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83.エルフとドラゴンと吸血鬼と

「ふん、ふーん」


 鼻歌交じりに、ナリアが都を歩く。

 嬉しそうにしながら、散歩を楽しんでいた。


「はやくーっ、こっちっ!」

「ああ」

「やれやれ、忙しない事だ」


 その後方――少し離れたところにはヴォルボラとウィンガルがいた。

 モーゼフとエリシアが戻ってくるまで、ナリアの面倒は二人が見る事になる。


「なぜお前とこんな事を……」

「仕方ないだろう。私も同じ気持ちではあるよ」


 二人の仲は――それほど良くはない。

 吸血鬼とドラゴンという種族の違いが大きいのかもしれない。

 ただ、ナリアの前だから表立って争うような事はしない。

 ヴォルボラとウィンガルはどちらも、エリシアとナリアが悲しむ事を良しとしないからだ。

 ヴォルボラが早足になってナリアの下へと向かう。

 そして、ナリアの首根っこを掴んで持ち上げた。


「あまり先を行くな」

「はーい」


 そのままひょいっとヴォルボラはナリアを肩車する形になる。

 放っておけばどこに行くか分からない――そんな気持ちもあったのだろう。


「その子はしっかりしている。そんな心配はいらないさ」

「利いた風な事を言うな」


 少しの事でも、そんな風な会話が始まってしまう。

 だが、


「二人とも、どうして睨み合ってるの?」

「睨んでなどいない」

「ああ、私達は仲良しだからね」


 ふふふっ、と静かな笑みを浮かべて二人が答える。

 ナリアも二人の様子を見て頷いた。


「うんっ! 二人ともなかよしっ!」

「……ふんっ」

「……やれやれ」


 ナリアにそう言われた以上――そうするしかないと考える二人。

 互いに利害は一致している。

 だからこそ、必要以上に争うような事はなかった。

 ヴォルボラはエリシア寄りで、ウィンガルはナリア寄りというちょっとした違いはあるが。

 しばらく王都を歩いていると、だんだんと人が増えてくる。

 場所にもよるが、王都の中は基本的に混雑している。

 特に市場が近くになるとそうだ――それは、ウィンガルがよく理解していた。


「あれなにかなっ!」

「あ、待て!」


 ナリアがぴょんっと飛びおりると、何かを見つけたと人混みの中に入ってしまう。

 小さいから、するすると人にぶつかる事なく進んでいく。


「ちっ、うっとしい人混みだ。全て吹き飛ばしたくなる」

「あなたが言うと冗談に聞こえないよ」


 そうウィンガルが言うと、足元にうっすらと白い霧が現れる。

 人の目から見ればほとんど見えないほどのものだが、それが人々の足元を伝っていく。


「私が彼女を見失う事はない。心配する必要はないさ」

「お前が信用ならないだけだ」

「ははっ、それは仕方ない事だね」


 ヴォルボラはそう言って、ナリアの後を追いかける。

 そのとき、ナリアが慌てた様子で戻ってきた。

 珍しく慌てたような表情なので、ヴォルボラも少し驚く。


「どうした?」

「なんか、人の物を盗んでる人がいたの」

「盗み?」

「泥棒、あるいはスリという奴かな」


 ナリアが見かけたのは、どうやら盗人のようだった。

 だが、二人はそれを言われたところで動じない。

 これだけの人混みであればそれくらいの事をする人間もいるだろう、その程度の感覚だった。


「ど、どうしたらいいの?」


 そんな二人に対して、ナリアが不安そうに聞いてくる。

 きっとどうにかしたいという気持ちがあるのだろう。

 ヴォルボラとウィンガルが視線を合わせる。

 やるべき事は決まった、と二人は頷いた。


「盗んだところは見たのか?」

「うん、わたしの前で取ってた!」

「ナリアが小さいから、気付かなかったのかもしれないね」

「見た目で分かるか?」

「顔は見たよっ」

「それなら――」


 ヴォルボラがナリアを再び肩車する。

 ヴォルボラの身長は低めで、人混みの中でナリアを肩車しても微妙なくらいだった。

 それでも、ナリアが身体を伸ばして必死に確認する。


「分かりそうか?」

「うーん……あの人、かも?」


 ナリアが指差した先――ヴォルボラも人混みの間から見る。

周囲を確認するように歩く男がいた。

 その動きは怪しげで確かに何かをしようという動きをしている。


「だが……ここからでは目立つな」


 ヴォルボラが動くにはやはり、人混みが邪魔だった。

 捕らえる事は難しい話ではないが、目立つのもあまり良い事ではない。

 そんな中、その隣にいるウィンガルが動く。


「私が行こう」


 そう答えると、すっと忽然とその場から姿を消す。

 周囲の者達は気付けない。

 ウィンガルが霧化した状態で、人混みの中を移動していたのだ。

 そうして怪しげな男が、すれ違う人へと手を伸ばした時――


「なるほど、ナリアはよく見ているようだね」

「なっ!?」


 怪しげな男の腕を掴み、ウィンガルが足元を払う。

 それだけで、男はその場で転んでしまう。

 男が盗んだ物が一気に、その場にまき散らされた。

 それを確認したウィンガルは、再び霧化してナリア達のところへと戻る。


「これで良かったかな?」


 気付けば男がいた周辺はざわつき、近くにいた騎士がその場へと駆けつける。

 誰も、ウィンガルの存在には気付いていなかった。


「すごいっ、ウィンガルがやったの?」

「特に何をしたというわけではないけどね」


 そう言って答えるウィンガルに、ヴォルボラも素直に感心した。


「思った以上にスマートだったな」

「まさかスリを捕まえるような事をするとは思わなかったよ」


 それはそうだろう――二人にとって、人間達の行動など気にもならないのだから。

 けれど、ナリアが協力してくれた事に喜んでいた。


「二人ともありがとっ」

「ああ」

「別に構わないさ」

「ところで、ナリアは何を見に行ったんだ?」

「あれ、何だっけ……」


 誰も気づかないような犯罪行為を止めた三人だったが、何事もなかったかのように再び王都を歩き始める。

 ヴォルボラとウィンガルの仲も多少は――深まったのかもしれない。

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