8.やってきたもの
《マファ渓谷》と呼ばれる場所は自然の恵みにあふれている。
モーゼフ達が旅立って三日目、遊んでいた川をさらに下ってここまでやってきた。
エリシア自身、目指している町について詳しいわけではないらしい。
モーゼフもかつて暮らしていた大陸とは違う場所であるため、この付近に詳しいわけではなかった。
今は、モーゼフが遥か上空から先の方を見据えている。
ナリアを肩車する形だった。
「たかーい!」
「そうじゃのぅ」
「町はどこ?」
「うーむ、あれじゃないか」
指した方向には森が広がる。
さらにその先、森が開けたところに何かあるのが見えた。
この距離ならば、今日中にはつけるだろう。
モーゼフは地上へと落下する。
「どうでしたか?」
「うむ、このまま進めば数時間もたたんうちに着くじゃろう」
三人は森の中を進み始める。
相変わらずエリシアの狩りの練習は続いていた。
元々エリシアやモーゼフがいた森は人里がほとんどない森に囲まれていたが、強い魔物というのも少なかった。
魔物達にとっても高低差のある地は住みにくかったのだろう。
あるいは、そもそもそういう地域だからこそ、発展もせずに森が残っているのかもしれない。
「ここまで来られたのもモーゼフ様のおかげです」
「ほほっ、まだ着いとらんぞ」
「はいっ、油断はしません」
エリシアは言葉通り、常に警戒は怠らない。
森の暮らしで身体能力も高くなっているらしい。
木の上に登ることも苦としていなかった。
一方――
「モーゼフ、あれなぁに?」
「なんじゃろうな。木の実のようじゃが」
ナリアは相変わらずモーゼフの上にいる。
たまに降りては付近を探索するが、気がつけばまたモーゼフの上に乗る。
どうやらお気に入りの場所らしかった。
「たべてもいーい?」
「うーむ、そうじゃのぅ」
リッチになってからは食に関しては疎い。
匂いや噛んだ味で判断できていたのだが、今はそれはできない。
「エリシア! お前さんは分かるかの?」
木の上にいたエリシアに声をかける。
こちらを見たので、先にある赤い木の実を指差した。
エリシアはそれを確認すると、両手で丸をつくる。
どうやら食べてもいいらしい。
「わーいっ」
「じゃあ取りに行くかの」
ふわりとモーゼフが宙に浮かぶ。
ナリアが木の実を掴むと、そのまま口に頬張った。
「んー、あまい!」
「ほっほっ、それはよかったのぅ」
「おねえちゃんの分もとっていこっ」
「そうしたらいい」
そんな和やかムードの二人だったが、ふと後方のエシリアが地上へと飛び降りた。
何かがこちらにやってくる、というのもモーゼフは感じている。
「なんかこわいのきた……」
「あれは……」
本来、この付近ではいるはずのない魔物――三種の魔物が融合したキメラがその姿を現したのだった。
スマホからなので少し短めかもしれません!