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57.ナリアと食材調達

 ナリアの母との記憶は、さらに幼かったときのことだ。

 思い出そうとしても、その記憶は曖昧なものである。

 けれど、母が旅立つ前のことは、今でも鮮明に覚えている。


「ナリア、顔をよく見せて」


 横になったまま、そう言う母にナリアは近寄る。

 その顔色は悪いことはナリアにも分かる。

 けれど、誰よりも優しい微笑みは、そんなことを感じさせないほどのものだった。


「なぁに、おかーさん?」


 ナリアは母の横に並び、頬をすり寄せる。

 エリシアはいつものように狩りに出ていていなかった。

 小屋のような家で母と二人でエリシアの帰りを待つ。


「私の可愛いナリア、これからはお姉ちゃんの言う事をよく聞くのよ」


 母の言葉にナリアは頷く。

 いつも、エリシアの言う事はしっかりと聞いていた。

 母の言う事も聞いている。

 そうすれば、また一緒に外で遊ぶこともできると信じていたからだ。


「良い子ね。ナリア、あなたは優しい子よ」

「うん」

「お姉ちゃん――エリシアはきっと、あなたのことを守ってくれるわ。でも、もしエリシアが無理をしそうなときや、つらそうなときはあなたが守ってあげて?」

「できるかな?」


 エリシアはナリアにとって何でもできる姉だった。

 そんな姉を助けるようなことがあるのだろうか、と。


「もちろん、できるわ」

「うんっ、わかった。おねーちゃんのこと、まもるよ」

「ありがとうね」


 それが母と交わした約束――それからしばらくしないうちに、母はいなくなった。


   ***


 ホリィに連れられ、ナリアは町中で食材を調達していた。

 その途中、診療所でエリシアのことについてホリィが尋ねていた。

 何かを話していたが、ナリアは外で待っていたので内容までは知らない。

 ただ、ヴォルボラが食材になる物の一つを取りに行っているとのことだった。

 それを聞いて、ナリアはあることに気がつく。

 今はモーゼフも、ヴォルボラもいない。

 大切な姉も、今は病に倒れている。

 孤独を感じるのは、初めてだった。



「だ、大丈夫だもん」


 ナリアは自分に言い聞かせるように呟く。

 隣を歩くホリィがそんなナリアの頭を撫でて、


「不安かい?」

「ううん、平気だよっ」


 ホリィの問いには元気に答えた。

 ナリアの言葉にホリィも頷く。

 不安は表に出さないことにしたのだった。

 今出来ることをする――そんなナリアの小さな決意だった。


「さて、他の野菜類と果物類は揃えられそうだね。問題は肉類の方かね」

「お肉?」

「ああ。野菜だけでもいいけど、元気を付けるなら鶏肉辺りがいいと思ってね」

「お肉はないの?」

「あるにはあるさ。ただ、消化の良い種類ってもんがある。村にあるもんはちと油の多めなやつさぁ」

「そうなんだ……」

「まあ、肉はなくても問題はないけれどね」


 ホリィはそう言うが、ナリアとしてはできる限り良い物を食べさせたいと考えていた。

 エリシアの元気が出るのなら、鶏肉もあった方がいい、と。


「どこかでとれないの?」

「んー、そうさね。村から少し離れたところの草原に《地鳥》っていうやつがいる。そいつは飛ぶよりも走る方が得意でね。肉も脂分が少ないのさ」

「……わたし、つかまえに行ってくる」


 ナリアがそう言うと、ホリィがそれを止める。


「無茶いっちゃいけないよ。比較的おとなしいとはいえ、あんたよりも大きな鳥さ。それに村から離れたところになると凶暴な魔物も出るかもしれない。そんなところには行かせられないよ」

「だ、だったら冒険者さんにお願いする」

「依頼ってことかい? それは悪くないかもしれないが、お金はかかるよ?」


 ホリィがそう尋ねると、ナリアは頷いて答える。


「いいよ。お金はわたしが払うから」

「あんたが払うって? そういう意味じゃなかったんだけど……そこまでしてもほしいってことかい?」

「うん……おねえちゃんに元気になってほしいから」


 ナリアの言葉に、ホリィは少し考えるような仕草を見せる。

 お金を稼ぐことは、当然今のナリアにはできない。

 モーゼフやエリシアがいなければ、このように町で生活できているかどうかも分からない。

 それに、ナリア自身が言っていることも簡単なことではないということは理解していた。

 それでも、エリシアのためにできることはしたいというナリアの考えがあった。


「お金は、わたしが大きくなったらいっぱい稼ぐもん」

「そうかい――仕方ないねぇ。ちょっと付いてきな」


 ナリアの言葉を聞いて、ホリィはナリアを連れて宿の方へと戻る。

 そして再び戻ってきたホリィの姿は、エプロン姿のままだが手に持つのは買い物のために用意していたカゴではなく、小振りな一本の斧だった。


「おばちゃん、その斧は……?」

「あははっ、あたしも昔は冒険者だったのさぁ。たまに食材を取りに行くのに使うけど、最近じゃ町のもんに任せきりだったからね。たまには振るわないと腕が錆びついちまう」

「それじゃあ、一緒に行ってくれるの?」

「本当ならあんたはここに置いていきたいけどね。放っておくと勝手にどっかいっちまいそうだ。あたしから離れるんじゃないよ」

「うんっ!」


 ホリィの傍について、ナリアは草原の方を目指す。

 実際、ホリィがいなくても一人で向かっていくつもりであった。

 来てくれるというのは、ナリアにとってとてもありがたいことだった。


(おねえちゃん、待っててっ)


 食材調達のために、ナリアはホリィと主に草原へと向かった。

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