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38.一緒に

「ん……」


 エリシアは気がつくと、周囲は木々に覆われていた。

 木のベッドは思った以上に柔らかく、眠っている間に身体への負担はなかった。

 どうやら眠ってしまったらしい。

 目の前にいたはずのヴォルボラがいない。

 エリシアが身体を起こすと、木の根に座るモーゼフがいた。


「目が覚めたかの」

「モーゼフ様? 私は……」

「疲れが出たんじゃろう」


 周囲を見渡すと、ヴォルボラの姿がない。

 怪我はまだ治りきってはいないだろう。

 飛び立つにも、おそらく巨体が目立ってしまう。


「あの、ヴォルボラ様は――」


 そうモーゼフに問おうとしたときだった。


「この石はね、お守りなの」

「ほう、お守りか」


 ナリアともう一人、少女の声が耳に届いた。

 エリシアは起き上がり、声のする方へと向かう。

 そこにいたのは赤い石を見せるナリアともう一人、赤い長髪に赤い瞳をした少女の姿だった。

 エリシアより少し身長が高いくらいだろうか。

 けれど、整った顔立ちをしていて大人びた雰囲気をしている。

 見ると、身体にいくつも包帯を巻いていた。


「あなたは……?」

「あっ、おねえちゃん!」

「ああ、目が覚めたか、エリシア」


 エリシアのことを知っている。

 よく見てみると、着ているのはエリシアの服だった。

 間からドラゴンの尻尾のようなものがはみ出している。

 それでエリシアも気がついた。


「も、もしかして……ヴォルボラ様ですか?」

「その通りだ」

「え、あ? でも、そのお姿は……」

「……まだ尻尾を隠すことはできないのだ。慣れないことはするものではないな」

「尻尾、ですか」

「あまり見ないでくれ」


 エリシアが驚くのも無理はない。

 少し恥ずかしそうにするその姿は本当に人のようだった。

 ドラゴンの中でも上位に位置する者は人と同じ姿になることができる。

 ただ、好んでその姿になる者はほとんどいない。

 ドラゴンは自身のその姿に誇りを持つ者が多いからだ。

 それにその姿では力もそれなりに制限される。

 もちろん、戻ることは可能だが。


「エリシア、我はお前と共にいると決めた。それはあの姿では叶わないものだ」

「ヴォルボラ様……その、何と言ったらいいか……ありがとうございます」

「礼を言われるようなことはしていない。むしろ、我が礼を言いたいくらいなのだからな」


 エリシアの方に近寄り、そっと頬を撫でる。

 人の姿になってもまだ傷は癒えていないようだ。

 エリシアはそれも気がかりではあったが、もう一つ気になることがあった。


「えっと……ヴォルボラ様は女の子だったんですか?」


 エリシアの問いに、ヴォルボラは少し顔をしかめる。


「女の子などではない。少なくとも、我は何百年と生きるドラゴンなのだからな」

「あ、ごめんなさい」

「謝る必要はないが……」

「ほっほっ、要するにドラゴンの雌であったということじゃな」


 後ろからモーゼフがやってくる。

 カタカタと骨を鳴らす姿は不思議と安心した。

 エリシアにとっては老人のモーゼフよりも骨の姿のモーゼフの方が目にする機会が多いからである。


「力を力で抑えているようなものじゃ。あまり無理はせんようにの」

「言われずとも分かっている。初めてだから慣れないだけだ」

「ほっほっ、そうじゃな。お前さんからすればわしなどまだまだ赤子のようなものじゃろうし」

「まったくもってその通りだ。敬え」

「ほっほっほっ」


 骨を鳴らして笑うモーゼフに、少女の姿をしたヴォルボラは偉そうな態度をする。

 それが少しおかしくて、エリシアは思わず笑ってしまう。

 ナリアも相変わらずヴォルボラには懐いた。

 ヴォルボラはドラゴンの姿であった頃に比べると元々口調こそ堅いが温和だった性格の温和の部分が強く出ていた。

 見た目こそエリシアと同じくらいの歳の少女ではあるが、実際の中身はヴォルボラだ。

 けれど、この状態なら誰かに見つかる可能性は低く、エリシアと共にいることも難しくはない。

 そうするためにどうすればいいか、考え出した結論だったのだろう。

 ユースの言っていた通り、エリシアが目を覚ました頃にはすでにユースの姿はなく、他の町や村からもドラゴン退治のために集まってきた冒険者達は撤退を始めたとのことだ。

 ヴォルボラがこれで追われることはなくなるだろう。


「エリシア、我はお前の傍にいてもいいだろうか」


 エリシアの手を取り、改めてヴォルボラが尋ねる。

 赤くて硬く、そして冷たい――そんなヴォルボラの鱗とは対照的に、少し温かい感じがした。

 そんなヴォルボラの手をエリシアも握り返して微笑む。


「はいっ、もちろんです!」

「ヴォルボラも一緒だねっ」


 ナリアがもう片方のヴォルボラの手を握る。

 まだ少し慣れていないようだったが、そこで見せたヴォルボラの笑顔は自然なものだった。

 その様子を、モーゼフは静かに見守っていると、


「モーゼフも!」

「ほっほ、わしもか」

「はいっ」


 ナリアがそう言ってモーゼフに手を伸ばし、エリシアも頷く。

 すでに骸骨の姿であるモーゼフの表情は窺えないが、きっと笑ってくれている。

 表情が見えなくてもそう感じ取れるように、ナリアもエリシアもなっていた。

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