと、モーゼフはもう飲めないんだったか」

「ほほっ、わしも今の姿は見せておいた方がいいかの?」

「いや、そのままで構わないよ。さて、何から話そう――そうだな、《最果ての地》については君も知っているかな」

「最果ての地……?」


 エリシアがオリジンの言葉を聞いて、首をかしげる。

 オリジンは頷いて答えた。


「《死者の国》とも呼ばれる場所さ。ここが始まりの地と呼ばれるのとは対照的に、生命力がある者ではなく死後の者が辿りつく場所だ」


 そう呼ばれる場所が存在する。

 魂の行きつく場所と呼ばれているのが最果ての地だ。

 モーゼフも一度は死んでいる以上、そこへ行っているはずだった。

 だが、モーゼフには死後の記憶はない。


「君がそこで何かを見ていたら話は早かったんだが」

「いや、記憶にないのぅ。そもそもわしは、自分でアンデッドになったわけではないからの」

「自分でなったわけではない? それはどういう事だい?」


 モーゼフは自身に起こった事について話した。

 確かに一度モーゼフは死んでいる。

 だが、気が付けば現世へと戻ってきていた。

 そして、エリシアやナリアに出会い今に至る――モーゼフの魔導師の実力があるからこそ、そうなったのではないかと考えていたが、


「いや……それはあり得ないね」


 そう否定したのはオリジンだった。

 モーゼフは少し驚いた表情でオリジンを見る。


「なぜそう言いきれる?」

「モーゼフ、君も理解しているはずだ。未練もなくアンデッドになる事はないと。そのほかに方法があるとすれば――誰かによってアンデッドとして使役される。それくらいしかない」

「……ふむ、わしが気付かぬ間に使役されているとは考えにくいが……そうなるとわしに未練があったと?」

「それもないから不思議な事だ。君がないというのなら、未練はないのだろうね」

「その話が聞きたくて呼んだのか?」

「その通り。君が死んだ事は分かっていたが、まさか君も年数を置いてから復活するとは思わなかった」

「君も、じゃと?」


 モーゼフが問い返すと、オリジンは頷いた。

 モーゼフに用があるという事も含めて――なぜモーゼフなのか、という理由を理解してしまった。

 エリシアがびくりと身体を震わせる。


「どうした、エリシア」

「あ、いえ、その……」

「モーゼフ、君がそうやって表情に出しているから怯えているのさ」


 オリジンにそう言われ、モーゼフも気が付く。

 自身の気持ちに応じて、モーゼフの表情は変化するようになっている。

 もちろん、モーゼフの意思でそれを隠す事はできるが、今は気がつかない間に表情に出てしまっていた。

 モーゼフは骸骨の姿へと戻る。


「すまんのぅ、エリシア。少しばかり動揺してしまった」

「いえ……私もびっくりしてしまっただけなので……」

「まあ、君がそういう風になるのも分かるよ。正直ボクも驚いた。もう何年経ったのだろう――そう思ったからね」

「……あの、他にも生き返った人がいるという事なんでしょうか?」


 エリシアから、核心を突く質問が飛ぶ。

 モーゼフは無言のままだったが、オリジンは目を瞑ると、その名を口にした。


「カルテナ――カルテナ・バルティス」

「……やはりそうか」

「……モーゼフ様の、お知り合いですか?」


 エリシアの問いに、モーゼフは静かに頷く。

 その人物は、かつてモーゼフにユグドラシルの存在を教えてくれた人物。

 そして、すでにこの世からは去ってしまったはずの人物でもあった。


「そうじゃのぅ。その通りじゃ」

「なるほど、君は自分の事を彼女には話していないんだね」

「……? それはどういう……?」


 オリジンはモーゼフの方を見る。

 骸骨になったモーゼフの表情は読み取れないが、その雰囲気で察したのだろう。

 オリジンが、エリシアに対して話し始めた。


「カルテナ・バルティスは――モーゼフ・バルティスを育てた人物。つまり、モーゼフの師という事だよ」


 それは、本当に昔の話。

 モーゼフがまだ、魔導師ですらなかった頃に出会った人。

 そして、今のモーゼフがあるのはその人に出会ったからだった。

 カルテナ・バルティス――《大賢者》の師にして《救国の魔女》と呼ばれた人は、この世に蘇っているという事実を知らされたのだった。

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