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84.遊びの日

「わぁ……見てくださいっ。銀色ですよ!」

「ほっほっ、そうじゃの。お前さんの髪色と同じじゃ」

「はいっ」


 ギルドからもらったプレートを見て、エリシアが目を輝かせていた。

 こんな風に、自然に喜ぶ姿を見るのは珍しい。

 エリシアは素直に嬉しそうだった。

 モーゼフも同様に、冒険者としてのランクが上がり、二人ともシルバーとなった。

 ここまではエリシアなら十分来られる範囲だとモーゼフは思っている。

 ただ、ここから先はそこまで簡単に上がれるものではないだろう。


(まあ、それでもこの子なら心配はあるまい)


 モーゼフはそう考えていた。

 そして、昼過ぎ頃――モーゼフとエリシアはナリア達と合流した。

 それと同時にウィンガルは食事に、ヴォルボラは昼寝をしにそれぞれ別れた。

 ウィンガルの食事というのは曰く、王都の外で魔物の血を啜る事らしい。

 魔力の混じった血液であれば、それがウィンガルの力となる。

 あくまで、ウィンガルの好みがエルフといった珍しい種族の血との事だが、わざわざ吸わなくても生きていけるとの事だった。

 今のウィンガルなら大丈夫だろう、とモーゼフも考えている。


「さて、王都に滞在する期間も短くなってきたしのぅ。今日はフィールのところにでも行ってみてはどうじゃ」

「そうですね……ナリアはどうしたい?」

「んー、今日はモーゼフと遊びたいっ」

「ほっほっ、わしか?」

「うんっ」


 笑顔で頷くナリアを、モーゼフが抱きかかえる。

 王都に来てから、あまりナリアを構ってやれなかった事を思い出す。

 それならばと、残り少ない期間はエリシアとナリアのために全力を注ぐつもりだった。


「では、今日はわしと遊んでくれるかの?」

「あそぼーっ」

「エリシア、お前さんはどうする?」

「私もご一緒しますっ」


 エリシアの言葉を聞いて、モーゼフは頷いた。

 王都は広く、遊ぶ場所と言えばいくらでもある。

 けれど、ナリアが行きたがったのは王都の外の方だった。


「王都の中では遊ばないのか?」

「うん。わたし、動物と遊びたいの」

「ほっほっ、そういう事か」


 エリシアもそうだが、ナリアも元々は森で育った身。

 王都のような場所は新鮮で楽しめるのだろうが、行きたがる場所は自然に近しいところだった。

 モーゼフとエリシアは先ほど王都の外から戻ってきたところだったが、再び外へと行く事になる。

 王都近辺は外でもそれなりに人がいる。

 ナリアが求めるような可愛い動物となると、そのあたりよりも少し離れたところになるかもしれない。


「では、探しに行くとするかの」

「はいっ」

「はーい!」


 エリシアとナリアを連れて、王都の外に出た。

 可愛い動物――言い方は違うが、早い話温厚な魔物を探しに行くという事だ。

 ナリアはよく、フラフの町の近辺でも魔物と戯れている。

 主にペットとしても飼われる事があるようなタイプだ。

 モーゼフの植物で作り上げた馬にも興味を示していたように、ナリアはとにかくそういった生き物が好きらしい。

 ヴォルボラの尻尾なんかも気に入っていじっている。

 時折、羨ましそうに見ているエリシアの事を考えると、やはり二人は姉妹だという事が良く分かった。

 森の近くまでやってくると、ナリアがいち早く何かに気付く。


「あーっ!」

「おや、もう見つけたのかの」

「早いのね」


 ナリアが走って木の方に近づいていくと、何か黒い物体を手に掴んで戻ってきた。


「カブトムシっ! いま見つけたのっ」

「おー、本当じゃ」

「かっこいいでしょー」

「ふふっ、ナリアは虫も好きだものね」

「うんっ、虫さんも大好き!」

「ほっほっ、そうか。それじゃあ、今から虫探しというかの」

「わーいっ」


 子供とは移り気なものだ。

 可愛い魔物探しから、いきなり虫探しへと変更された。

 普通に見れば、蝶々なども可愛い部類なのだろう。

 ナリアは捕まえたカブトムシを頭に乗せると、そのまま森の中を走り始める。

 エリシアがその後ろを慌てて追いかけて、モーゼフがゆっくりと後から歩いていく。

 木々を確認していくと、そこら中に虫は見つけられた。

 カブトムシからクワガタムシまで様々だ。

 もちろん虫も温厚なモノであればいいが、場合によっては凶暴な魔物である可能性もあるので気をつけなければならない。

 ナリアがさらに、木の上にいる一匹の大きなカブトムシを見つけた。

 サイズ的には通常のものの三倍程度――モーゼフもあまり見た事がない部類のものだった。


「あれは……」

「かっこいいーっ!」

「あんなに大きなものだともしかして……攻撃的な魔物の可能性もあるのでは?」

「うーむ。いや、もしかするとあれは……」


 モーゼフにも心当たりがあった。

 まさかこんなところにいるとは思えないが、と首を横に振る。

 大きなカブトムシは、木の上で不動の状態だった。

 だが、良く見ると時折樹液を啜っているように見える。

 やはり、どこからどう見てもカブトムシだった。

 おかしいのはサイズ――周囲にいるカブトムシと比べても段違いだ。

 ナリアがとんとんっ、と木を叩き、


「カブトムシさん、下りてきてーっ」

「ナリアったら、そんな風にしても下りては――」


 エリシアが言い終える前に、ストンッと木を滑るように、大きなカブトムシは下りてきた。

 ちょうど、ナリアの目の前に着地するように滑る。

 エリシアが驚きの声を上げる。


「えっ、下りてきた!?」

「わぁいっ! かっこいいカブトムシさん、こんにちは!」

「やあ、可愛いエルフの娘さん」

「は、話せるんですか!?」

「ほっほっ、これは驚きじゃのぅ」


 珍しくエリシアが大きく動揺している。

 無理もない――モーゼフも驚いた。

 まさか、こんなところで出会えるとは――


「ふふふっ、驚いているようだね、大きなエルフのお嬢さん。わたくしの名はガーラント。《ユグドラシル》の番人の一体だよ」


 そう、大きなカブトムシ――ガーラントは言い放ったのだった。

四作まで連載を増やしましたが、書く意欲は溢れているのでこちらもペースを上げられたら上げたいと思っています。

大体二千字くらいだと書きやすいんですが、少し短いでしょうか?

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