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79.新たな仲間

 モーゼフが戦った場所には多くの人々が集まり始めていた。

 実際、ゼイルが出現した後にこの付近は結界で覆われていた。

 中に巻き込まれた者もいただろう。

 その人々も含めて、ウィンガルが結界で守っていた。

 場合によってはすべてモーゼフ一人で行うつもりだったが、ウィンガルがいたので大分楽になった。

 ユースやグロウ、そしてフィールはその場に残り、騎士達や冒険者達とその場の対応を行っていた。

 フィールはまだ怪我の具合は浅かったが、ユースやグロウはかなりの深手だったはずだ。

 それでも、治療を受けながらもその場に残るのはさすがといったところだった。

 モーゼフは、怪我をしたヴォルボラを治療するために宿に戻っていた。

 表立って、モーゼフが何かしたという事実は公表されない事になっている。

 元々目立つつもりもない。

 王都に平和が訪れるのならば、それでユースへの借りは返した事になるだろう。


「一先ずはこのまま安静にしているといい」

「ああ」


 ヴォルボラは少し不機嫌そうに答えた。

 その原因はモーゼフにも分かる。

 エリシアとナリアだけでなく、この部屋にいるもう一人の人物――ウィンガルだ。

 ヴォルボラが少し敵意を出してしまうのも無理はない。

 ウィンガルは、ゼイルと同じ吸血鬼なのだから。

 ヴォルボラにもそれは分かってしまうのだろう。

 ウィンガルは肩を竦める。


「やれやれ、嫌われたものだ」

「あの、ヴォルボラ様。ウィンガルさんは、その、私達を守ってくれたんです。だから……」

「分かっている。その点については、感謝している。本当なら、我がお前達を守らなければならなかった」


 そう言いながら、ヴォルボラの尻尾が少しだけ項垂れた。

 ヴォルボラが苛立ちを見せたのは、ウィンガルとモーゼフがいなければ二人を守れなかったという事実に対してだろう。

 実際のところ、ヴォルボラがドラゴンの状態であったのならば、ゼイルにも遅れを取るような事はなかったとモーゼフは考えている。


「お前さんのおかげで吸血鬼は倒せた。今はそれでよいではないか」

「そうですっ。ヴォルボラ様のおかげですから」

「……ふん」


 ヴォルボラはすっとそのまま横になる。

 あまり言っても聞かないだろうと思ったが、エリシアに言われると嬉しいらしい。

 先ほどに比べると尻尾は少し振れていた。

 ナリアはまだ本調子には戻っておらず、モーゼフの部屋のベッドで休ませている。

 それに、エリシアの方も問題はあった。


「エリシア、調子はどうじゃ?」

「いえ、特に悪いという事はないですが……視界がちょっと……」


 エリシアの瞳の色は、左目だけが赤くなっていた。

 二度に渡る吸血鬼との接触と、それによる危機感――それがエリシアの中に眠る魔族の血を目覚めさせたのかもしれない。

 大きな変化はないとエリシアは思っているようだが、モーゼフには分かる。

 エリシアの魔力の質が、若干だが変化しているという事を。

 だが、その事をエシリアにはまだ伝えるつもりはなかった。

 今のエリシアに話すような事でもないからだ。

 モーゼフはエリシアの傍に立つと、優しく頬に触れる。


「モーゼフ様……?」

「少し目を瞑っていなさい」

「……は、はい」


 モーゼフの言う通り、エリシアは目を瞑る。

 モーゼフの手には、小さな魔法陣が出現していた。

 それがエリシアの頬に触れると、刻印のように刻まれて、やがて見えなくなった。


「目を開けてみなさい。どうじゃ、視界のほうは」

「あ、もう大丈夫そうです。モーゼフ様が治してくださったんですか?」

「ほっほっ、その通りじゃよ」

「あ、ありがとうございます」


 モーゼフは笑顔で頷いた。

 実際には治したわけではない。

 エリシアの目覚めた力の一部を封印したに過ぎない。

 何かのきっかけでまた目覚めてしまう可能性は十分にある。


(一先ずは様子見といったところじゃの)

「さ、エリシアはナリアの傍にいてやりなさい」

「そうさせてもらいます。あの、モーゼフ様。それに、ヴォルボラ様にウィンガルさんも。ありがとうございましたっ」


 エリシアが頭を下げて、部屋を後にする。

 その場に残ったのは眠りについたヴォルボラと、吸血鬼のウィンガルだった。

 モーゼフは椅子に腰かけると、静かにウィンガルに語りかける。


「ゼイルは友だったのか?」

「いや、違うが」


 ウィンガルの即答に、モーゼフは少し驚く。

 ウィンガルは笑いながら答える。


「彼の口癖だ。サプライズが好きだというのがね。私の友を名乗るのが最後に彼が残したサプライズなのだろう。後で私が否定する事も含めてね」

「ほっほっ、中々面白い男じゃな」

「ああ、そういう奴だよ、彼は」


 ウィンガルもモーゼフの正面の椅子に腰かける。


「ゼイルの妹達――あれらはゼイルがいなくなった事にも気づいているだろう」

「そうじゃの。だが、襲ってくる可能性は低いと考えているが」

「それは正しい。勝てない相手がいるところに突っ込むほど愚かではないよ。それに、彼女達も兄に救われたという事実には気づいている。それを無駄にはしないだろう」

「そうか」

「ゼイルが捕らえた者達は私が解放しよう」

「できるのか?」

「吸血鬼には吸血鬼の決まり――いや、癖みたいなものがあってね。私が保管庫にしていた場所をきっとそのまま使っているだろう。すでに、この王都も含めて私の支配下にある事になる」


 支配下――元々ウィンガルが支配していた地域という事だろう。

 《霧界王》と、ゼイルは呼んでいた。

 ウィンガルの事を詳しく知っているわけではないが、モーゼフにも一人だけ吸血鬼の知り合いがいる。

 その者も同じように、王を冠する名を持つ者だった。

 そして、吸血鬼は縄張りを持つ限りそこに侵攻する事はほとんどないという。

 力の差というのがそのまま権力差のようになっているのだ。


「ウィンガル、お前さんはこれからどうする?」

「これからというのは、もう一度あなたと雌雄を決するかどうか、という事かな?」


 冗談めかしたように言うウィンガルに、モーゼフも笑いながら答える。


「ほっほっ、それでも構わんが、お前さんもまだ消えたくはないじゃろう」

「ははっ、そうくるか。確かに、あなたとまともに戦えば私は消滅するだろうね。そう感じたよ」


 ウィンガルは、素直にモーゼフに負けを認める。

 封印された時点で、ウィンガルは負けを認めてはいたが。

 ウィンガルが窓の外を見る。

 モーゼフも同じ表を見た。

 離れた場所には、人々が集まっているのがまだ見える。


「私は別にどこにいても支配する地域は変わらない。つまり、どこにいるのも私の自由だ」

「そうじゃな」

「あの子達と、私も共にいたいと思う」

「ほっほっ、そうか」

「……拒否はしないのか?」

「わしがする事ではない。エリシアとナリアがどう思うか、じゃ。あの二人が嫌がると思うか? のう、ヴォルボラ」

「……ふん。エリシアがいいと言うのならば、勝手にいればいい」


 話を振られたヴォルボラは、モーゼフとウィンガルの会話に聞く耳を立てていたのだろう。 

 すぐに返事が返ってきた。


「感謝する」


 吸血鬼――ウィンガルは正式に同行する事になった。

 お守りとしてではなく、吸血鬼として二人を守るという事だ。


「だが、お前のような男を近くにおいておくのは正直心配だがな」


 ヴォルボラが身体を起こしてウィンガルを見る。

 実際、はだけた服装をしているウィンガルは二人に対してはあまりいい影響を与えないかもしれないという心配はあった。

 だが、ウィンガルはヴォルボラの言葉を聞いて静かに笑う。


「ふっ、それならば――」


 ウィンガルの身体が霧に包まれる。

 そして、次に出てきたウィンガルの姿は少し――いやかなり変化していた。

 長くなった金髪に、赤い瞳をそのままに幼い姿となっていたのだ。

 見た目だけで言えば女の子のようだが――


「性別までは変わっていないよ。吸血鬼である事を隠した状態だとこうなる」

「これはまた予想外じゃの」

「……まあ、その見た目ならばいい」


 ウィンガルの大人の状態よりはいいと判断したのか、ヴォルボラはすっとまた横になった。

 幼くなったウィンガルは、仕草も少しだけ子供らしくなっている。

 声も大分違うが、それでも話し方自体は変わっていない。


「ま、これからよろしく頼むよ」

「うむ、よろしくの」


 吸血鬼にドラゴン――そしてリッチのいる異色な部屋の一日は、こうして幕を閉じた。

新作の投稿も始めましたが、今の二日~三日に一度の投稿は維持していきたいと思います。


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