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113.海底洞窟

「わぁ、見て見て! お魚さんがいっぱいいるよ!」

「本当……。でも、水の中を移動できるなんて……」


 テンション高めのナリアと、その横で驚きの表情を浮かべるエリシアがいた。


「お前は何でも作れるのか?」

「ほっほっ、何でもというわけではないがのぅ。水の中を移動する物くらいなら作れるぞ」


 ヴォルボラの問いかけに、モーゼフが答える。

 今いるのは海の中――モーゼフの作り出した《潜水船》の中だ。

 木造の枠組みに、魔力の壁によって窓ガラスが作り出されて海底を覗くことができるようになっている。

 大きさは数メートルほどで、シンプルな船の形をしたデザインだ。

 水の中を船で進むという考えが、エリシアやヴォルボラにはない。

 驚くのも無理はないだろう。

 実際、普通の技術では水の中を進むことはできない。

 木の魔法に風の魔法――さらには繊細な魔力コントロールを維持することで、海底を進むことができる船をモーゼフが作り出しているのだ。

 それくらいのことは、モーゼフならば造作もなくできる。

 海の中を進むモーゼフの目的は、モーゼフとレグナグルの一部の回収。

 クラーケンがそれを奪ったのは、モーゼフとレグナグルを海の中へと誘い込むことだ。


「ウィンガルも来ればよかったのに」


 海の様子を確認しながら、ナリアがそんなことを呟く。


「ほっほっ、水は苦手なようじゃからの」

「海に近づくのも嫌そうでしたね」

「水が苦手というのは良いことを聞いたな」


 ヴォルボラだけ、少し嬉しそうな笑みを浮かべている。

 戻ったら何かけしかけるつもりなのかもしれない。

《吸血鬼》として万能型に見えるウィンガルでも苦手なものはある。

 おそらく、霧の能力に大きく影響しやすいのだろう。

 モーゼフ自身が吸血鬼の能力を把握しているわけではないが、《霧化》は魔法として区分するのならば水――相性としては一見するとよく見えるが、例えば量の多い海の水に霧化した身体が巻き込まれるなど、あらゆる問題が考えられる。

 あるいは、そもそも水の中では霧化できない可能性もある。

 雨や少量の川の水くらいならば問題ないのだろうが、一面に広がる海となれば話は別なのだろう。 

 ウィンガルは馬車で待機したまま、海に遊びに来たメンバーで回収に向かうことになった。


(本来ならば、エリシアやナリアは置いていくべきなのかもしれんがのぅ)


 そう、モーゼフも考えなくはない。

 クラーケンの目的がモーゼフとレグナグルだとすれば、それこそヴォルボラも連れてくる必要はなかった。

 エリシアはともかくとして、ナリアはただ行きたがるだろうが。


(まあ、戦う気があるのならば身体の一部を奪うなど面倒なことはせんじゃろうからの)


 モーゼフにも考えがあった。

 クラーケンは、魔物としては最上種の一体だ。

 その強さは、水辺にある国を一瞬で滅ぼすことができるほどと言われている。

 水を操ることができる魔物であり、広大な海の支配者であることには違いない。

 そんなクラーケンが戦う気であったのなら、すでに先ほどの砂浜は海に沈んでいただろう。

 いや、戦いとなればモーゼフがそうはさせないことには違いない。


(だとすれば目的は……)

「ぬははっ、考え事か? モーゼフ!」

「少しの。お前さんも身体の一部を奪われたというのに、随分と余裕そうじゃの」

「ほんの一部だからな! だが、一部でも奪われたというのは癪だ。ただ、海の中ではどうしても相性がな」

「ほっほっ、お前さんでもクラーケンには手を焼くか?」

「ぬかせ。私が本気を出せば世界が滅ぶ――それは、お前も例外ではないだろう?」

「買い被りじゃな。わしはもう死んだ身じゃ。世界のあれこれに関わる気など毛頭にない」

「エルフの娘二人のためには行動するのに、か」

「本来なら、そのためだけに動くんじゃよ。わしが今回協力するのは、薬草の礼があるからの」

「ぬははっ、律儀な奴だな。魔物相手にそこまでするのはお前くらいのものだろう!」


 楽しそうに笑うレグナグル。

 そんなレグナグルを、ナリアがガッと掴んで持っていく。


「レグナグルも見て! お魚いっぱいだよ!」

「ぬははっ、そんなに押し付けなくても見えるぞ!」


 笑ってはいるが、ナリアによって魔力の壁に押し付けられたレグナグルは餅のように潰れていた。

 ナリアにはぞんざいに扱っても大丈夫な相手が分かる能力でもあるのだろうか――エリシアの作ったウリ坊の人形よりもレグナグルの扱いは雑だった。

 レグナグル本体の強さや、これが分身であるからこそ問題はないのだが。


「モーゼフ様の身体の一部……絶対取り返さないと」

「ほほっ、そんなにやる気を出さんでも大丈夫じゃよ。ちょっと挨拶をして戻るだけじゃ」

「挨拶だけって、それで返してくれるんですか?」


 モーゼフの言葉を真に受けて、エリシアがそんな風に問い返してくる。

 モーゼフはまた笑って、


「うむ、お前さん達は海底洞窟の探検を楽しむといい。もうすぐ着くぞ」


 深く深く、潜っていく潜水船は――暗く大きな洞窟の中へと迫っていた。

久々の更新ですみません。

ゆっくりとですが進めていきたいと思います!

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