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66.銀色の髪

 モーゼフはエリシア達を連れて教会へとやってきていた。

 王都内にはいくつか教会があってどこにいるか分からないが、一先ずは近場にある教会から当たっていた。

 そこで得た情報によると、聖女――フィールがいるのは騎士学校のすぐ近くにある教会ということだった。

 王都を見回りながら、教会まで歩いて向かう。


「フィール元気かな?」

「ふふっ、きっと元気よ」

「あの娘か……」


 エリシアとナリアは楽しみにしているようだが、ヴォルボラは少し落ち着かない様子だった。

 フィールのことが苦手というわけではないだろうが、少し敵視している部分がある。

 表立ってそれを出さないようにするために、ヴォルボラは少し離れたところを歩いていた。

 そこにモーゼフが近づいていく。


「元気がないようじゃな」

「そう見えるか?」

「ほっほっ、お前さんも仲良くなれると思うがの」

「ふん、興味ないな。我はエリシアがいればいい」

「それではナリアはどうなる?」

「……エリシアとナリア、だ」


 ふいと視線を逸らしながらそう呟く。

 ヴォルボラは軽く咳払いをすると、


「そんなことより、我に用があるのだろう?」

「ほっほっ、分かるかの?」

「お前の雰囲気で何となくだがな」

「そうか。ならば本題から言わせてもらうぞ。わしはお前さんに囮を頼みたいと思っておる」

「……囮? 吸血鬼の話か」

「そこも聞いておったのか?」

「いや、馬車で少し話していただろう。ユースだか忘れたが……」


 忘れたと言いつつも、名前自体はしっかり合っている。

 モーゼフは頷いて話を続ける。

 ユースと話したことについてだ。

 仮想敵である吸血鬼達の動向から察するに、高い魔力を持つ者を狙う傾向にある。

 ヴォルボラは高い魔力を隠し切れていない。

 おそらく、すでに存在についても認識されているだろう。


「……なるほど、我を餌にその吸血鬼共を呼び込むと」

「そういう事になる」


 モーゼフが頷くと、ヴォルボラはちらりとモーゼフを見た。

 そして少しだけ驚いた表情をすると、


「なんだ、そういう顔もできるんだな」


 ヴォルボラはにやりと笑う。

 モーゼフ自身は意識していないが、幻覚魔法の表情は作る表情ではなく自然体のものだ。

 すっと袖で顔を隠すと、モーゼフはいつもの優しい老人の表情に戻る。


「ほっほっ、顔には出やすいタイプでのぅ」

「……別に囮になるのは構わない。ついでに、その吸血鬼とやらを倒してやろうか?」

「ほっほっ、そうしてもらえると助かるがのぅ。何せ隠れるのが上手い連中じゃ」

「強い者は目立つだけが強さではないからな。だが、エリシアが安全に王都を回れるようにするには、そいつらは邪魔だ」

「相変わらずエリシア一筋じゃのぅ」

「……悪いか?」

「悪いことなどあるものか。元々、わしがお前さんとエリシアを会わせたんじゃからの」

「その点については感謝している」


 腰が少し揺れているように見えるのは、尻尾が揺れているからだろう。

 ヴォルボラは高圧的に見えるが、慣れた相手には基本的に素直だ。

 モーゼフに対しても敵意をむき出しにするようなことはない。

 モーゼフとヴォルボラが話をしていると、ちらりとエリシアがこちらを覗き見ている。

 どうやら会話の内容が気になるようだった。

 聞く耳を立てようかどうか――そんなことを悩んでいるかのように、耳が少し動いている。


「エリシア」

「は、はいっ? なんでしょうか」


 モーゼフが声をかけると、不意に呼ばれたことに驚いたのか、少し上擦った声で答える。

 それが恥ずかしかったのか、少しだけ顔が赤い。


「お前さんにも後で話しておくことがある」

「私に、ですか?」

「うむ」

「い、今でも構わないですけど……」

「ほっほっ、そんなに焦るような話ではない」

「そう、ですか」


 しゅんと俯いてしまうエリシア。

 エリシアは王都に来てから少し落ち着かない様子が目立った。

 気にしないようにしているようだが、やはり周囲の視線というのも気になるのだろう。

 ナリアは特に気にしていないようだが、エリシアは年齢的にも気になってしまうのは仕方ない。

 モーゼフはエリシアの後ろに立つと、優しく髪を撫でる。


「モーゼフ様?」

「お前さんの髪はとても綺麗な色をしておる」

「えっ!? な、そ、そうですか?」


 火がついたように赤くなったエリシアに、モーゼフは笑いながら続ける。


「ほほっ、《銀色の狼》を知っておるかの?」

「ぎ、銀色の狼? 聞いたことはないですが……」

魔狼フェンリル――灰色の毛並みを持つ狼の王者が銀色の輝かしい体毛を持つ。孤高の王は何よりも美しいと評判じゃ」


 どこで評判なのか、ということは置いておく。

 エリシアも褒められたことが嬉しいのか、耳まで真っ赤にして話を聞いている。

 銀色の髪はエルフにとって災いをもたらす者と呼ばれる。

 モーゼフはそのことを否定するつもりはなかった。

 それがエルフの教えであり、生き方だとすれば介入するようなことはないと。

 けれど、エリシアがそれを気にするのならば、できるだけそれを誇れるような言葉に変えよう。


「わしはお前さんの髪はそういうものじゃと思っておる」

「それ褒めているのか?」

「わしは褒めているつもりだが」


 ヴォルボラの突っ込みに即答するモーゼフ。


「そ、そんな大それたものじゃない、ですよ」

「おねえちゃんは狼さんなの?」


 話を聞いていたナリアが、不意にそんなことを口にした。

 モーゼフは同じようにナリアの髪を撫でてやる。


「ほほっ、そうじゃの。ナリアの髪も狼と一緒じゃのぅ」

「わたしも狼さんだーっ! がおーっ!」

「出たな、フェンリル。がおーっ」

「おお、食べられてしまうわい」

「ふふっ、モーゼフ様にヴォルボラ様まで……」


 犬歯を出して声を出すナリアに対して、ヴォルボラも同じようなポーズで威嚇のようなことをする。

 ナリアはいつでも自然体でいる。

 エリシアくらいになればそうは言っていられないかもしれないが、先ほどに比べると幾分か和らいだ表情になっていた。


「モーゼフ様、お話しは後で聞かせてくださいね」

「うむ」


 少し話をずらしてしまったことはずるいことかもしれない。

 けれど、モーゼフはエリシアが気にしないように努力をしていたことには気づいていた。

 

(わしの言葉がプラスになればよいがの)


 そうして、しばらく歩いているうちに教会まで辿りつく。

 その教会の前に、モーゼフは見知った姿を見た。

 鎧を着ているわけでもなく、シャツに黒い上着を羽織った筋肉質な男――


「ここにお前さんがいるということは、フィールもここにおるということかの」

「おう、久しぶり――でもねえか。よく来たな」


 騎士、グロウは軽く手を振って挨拶をする。

 モーゼフ達が来るのが分かっていたかのような態度だった。

 そして、それは後からやってくる少女も同じだった。


「お待ちしておりました。みなさん、お久しぶり――でもないですね」

「オレと同じこと言うのかよ」

「う、うるさいですね」

「フィール、こんにちはっ!」

「はい、こんにちは」


 ナリアが元気よく挨拶すると、それにフィールは頷いて応える。


「フィールさん、お元気そうでよかったです」

「エリシアさんも、お元気そうでなによりです。一先ずは中へどうぞ」


 エリシアの言葉に、フィールは笑顔で頷く。

 以前出会ったときとは違い、青を基調としたワンピースを着て、長い髪は結う様にしていた。

 そして思っていたよりも小さな教会の中へ、モーゼフ達は案内されたのだった。

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