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24.終息

「うぅん?」


 ナリアが目覚めると、目の前にローブを着た男が立っていた。


「モーゼフ……?」

「爺さんの方じゃなくて悪かったね」

「……おにいさん、誰?」

「私は……ウェルフ。どこにでもいる普通の魔導師だよ」


 ウェルフ・フォスター――討伐隊の名を騙って《フラフ》で金を稼いでいた魔導師だ。

 モーゼフによって討伐隊ならぬ詐欺師集団は解散し、ウェルフは隣の村である《タタル》にやってきていた。

 盗賊団の者たちは皆一様に遠くへと逃げ出してしまったが、ウェルフにはそんな気力もなく、できるだけ遠くに逃げたい気持ちもありながらも、村でしばらくの休息を取ることにした。

 そこで再び、しかも吸血鬼に捕まった状態でモーゼフに出会うことになるとは思わなかっただろう。

 さかのぼること数時間前――無理やりウェルフの結界にモーゼフが入ってきたときから話は始まる。


「失礼するぞ」

「で、でたああああああああっ!」


 ウェルフの作り出したキメラ達がウェルフの動揺を察知し、すぐにモーゼフに牙をむける。

 だが、ウェルフはすぐに指示を出す。


「や、やめろ! この爺さんには手を出すな!」


 キメラは警戒しながらも、ウェルフの言うことを聞いている。

 魔導師としては優秀なことはモーゼフにも分かっていた。

 いかんせん、性格や行動に難がありすぎるが。


「ほっほっ、数日振りくらいかの? こんなところで出会うとは……お前さんもついてないのぉ」

「い、言っておくが、これは私の仕業ではないぞ!?」


 すぐさま弁解をするウェルフに対して、モーゼフも笑いながら答える。


「分かっておるわ。すでに道中で何体かに襲われたからの。しかし、結界の中でも身を隠す結界を作り出すとは優秀じゃの」


 ウェルフの作り出すのは移動型の結界だ。

 中にはまたテントのようなものがあり、そこには数人の人陰が見える。


「何人か助けたようじゃな」

「……助けたわけじゃない。たまたま見つけたから拾っただけだ」

「ほっほっ、そうかの」


 そう言うウェルフだったが、この村では世話になっていた。

 村人はウェルフのやってきたことを知らない。

 だからこそ、暖かく接してくれるのだろう。

 それでも、傷心したウェルフにはその優しさがとても沁み渡った。

 吸血鬼がやってきたときにいち早く結界を作り、可能な限り村人を助け出すということをしていた。

 吸血鬼に対抗できるほどの能力は、ウェルフにはなかったからだ。

 モーゼフはそれを理解したうえで、


「その調子で他の者達も拾ってもらえるとありがたいの」

「なっ、この霧の中で動きまわるのがどれだけリスクなことか分かっているのか?」

「当然じゃ。吸血鬼の方はわしが何とか――」


 そう言ったところで、村の方に新たに結界に囚われた者を察知する。

 なぜなら、そこに自身の身体の一部が紛れ込んでいることを感じたからだ。


(ナリア……ということはエリシアもか)


 町で待っていろ――と言っても、吸血鬼を封印するためにすでに数日は戻っていない。

 さすがに心配をかけてしまったか、とモーゼフは反省をする。

 そして、再びウェルフとの話を続ける。


「吸血鬼はわしが何とかする。お前さんは人を拾ってくれればいいだけじゃ」

「そんなこと言われたって……」


 そう言うウェルフだが、ちらりと後方を見る。

 まだ、見つかっていない村人の家族もいる。

 そもそもここの村の出身ではない者も混じっているくらいだ。

 どのみちウェルフが助かる道は、モーゼフに従うしか残されていない――そう考えることにした。


「仕方ない……爺さんに従うしか、私の助かる道はないようだからな!」

「ほっほっ、それでいい」


 こうして、ウェルフとモーゼフは協力関係を築いた――


(どうやら外の戦闘は終わったみたいだけど……)

「失礼するぞ」

「うわっ!?」


 人が作り上げた結界に何の支障もなく入ってくるこの老人――もといリッチはやはり慣れることはない。

 もうすでに戦いは終わったからか、モーゼフは骸骨の姿ではなく、優しげな老人の姿をしていた。

 だが、ウェルフは知っている。

 こんな見た目でも恐ろしいリッチであるということを。


「モーゼフっ! おねえちゃん!」

「ナリア!」


 エリシアとナリアは駆け出して、お互いの無事を確かめ合うように抱き合う。


「あの状況でもナリアを拾い上げてくれて感謝するぞ」

「本当さ。結界の中に取り入れるってことは一度入口を開かないといけないんだからな」


 そう言いながらも、モーゼフが吸血鬼――ウィンガルの注意を引いて戦っていたから問題なく回収できた。

 こうして無事でいられるのは、目の前にいるモーゼフのおかげであることも、ウェルフは理解している。

 もう二度と悪さをしないという誓いを立てさせられて、今回は助けられるという何とも不甲斐ない結果ばかりだったが――


「ありがとうございますっ」


 エリシアがウェルフに頭を下げる。

 ウェルフはそれを見て、少し動揺した。


「な、私は礼を言われるようなことはしていない」

「いえ、ナリアが怪我をしないでここにいられるのは、魔導師様の協力があったからだと……」


 ちらりとモーゼフの方を見ると、優しげに微笑んでいた。

 ウェルフは歯切れが悪そうに、


「何度も言うが、拾っただけだ!」


 人にこうして頼られることは、かつて王国に務めていたときも感じていたはずだった。

 それをまた改めて感じることになるとは、ウェルフも思わなかったのだろう。


「モーゼフっ」

「おお、ナリアか」

「迎えに来たよ!」

「ほっほっ、すまんのぅ。こんなに時間がかかるとは思わなかったんじゃ」

「ううん、モーゼフが元気でよかった!」


 モーゼフがナリアを抱えあげる。

 フラフの町からやってきた冒険者達もウェルフが回収しており無事だった。

 結界に捕らわれていた数人の女性も衰弱はしていたが、死には至っていない。

 ただ、ウィンガルによって眷属化されてしまった人々の一部はモーゼフが封印している。

 こちらは眷属化を解除するにはそれなりの準備が必要だった。

 ただ、本体であるウィンガルが手元にあるため、一応元に戻すことはできる。

 元に戻る意思があるのならばだが。

 一先ずはタタルの村を襲った吸血鬼の問題はこれで終息することになる。

 村を救った魔導師としてウェルフはまた村人から感謝されて、満更でもない表情をしていた。

 吸血鬼を討伐したのは、ウェルフとたまたま村を訪れていた魔導師によって行われたということになったが、その魔導師は忽然と姿を消したということになっている。

 ウェルフがそう説明した。

 不思議なこともあるものだ、と村人たちは思ったが、吸血鬼に対抗できるほどの魔導師がこの村にやってきてくれていたという奇跡にただ感謝しきりだった。


「さて、それじゃあわしらも帰るとするかの」

「……はいっ」


 エリシアも元気を取り戻したようで、はっきりとした声で返事をしていた。

 ギーグ達の乗ってきた馬車でフラフの町を目指す。

 村を救った魔導師であり、リッチとなったモーゼフはフラフの町からやってきた者達と共に帰っていった。

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