12.討伐隊
翌日――エリシアとナリアを部屋に残し、モーゼフは一人町の中を歩いていた。
町中では冒険者の姿も見られず、町人と思われる姿はいくつかあった。
だが、討伐隊と思われる人物は見当たらない。
(やはり陣取っているのは外かのぅ……)
モーゼフはしばらく町の中を見回る。
やがて、閑散とした町中でもさらに静かな場所に差し掛かったとき、
「こ、これで優先的に依頼を受けてもらえるのか?」
「ああ、隊長には進言しておくよ」
そんな男達の会話が聞こえた。
モーゼフはその場で静かにその会話を聞く。
どうやら二人の男に対して、この町の住人が何かを依頼しているようだった。
何度も依頼をするその姿は、本当に切羽詰まっているといった様子だった。
男達が去ったあと、モーゼフは依頼をしていた男に近づく。
「これであの子は……」
「ほっほっ、少しよろしいですかな?」
「……っ! な、なんですか?」
「いやぁ、先ほど討伐隊の方と話されていたようだったので気になりましての」
「……あんたに関係ないだろう」
(わずかに目を逸らしたか……ほっほっ、隠し事はできん性格のようだの)
討伐隊――確証はないがモーゼフはその名前を出した。
男は少し動揺した様子を見せて、モーゼフは確信する。
ここで何かしらの取引があったということを。
そして、あの二人は討伐隊のメンバーであるということも。
「わしは別にお前さんが何をしようと責めるつもりはない。ただ、困っているようなら力になれるかもしれないと思っての」
「……力に?」
「その通りじゃ。その依頼とやら、わしが受けてもよいぞ」
モーゼフは聞いていた言葉でのみ会話を促す。
男もモーゼフにはばれていると感じているのだろう、そのまま自然と会話は続く。
「そ、それは彼らに依頼したから大丈夫だ……」
「いやいや、人数は多い方がいいじゃろう? わしは別に依頼料とか取らんぞ?」
「……っ!」
男の表情が曇る。
やはり、手渡していたのは金だろう。
彼ら討伐隊はギルドからの依頼だけでなく、こうして多めに金を受け取ることで依頼の優先度というものをつけているようだ。
綺麗な組織というわけではなさそうだ、とモーゼフは考える。
「何があったのか、話してみなさい」
男は悩んだ表情をしていたが、モーゼフの言葉にやがて静かに頷き、
「娘が病気なんだ……。そのための薬草を手に入れないといけないんだが……」
「それがあの森にあるというわけか」
「あ、ああ。昔からの持病で、よくギルドにも依頼していたんだが、最近はあの森から薬草も取りに行けないって……」
それで、討伐隊に依頼をしたということだろう。
渡した金額はいくらか分からないが、男もそれほど裕福には見えない。
討伐隊を名乗る者達はこうした切羽詰まった人々からも金を要求しているようだった。
(どうやら、様子を見るまでもなさそうじゃな)
「分かった。その薬草についてはわしも取りに行くことにしよう」
「ほ、本当か? でも、冒険者は森に入るのは禁止されているんじゃ……」
「ほっほっ、心配なさるな。ばれなきゃ平気じゃよ」
ひらひらとモーゼフは手を振ってその場を後にする。
モーゼフはそのまま、先ほど討伐隊の男二人がいなくなった方面へと進んでいく。
二人の男がどこに去ったのか、後を追う。
やはり、町中に陣取っているわけではないようだった。
しばらく、その男達は人気のないところで色々な取引を行っていた。
やはり目的は金だろう。
ギルドが受ける依頼とは別に、特別料を受け取ることで優先度をあげるとでも言っているのだろう。
そのまま、しばらくそれを繰り返した男達は、キメラがいるとされる森の方へと向かっていく。
モーゼフは魔法で姿を隠して後を追う。
《ミラージュ》――気配だけでなく、魔力など察知される可能性があるものをすべて隠匿する魔法。
その代わり、持続力はそれほどない。
だが、モーゼフは高い魔力と培った技術を用い、持続時間を無理やり延ばしていた。
男達が森に入るところで、突如その姿が確認できなくなる。
魔法による結界がそこにあることはモーゼフにはすぐに分かった。
(さて、ちぃとばかしお邪魔させてもらおうかの)
モーゼフはそのまままっすぐ進む。
魔法の結界は本来――許可された者しか入ることができない領域。
だが、モーゼフはそれを無理やりこじ開けて中へと入っていく。
同じ森ではあるが、目に見えた景色とは少し違う場所だった。
そこには、以前に森で見たキメラと似たようなキメラが待ち構えていた。
「ほっほっ、ここに魔導師がいるのは間違いないようじゃの」
特に慌てる様子のないモーゼフに対し、キメラ達は一斉に襲い掛かった。




