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6.町を目指して

「ふん、ふふーん」

「ほっほっ、ナリアは元気じゃのぅ」


 ナリアの鼻歌が骨の中で響く。

 モーゼフはナリアを肩車して森の中を歩いていた。

 エルフの姉妹と共に行く――そう決めてから旅立つまでは早かった。

 元々エリシアは準備できていたらしく、モーゼフに至っては特に持ち歩くものもない。

 骨身一つさえあればいいのだから。

 近場の町でも歩いて数日程度はかかる。

 モーゼフが飛べばすぐにでもつくかもしれないが、エリシアの経験のことも考えてまずは歩くことになった。

 ナリアはまだ幼く、長く歩かせるわけにはいかないとこうしてモーゼフが肩車をしている、

 最初はエリシアがおんぶすると言っていたが、それではエリシアの体力が持たないだろうと判断してのことだ。


「ごめんなさい、モーゼフ様。ナリア、ご迷惑をおかけしては……」

「いいんじゃよ。エリシアもよかったらしてやるぞい?」

「たのしいよっ」

「わ、私はそんなに子供じゃありませんから……」


 頬を赤く染めてエリシアは少し先に進む。

 エリシアは冒険者となるためにまず近くの町を目指すという。

 この付近――といっても歩けばそれなりにかかるだろうが、一応村は存在しているらしい。

 そこで、エリシアは冒険者に関する知識を得たとのことだった。

 モーゼフ自身、特別冒険者という職業をやったことがあるわけではない。

 ただ、実力のある冒険者であれば妹一人養っていくことは難しくはない。

 それでも、常に危険と隣合わせになってしまうが。

 それに、モーゼフには少し気がかりなことがあった。


「エリシア、お前さん――魔法は使えんのか?」

「魔法、ですか? そうですね……使ったことはないです」

「ふむ……」


 エリシアの言葉に、モーゼフは少し考える。

 エルフは高い魔力を保持し、魔法にも長けた種族のはず。

 おそらく、幼いうちから里を離れたエリシアとナリアは魔法について学んだことがないのだろう。

 モーゼフを狙った矢に魔法による効果が一切なかったから気になっていた。


「冒険者になるのならば、魔法は使えて損はないはずじゃ」

「でも……私は魔法なんて使えるかどうか……」

「ほっほっ、それならば問題ない。わし、こう見えても大賢者と呼ばれたこともあるからの」

「えっ、リッチじゃないの?」

「ほっほっ、今はリッチじゃよ。『ゆーふく』じゃ」

「『ゆーふく』わけてー」

「ほっほっ、欲張りじゃのぅ。ほら、一本やるぞい」


 モーゼフはまた、身体から一本の骨を取り出してナリアに渡す。

 相変わらずお金持ちとリッチをかけたまま、モーゼフとナリアの話は続いていた。

 エリシアはまた申し訳なさそうな顔で、


「ですが……モーゼフ様にそこまでしていただくのも……」

「言うたじゃろう、気にするな、と。お前さんが嫌というのならわしも無理にとは言わんが」

「いえ、むしろありがたいお話ですが、申し訳なくて」

「使えるものは死体でも使ったらいいんじゃ。ナリアの幸せを願うならの」


 モーゼフはそう言って、ナリアの頭を撫でる。

 エリシアも、笑顔で頷いた。

 モーゼフはナリアだけの幸せを考えているわけではない。

 エリシアも含めてそうなるべきだと考えている。

 今、こうして森の中を歩いているのも冒険者として生きていくと決めたエリシアのためだった。

 彼女もその予行練習として、常に魔物と戦う練習をしてきたという。

 森の中でも常に油断しないように進んでいた。

 ――ヒュンと風を切る音とともに、魔物を静かに射る。


「ほう、本当にうまいものじゃ」

「あ、ありがとうございます」

「わしを狙ったときも相当な腕前だとは思っておったが」

「あ、あのときは本当に申し訳なく……っ!」

「あっ、冗談じゃよ。すまん、すまん。そんな謝らなくてもいいぞ」


 アンデッドと妹が一緒にいれば、矢を放つのは当然だとモーゼフも思っていた。

 エリシアの弓の腕はたいしたもので、森の中でも遠くの魔物を射ることができる。

 ただ、相手が少し大型になるとどうしても仕留めるのは難しかった。

 やはり、魔法は必要になるだろう。

 森の中で倒せないレベルの相手はモーゼフが相手をした。

 実際には、相手にするというレベルにもならない。

 火球を飛ばせば、相手が灰になるまで燃やしつくす。

 氷を出せば、抵抗する間もなくその命を終える。

 この森において――否、この大陸においてもモーゼフを超える相手は存在しなかった。

 そうして町を目指してから数時間、元気だったナリアもだんだんと、うとうとし始めていた。


「モーゼフ、わたしねむくなってきちゃった……」

「それならば寝たらよい」

「うん……でも、寝るならお姉ちゃんの傍がいい」

「ナリア、ここではちょっと難しいから……もう少し我慢できない?」

「我慢する……」

「ほっほっ、ナリアは偉いのぅ。だが、今日中に森を抜けることはできん。休む時には休むべきじゃ」


 モーゼフはそう言って、草木の生える周辺に風を発生させる。

 それは周囲を休みやすいようにスペースを作り、木々はまるで意思があるかのように円陣を組み始めた。


「これは……?」

「地属性の魔法じゃよ。冒険者になるならこういうのが一番役に立つかもしれんの。さ、今日はここで休もう」

「おねえちゃん、だっこ」

「ほら、こっちにおいで。ごめんなさい、モーゼフ様。お手をわずらわせてしまって……」

「構わんぞ。わしが好きでやっていることじゃからな」


 植物の柔らかい椅子がエリシアとナリアを支える。

 エリシアも最初は困惑していたが、安心して眠るナリアを見ると、エリシアも同じように安心したのか眠りについた。


「ほほっ、二人ともまだまだ子供じゃの」


 そんな二人を見守りながら、モーゼフは周辺の警戒を怠らない。

 リッチになってからは眠る必要がなくなったモーゼフは、ただただ近づく者への警告として――二人を見守る暖かい雰囲気とはまったく正反対の鋭い殺気を周囲に送り続ける。

 それだけで、魔物達はこの木に囲まれた家に近づくことはなかった。

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