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74.王都でお買い物

 王都に戻ると、モーゼフとエリシアは色々と店を回っていた。

 フラフの町では見られないような品ぞろえが数多く存在している。

 珍しく、エリシアが目移りをしているくらいだ。


「何かほしい物でもあるかの?」

「ナリアとヴォルボラ様に何か買っていこうかと思って」

「ほっほっ、それはいい考えじゃのぅ。わしも何か買っていくとしよう」

「はいっ」


 エリシアやナリアのように辺境からやってきた者ならば、地方の特産物よりも王都付近でしか買えないような物の方がいいだろう。

 ナリアなら何でも喜びそうな気もするが、エリシアは真剣に選んでいた。

 装飾品を取り扱う出店で足を止め、二人で商品を見定める。


「うーん、どれがいいと思いますか?」

「これはどうじゃ」


 モーゼフが指差したのは青色の宝石が目立つ首飾りだった。

 だが、エリシアは悩んだような表情で首をかしげる。


「首飾りはモーゼフ様からいただいた物をかなり気に入っているようですし……」

「あれか」


 気に入っているならいいが、あれは飾りではなく正真正銘のお守りとして機能している物である。

 その正体を知る者はほとんどいない事になるが。


「ナリアが特別好きな物は何かあるかの?」

「好きな物ですか? あの子は何でも気に入りますから……」


 よく言えば、好き嫌いがないという事だ。

 実際、ナリアが嫌がるところはほとんどみない。

 女の子が嫌がりそうな虫ですら喜んで掴むような子だ。

 ただ、自身に危機が迫るような事に対しては、嫌がる素振りを見せる事はある。

 あえて嫌いな物を探すような事はしないが、何でも喜ぶというのは逆に難しいものであった。

 モーゼフはしばらく店の物を見渡したあとに、一つを手に取った。

 花をモチーフにした髪飾りで、色違いでセットになっている。


「これはどうじゃ?」

「髪飾りですか。可愛いデザインですし、いいですねっ」

「そちらでよろしいでしょうか?」


 店主に声を掛けられて、二人は頷く。

 エリシアも見て納得したようだった。

 モーゼフとエリシアはこれをナリアのプレゼントに決める。

 モーゼフが懐からお金を出して支払おうとすると、


「あ、これはナリアへのプレゼントですから、私が払いますよ」

「ほっほっ、よいよい。わしに金の使い道はないんじゃから」

「ですが……」

「気にしなくてもよい。お前さんは遠慮しがちだと言っておるじゃろう」

「そう、ですね。ありがとうございます」


 こういうやり取りは定期的に発生する。

 エリシアの律義な性格がよく出ているが、モーゼフからするとそこまで気にするような話ではなかった。

 すでにお金の使い道はモーゼフには存在していない。

 むしろ、使い道があるとすればエリシアやナリアのために使うくらいしかなかった。

 モーゼフも何でもかんでも買い与えるような事はするつもりはなかったが、エリシアが想像以上に遠慮しがちなため、結局モーゼフが押しているような形になってしまっている。

 モーゼフは店主から買い取った髪飾りを受け取ると、それを右手に乗せた。

 そして左手で覆うようにして、しばらくの間沈黙する。


「……? モーゼフ様、どうされましたか?」

「いや、ちょっとしたまじないのようなものじゃ。どれ、これはお前さんに付けてやろう」

「え? わ、私ですか?」

「何のためにペアの物を買ったと思っておる。わしが付けるためではないぞ?」


 モーゼフが笑いながらそう言って、エリシアの髪に付けてやる。

 銀色の髪に花の形をした飾りはよく似合っていた。

 モーゼフはうんうんと頷く。


「ほっほっ、また一段と可愛らしくなったの」

「……っ! そ、そういう事はその、あまり人前では……」


 エリシアは今までにないくらい、耳まで赤く染めて恥かしそうに俯く。

 そのまま、顔を手で隠してしまうほどだった。

 エリシアは『可愛い』というような直接的に褒められる事はあまり得意としていない。

 ナリアに言われても平気なのはやはり姉妹というところもあるのだろう。

 パタパタと手で顔を仰ぎながら、エリシアが前を歩く。

 やはり周囲の人々からは目立つようだったが、エリシアはもう気にしていないようだった。

 むしろ、銀髪の毛先を確認しては、時折嬉しそうな表情を浮かべる。


(良い傾向じゃな)


 モーゼフもそれを見て、笑顔を浮かべた。

 ヴォルボラへのプレゼントは宿へ戻る途中に見つけた服屋で見つけた花柄のワンピースだった。

 花柄にしたのは、きっとヴォルボラが喜ぶだろうとエリシアに口添えしたからである。

 ちょうど、エリシアとナリアが付けている髪飾りに似ている花だった。


「宿へ戻るならこちらの方が近道かの」

「そうですね、行きましょうっ」


 建物と建物の間――少し狭い路地に入ったとき、後ろからふと声をかけられる。


「よぉ、中々羽振りがいいみたいじゃねえの。爺さん」

「え――」


 エリシアが振り返ろうとするのを、モーゼフが制止する。

 エリシアを庇う様に、モーゼフは自身の身体で隠した。

 振り返らないまま、モーゼフが答える。


「ほほっ、それほど持ち合わせはないぞ。今の買い物でほとんどなくなってしまってな」


 もちろん、そんな事はない。

 ただ、後ろから聞こえてきたのは笑い声だった。

 三人――いや、四人の男達がいる。


「だったらその買った物だけでも置いていってくれよ。ついでに銀髪のかわい子ちゃんもさ」

「……っ」


 銀髪の、というので自分の事だと理解したのだろう。

 エリシアが少し肩を振るわせる。

 そのとき、カチャリと奇妙な音が周囲に響いた。


「あ? 何だ、今の音」


 一人の男が気付いたようだったが、他の男達は気付いていない。

 モーゼフが振り返らないまま、その様子を笑った。


「ほっほっ」

「何がおかしいんだ、爺さんよ?」

「いやなに。爺さん、爺さんと言うがの――わしのどこを見てそう言っているんじゃ」


 パサリとフードを下ろして、モーゼフが振り返る。

 身体はそのままに、頭だけが後ろを向く形だった。

 そして、その顔は骸骨になっている。


「あ――で、出たああああっ!?」

「ば、化物だぁっ!」

「ひぃいいっ!」


 男達はひっくり返るように驚いて、一目散にその場を去っていく。

 モーゼフはカタカタと骨を鳴らしながら笑った。


「ほっほっほっ、どこにでもああいう輩はいるからの、いい薬にはなったじゃろう。エリシア、気を付けるんじゃよ」

「は、はいっ。えっと、でも、そのお姿を見せてしまっても大丈夫だったんですか?」

「なぁに、心配はいらん。王都のど真ん中で歩く骸骨に出会ったなど、誰も信じないからの。アンデッド慣れもしておらんのじゃろう」

「ア、アンデッド慣れ、ですか? ふふっ、そんな言葉初めて聞きました」

「お、そうかの? わしの中では結構メジャーな言葉なんじゃが」


 エリシアは振り返ると、笑ったからなのか、少しだけ目に溜まった涙をぬぐう。

 そして、嬉しそうに微笑みながら言った。


「ありがとうございます。私なんかのために姿をお見せにまでなられて」

「――ほっ、よいよい」


 気付かれていた事に、モーゼフが少しだけ驚いた。

 わざわざ骸骨の姿を見せなくても、追い払う方法はいくらでもあった。

 モーゼフが骨の姿を見せるときに、骨をすり合わせて音を鳴らす――これは珍しくモーゼフが怒っているときの証だった。

 モーゼフ自身も気付いていない癖なのである。

 モーゼフはすぐに老人の姿に戻ると、今度はエリシアの肩に手を置いたまま歩く事にする。


「ここではあまり離れないようにしよう」

「……はいっ」


 エリシアも頷いて、一緒に歩き出した。

 宿に戻るまでに、エリシアは随分とご機嫌になっていた。

 部屋のドアを開けたとき、猫真似声をしながらヴォルボラにお腹を撫でられているナリアを見てしまうまでは。

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