114.洞窟内にて
「ここが海底、ですか……?」
エリシアが、驚いたような口調で呟く。
「ほっほっ、そうじゃの。どう見ても洞窟じゃろ?」
「そ、それはそうですが……」
「ふむ。まあ、気持ちは分からんでもないがの」
海を潜ってやってきて――たどり着いたのは、大きな空洞のある場所だった。
ここが海底であることには間違いないが、洞窟内には空気がある。
モーゼフにとって酸素は必要ないが、他の者達には必要なものだ。
だが、ここならば気にする必要もない。
「ぬははっ、クラーケンは巨大なイカではあるが、地上でも生息することができる。酸素は奴が地上から集めて供給しているものだ」
「そうなんですね。でも、どうしてそんなことを……?」
エリシアが疑問の言葉を口にする。その疑問は当然のものだ。
「ほっほっ、その話についてはいずれ話しておこう。まずは、クラーケンの下へ向かわねばの」
「本物のクラーケンに会えるの!?」
ナリアが喜ぶような声を上げる。
モーゼフの話を聞いてから、何故かナリアはクラーケンに執心だった。
何にでも興味を持つナリアらしい。だが、
「一先ず、クラーケンのところにはわしとレグナグルで向かう。元々、『一部』を奪われたのはわしらじゃしの。ヴォルボラ、二人を頼めるかの?」
「言われなくてもそのつもりだ」
モーゼフが言う前から、ヴォルボラはエリシアとナリアを守る姿勢でいた。
ここに入った時から、周囲を警戒している。
すでに、ここはクラーケンの領域内だ。
本来であれば同等の力を持つレグナグルも、ほんの一部でしか来ていない。
ヴォルボラはドラゴンではあるが――その強さの基準は、クラーケンやレグナグルに並ぶレベルではないだろう。
――そうなると、自ずとクラーケンと互角の力を持つのはモーゼフのみとなる。
ただ、仮に何かあったとしても、クラーケン以外の相手であれば、ヴォルボラならば任せられる。
「頼もしい限りじゃの」
「えー、わたしも一緒にいきたいっ」
「こら、ナリア。モーゼフ様を困らせてはダメよ。ここまで連れてきてもらったんだから……」
エリシアはナリアを注意するように言うが、モーゼフがヴォルボラに任せると言うまでは、きっと彼女も付いてくるつもりだったのだろう。
モーゼフ自身、クラーケンの真意が分かれば、連れて行く分には問題ない。
ここならば、何かあってもモーゼフの力の届く範囲にある。
連れてくるか迷ってはいたが、結局のところ――モーゼフはエリシアとナリアを心配して連れてきたのだ。
「エリシア、二人と留守を頼むぞ。お前さんのことは、頼りにしてるからの」
「! は、はいっ」
「いってらっしゃーいっ」
「ほほっ、行ってくるぞい」
モーゼフはレグナグルを抱えて、歩き出す。
海底洞窟内は広く、入り組んでいる。
だが、モーゼフにはどう繋がっているか、到着した時点で理解していた。
クラーケンはこういった構造の住処をいくつも構築している。
モーゼフも、何度か訪れたことがあった。
「モーゼフ、クラーケンのことはどう考えている?」
「ふむ……奴はわしらの身体の一部を持って行った。面倒なことをしてきたが……やりたいことは至極シンプルじゃろう。何か話がある、ということじゃな」
「話か。お前さんとわしを呼びつけるということは、およそ良い話とは思えんがの」
「ぬははっ、違いない。あるいは……わたしと同じ理由かもしれんな?」
「同じ理由、か。それはやはり、《フェンリル》の件か」
「ぬはは、次なる目的地に向かうタイミングでの誘いだ。おそらくはそうではないか? 奴は奴で、世界の均衡について考えているらしい」
レグナグルの言葉に、モーゼフは頷く。
――世界の均衡。それはすなわち、レグナグルやクラーケンを含めた伝説の六体の魔物のこと。その均衡が、崩れ去る可能性があるのだ。
めちゃ久々に筆がのったので書けました……!