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64.見合ったやり方

 エリシア達には王都を観光してくるように伝え、モーゼフとユースは宿に残った。

 宿だけでもフラフの町にある建物と比べれば大きく、数十人と宿泊できるようになっていた。

 宿泊代もそれなりにかかるところだが、ここはユースがすでに支払ってくれている。

 後ほどエリシア達には合流するように伝えているが、去り際に何度かこちらを振り返っていたところを見ると、やはり心配しているようだった。

 なるべく急いで合流しよう、モーゼフはそう決意する。


「さて、具体的な話を聞くとしようかの」

「ああ。具体的と言っても、最近この王都で起こっている事件のことだ」

「事件か。これだけの広さならばその分、犯罪も多くなると思うが」


 モーゼフの言葉に、ユースは頷く。

 王都は広い――全員が全員善人というわけにはいかないのだ。

 何をもって善とし、悪とするかは人それぞれだろうが。


「もちろん、そういうところは王都の騎士や冒険者も協力している。ただ、一つだけ共通している事件が問題だ」

「共通?」

「人が消える。それも人混みの中でも起こっている」

「ほう」


 ユースがテーブルに王都の地図を広げ、事件の起こった個所や日時をモーゼフに伝える。

 頻度としてはそれほど多くないが、最大で二か所同時に事件が起こっている日もあった。

 それを聞いて、モーゼフはすぐに理解する。

 やはり、予測は当たっていたのだと。


「――吸血鬼か」

「察しがいいな。その通りだ」

「ふむ……ここ最近の出来事ということか?」

「どちらかと言うと、王都以外の場所では定期的に発生していた事件だ。吸血鬼というのはどこにでも現れる。対応するのははっきり言って難しい。ただ、ここまで集中して起こったことは今までにない」


 それを聞いて、モーゼフは考える。

 王都以外での行方不明事件――その犯人はおそらく吸血鬼のウィンガルだ。

 各地を転々として、エリシアとナリアのところまで辿りついた男。

 実力から察するに、ウィンガルは吸血鬼の中でも上位の個体――《王》と呼ばれる部類に該当する。

 魔族の中でもそう呼ばれる者達は、支配者クラスとも呼ばれ非常に強い力を持つ。

 ウィンガルが眷属を従えていたところを見ても、その実力は明白だ。

 そこから導き出される結論は、ウィンガルがいなくなったからということ。


「わしの推測だが、この地域を縄張りとしていた吸血鬼が変わったからじゃろうな。王都に集中し始めたのは」

「変わった、か。以前タタルの方面に吸血鬼が出て、それを魔導師が討伐したという話はあったが……」


 ちらりとユースがモーゼフを見る。

 モーゼフはいつも通りの変わらぬ笑顔で、


「ほっほっ、わしが倒した」

「……だろうな。そんなことをできるのは」


 ふう、とユースが小さくため息をつく。


「それが原因だとしても、あなたはむしろ称えられるべきことをしたのだから……何も言えないのがまた、な」

「ほっ、称えられるようなことではないがの。とはいえ、わしに責任の一端がないわけではない」


 別の吸血鬼が支配者のいない地にやってくる――その可能性は十分にあった。

 だから、モーゼフはフラフを中心に広い結界を張り、守護者として居座ったのだから。

 吸血鬼はそれを見たのか分からないが、人の多い王都を選んだようだ。

 いかに吸血鬼と言えど、人の多い王都ではそれなりの危険が伴う。

 実力者が集まっているのだから、見つかるリスクが増えるのだ。

 それでもここに集まってくるということは――


「単独ではなく、複数じゃな。二体――いや、おそらく三体はいるじゃろう」

「吸血鬼が三体、だと? 眷属ではなく?」

「あり得ない話ではない。現に、わしの知る限りでは《魔族連合》と呼ばれる存在もあったくらいじゃからな」


 魔族連合――吸血鬼に限らず強力な魔族達が集まった集団組織。

 目的はそれぞれだが、所属している者達は協力関係にあるということだけは分かっている。

 おそらく一国の戦力よりも上だ。

 モーゼフも何度か、そこに所属している魔族と戦ったことはある。

 絶対数が少ないということが救いだろう。


「今回の吸血鬼もその魔族連合とやらの可能性がある、と?」

「どうじゃろうな。ただ、戦力の分析はある程度できるぞ」

「分かるのか?」


 モーゼフは頷き、テーブルの上に宝石を三つ並べる。

 大きな物が一つと、それに追随するような小さい宝石が二つだ。


「一つは親玉。こやつはおそらく《王》と呼ばれる部類の吸血鬼で間違いないじゃろう」

「王か……残りの二人は?」

「いずれもそれに近しい存在だろうが、こちらが犯行をメインで行っていると考えられる」

「その根拠は?」

「ほっ、経験としか言えないが……王はあまり自らで行動はない。基本的には部下に任せて行動をする。狙った者については自身で動くこともあるから、同時に二か所で事件が起こった日があるのじゃろう」

「……ああ、オリハルコンの冒険者が行方不明になったと報告があったものだ」


 オリハルコンの冒険者が行方不明――それだけで大事件のはずだが、冒険者が姿をくらますことなどよくあることだと大きな問題にはならかったらしい。

 ユースが行方不明事件について情報を集めた結果、王都で起こっていることが分かってきたということだった。

 つまり、事件として扱われていないだけで王都には吸血鬼の侵攻が始まっていたことになる。


「では、犯行を主体で行っているのが二人というのは?」

「一体が隠密に特化して力を使い、一体が回収や戦闘を担当する。吸血鬼が二体いれば、いかに強大な探知の魔法を使っていたとしても分からんじゃろう」

「完全に出遅れた、ということか」

「いや、そうとも言い切れん。吸血鬼が起こした事件の数としてはかなり少ない。ある程度抑止力が働いているようじゃの」

「抑止力……聖女のことか」

「うむ」


 聖女――アンデッドだけでなく、吸血鬼などの魔族についても彼女の能力なら本来ならば見つけることができる。

 だが、この広い王都で吸血鬼が本気で身を隠せばその範疇にはならない。

 それを言えば、広い王都を選んだというのはある意味戦略としては正しいのかもしれない。

 眷属にするにでも食事をするにでも、王都には多くの人が集まってくるのだから。


「あくまで予測としてではあるが、仮想の敵は三体の吸血鬼としよう」

「分かった。だが、吸血鬼の強さも踏まえてどう攻略する?」

「ほっほっ、そこが問題じゃのう」

「正直、戦って勝利するだけでも難しい相手だが、見つけることすらもできないのではどうしようもないが……」

「見つける方法か。もちろん、もっとも簡単な方法は一つある」

「それはどういう?」


 ユースが問い返すと、モーゼフはちらりと外の方を見た。

 いつでも優しい笑顔を浮かべるモーゼフも、このときばかりは笑みを浮かべることはできなかった。


「――基本的な狩りの手法じゃよ。狙う相手に対して、ほしがりそうな餌を撒くことじゃ」


 それでも、モーゼフはその方法を口にした。

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