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20.迎えにいこう

「……」


 エリシアは魔力の流れを掴む練習は続けていた。

 ベッドの上で意識を集中させる。

 けれど、どうも落ち着かなかった。

 まだ教えられてから数日、魔法と呼べるものを使えるようにはなり始めていたが、いつもモーゼフが近くで見ていてくれたからだ。

 モーゼフが戻らなくなってからもう数日が経過していた。

 行き来をするだけなら一日もかからない距離に村はあるらしい。

 何かあったのではないか――そんな風に悪いことばかり考えてしまう。

 エリシアだけでなく、ナリアも元気がなくなっていた。

 友達になったサヤの前では変わらずに明るくふるまうが、宿に戻るとモーゼフが戻っていないかどうか確認し、表情を暗くする。


「おねえちゃん、モーゼフはいつになったら戻ってくるの?」

「きっと、すぐに戻ってくるわ。少し用事が長引いてるだけよ」

「本当?」

「ええ、本当よ」


 そんな風に、ナリアだけでなく自身にも言い聞かせるように続けた。

 それでもエリシアは冒険者としての活動をしようと考えた。

 元々、一人でもやろうとしていたことだ。

 モーゼフが戻るまでは、自分でもできることをしようとエリシアは考えた。

 エリシア一人ではナリアを連れて森には行けないので、今日も依頼を受けたあとにフリッツのところで預かってもらう予定だった。

 迷惑をかけてしまうが、フリッツはいつでもナリアのことを歓迎してくれる。

 元々病弱なサヤには友達がおらず、ナリアがこうして遊びにきてくれることが本当に嬉しいとのことだった。

 それは、エリシアも同じ気持ちだった。

 ナリアに友達ができたことは正直嬉しかったし、ここにきて良かったと思える。

 あとは、モーゼフが戻ってきてくれればまたいつも通りに戻るはずだ。


(モーゼフ様……)


 ふと、そんなことを考えているとギルドの前に馬車がとまっていた。

 複数人の冒険者達が集まっている。

 何かあったのだろうか――エリシアとナリアはそちらの方へと近寄っていく。


「あの、どうかしたんですか?」

「あ、エリシアさん。その、モーゼフさんも含めて戻られない方々が多いので一度冒険者の方々に集まってもらって見に行っていただくことになったんです」


 見れば、町に残っていた冒険者達の多くが集まっている。

 その中にはこの町に来て初めて話しかけてきた冒険者――ギーグもいた。


「爺さんも戻らないらしいな」

「……はい」

「心配すんな。あの爺さんのことだから何か土産でも探してるかもしれねえ。見つけたら連れ戻してくるからよ」

「ありがとう、ございます」


 エリシアが礼をする。

 今から馬車がタタルの町へと向かって様子を確認しにいくところだった。

 正直言ってしまえば、エリシアもついていきたい気持ちでいっぱいだ。

 けれど、モーゼフは町でナリアと共に待っているようにと言っていた。

 モーゼフとの約束は破りたくはない――けれど、モーゼフのことが気がかりで迎えに行きたい。

 そのジレンマを抱えてしまう。

 そんなエリシアに対して、ナリアはすぐに手を挙げて言い放つ。


「わたしもモーゼフむかえにいきたいっ」


 ギーグは驚いた表情をしていた。

 いつも元気な姿を見かけることはあった。

 ここにエリシアときたときの姿も大人しい感じだったにも拘らず、急に大声でいったのだった。

 エリシアが慌ててナリアをなだめる。


「だめよ、モーゼフ様がここで待っていなさいって言ったのだから」

「でも……」

「それに、他の人にご迷惑になるわ。それを……モーゼフ様は喜ばないと思う」

「……うん」


 エリシアに言われて、ナリアはまた大人しくなり頷く。

 聞き分けは良い子だった。

 本当は誰よりも、モーゼフのことを心配しているのだろう。

 それでも、エリシアやここにいないモーゼフが喜ばないと感じれば、ナリアは引き下がる。

 ギーグはその様子を見て、困ったように頭をかいていたが、


「そういえば、荷物を支えるのにまだ二人分くらいなら空きがあったよな?」


 ギーグが馬車の方にいる冒険者達に声をかける。

 エリシアが顔をあげると、冒険者達は顔を見合わせて、


「ああ、ちょうど子供二人分くらいならあるぜ」

「せっかくだ。あんたも依頼を受けてこいよ」


 エリシアに向かってそんな風に言ってくれたのだった。

 ナリアはエリシアの方を見る。

 行きたいという表情だった。

 けれど、少し不安があった。

 もしも村の方で何かあるのだとしたら――そんな考えを察してか、ギーグはエリシアの方を見て言う。


「ただし、馬車からは出るなよ。俺達も遠くから確認するだけだ。異常がなければ村の方に入ることになるけどな」


 エリシアはそれを聞いて、少し間をおいてから返事をする。


「その、ありがとうございます。私達も、同行させてください」


 このままモーゼフとの約束よりも、このまま待ち続けるだけなんて嫌だという気持ちが上回った。


(ごめんなさい、モーゼフ様。お迎えに行きます。そこで、すぐに謝りますから)


 心の中でエリシアはモーゼフに謝罪し、出会うことができたらまた謝ろうと考えていた。

 エリシアとナリアは馬車へと乗り込み、冒険者達とタタルの町へと向かう。

 揺れる馬車の中、モーゼフに出会えるかどうか分からないという不安な気持ちのエリシアと、モーゼフに会えるという嬉しい気持ちでいっぱいのナリアという対照的な二人がいた。


   ***


 白い霧が視界を奪う。

 まるで夢の中にでもいるかのような感覚を味わうことができる場所だった。

 モーゼフはそんな中を一人で歩いていた。

 定期的にモーゼフに襲い掛かってくるのは赤い瞳をした魔族――《吸血鬼》。

 その種族自体が高い戦闘力を持つと同時に、眷属化というただの人間でも吸血鬼に匹敵する能力を与えることができる力も持つ。


(やれやれ、厄介なところじゃの)


 モーゼフがタタルの村についてから数日――霧の中からは一向に出ない状態が続いていた。

 そんな霧の中を歩き回れるのはモーゼフくらいだ。

 だが、このままこの吸血鬼を放っておけばさらに被害が拡大するだろう。

 おそらく、次にこの霧が向かうのはフラフの方だ。

 それを放っておくわけにはいかない。

 あそこには、エリシアとナリアもいるからだ。

 モーゼフは確実に何かしら危険なものが近づいてきているということは感じていた。

 エルから聞いた話から、少なくとも魔族に関わる何かであるということを。

 そして、実際に吸血鬼という存在がここまでやってきていていた。


(エリシアとナリアは元気にやっているじゃろうか)


 そんな中でもモーゼフは二人のことを心配していた。

 すぐに戻ると言っていたのにもう数日だ。

 少なくとも、この霧を発生させている吸血鬼の親玉を倒さない限りは戻ることはできない。

 モーゼフはまた霧の中を進んでいく。

 ここはある種の《結界》の中だ。

 時折ここではその吸血鬼の結界に囚われた人と出会うことがある。

 多くは血を吸われ、衰弱している状態であったが、ギリギリで生かされている状態だった。

 時が経てばまた食事として血を吸われるのだろう。


(ん、こいつは……)


 モーゼフはその結界の中でも、もうひとつ結界があることに気付いた。

 本来ならば結界の中に結界など作られるはずもない。

 何者かが意図的にそこで守りを固めているということだ。

 それは少し前に出会ったことがある人物のものだと、すぐにモーゼフは理解する。


「ほっほっ、面白い出会いもあるものじゃの」


 モーゼフは笑う。

 これもまた縁のようなものだ。

 モーゼフは、またしてもその結界の中へと無理やり入っていくのだった。

今までで一番感想がついた回が「男の娘」だった件について(なんかのタイトルになりそう)。

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