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106.微妙な関係性

「いや……まさか君が私のキメラと殴り合っていたとは……」

「丁度いい練習相手だったのでな。邪魔したか?」


 結局キメラ達を仕向けたウェルフだったが、全てKO負けしてしまうという事態に動揺していた。

 戻ってきたのは、多少身体が汚れたヴォルボラで、キメラ達と戦っていたのは自分だと宣言したのだ。

 それだけでも驚きを隠せないウェルフだったが、見た目か弱い少女でしかないヴォルボラに自身のキメラが倒されてしまったことがショックだったようだ。


「構わない、構わないんだが……なんだろうな。私の周りには人間離れした者ばかりになっている気がする」

「ご、ごめんなさい……」


 何故かエリシアが謝罪をすることになる。

 主に人間離れした者達と知り合いなのはエリシアの方だ。

《大賢者》のモーゼフ、《ドラゴン》のヴォルボラ、《吸血鬼》のウィンガル――エリシアは最近、特に気にすることはなくなってきていたが、仮に正体を知られればとんでもないことになるだろう。

 ウェルフについては、モーゼフについての正体を知っていることになる。

 ヴォルボラは獣人ということになっているが、さすがにキメラに殴り勝てるとなると疑問を感じているようだった。


「それにしてもキメラに勝てる獣人とは……いや、獣人がそれだけ強い、のか?」

「ウ、ウェルフさん! その、ヴォルボラ様が素材を持ってきてくださったので……柔らかいものについては作れますか?」

「あ、ああ……これだけあれば十分だろう。系統としてはぬいぐるみの部類になるが、簡単には壊れないものを作ろう。私のキメラの技術を使ってな」

「キメラの技術、ですか?」

「そうだ。私の専門分野というのはキメラ――合成獣の作成だ。それを応用した素材と素材同士で物を作るということもできる。柔らかいものを作るくらい私なら簡単だ。……まあ、得意分野の合成獣が女の子に負けるとは思わなかったが……」

「お前のキメラも悪くなかったぞ」

「ヴォ、ヴォルボラ様……」


 エリシアは少し困ったようにその名を呼ぶ。

 ヴォルボラもエリシアが困っているのが伝わったようで、


「ま、まあ……我のことはとにかく、その素材を使って柔らかいものを頼む……」

「その点については分かっているさ。キメラを作るほど難しいものじゃない。しばらく待ってもらうことになるが」

「ああ、それで構わない」


 ヴォルボラの返事を聞いて、ウェルフは作業へと取りかかった。

 ヴォルボラが戻ってくるまでにそれほど時間はかからなかったため、まだ日は暮れていない。

 エリシアはまだ結界魔法の訓練の途中だった。

 一朝一夕で会得できるものではないということはエリシアも理解している。

 薄い壁を作り出すというのも簡単ではない。

 エリシアがイメージしやすい矢とは違い、実際に見せてもらったと言っても壁を作り出すのは簡単ではない。

 それを硬質化し、維持しなければならないのだから。

 エリシアはヴォルボラが戻った後も練習を続けていた。

 そんなエリシアの様子を見て、ヴォルボラが呟くように言う。


「まあ、そんなに焦らずとも……お前とナリアのことは我が守ってやる」

「! ありがとう、ございます。でも、私も守れる力がほしいんです。頼ってばかりではその、いられなくて……」

「お前らしいな。確かに、人の姿の我ではあまり信頼できないかもしれないが……」

「そ、そんなことはないです! ヴォルボラ様のことは信頼しています! 私が風邪を引いた時だって、わざわざネギを買ってきてくださいましたし……」

「あれは買ったというか――まあいい。それくらいのことは当然のことだ。……我の友になった者を、我は見捨てるようなことはしないからな」

「……はいっ」


 それはエリシアも同じ気持ちだった。

 ヴォルボラに危険が迫れば、きっとエリシアもいち早く動くだろう。

 その対象は、モーゼフだって含まれている。

 モーゼフにそのような危機が迫ることはきっとないのかもしれない。

 それでも、エリシアはいつかモーゼフの役に立てることをしたいと考えていた。


「ウィンガルさんも、ナリアのことを守ってくれていますし」

「あいつよりも我がナリアのことをしっかりと守ってやるからな」


 ウィンガルの話をすると、ヴォルボラはこのように対抗する。

 エリシアとしては、ヴォルボラとウィンガルにはもっと仲良くなってほしかった。

 もちろん、エリシア自身はエルフ――ドラゴンと吸血鬼という種族の違いも大きい。

 元々、ウィンガルについてはエリシアとナリアを襲ったという過去もある。

 今でこそエリシアは気にしていないが、それでもヴォルボラがその事実を含めてウィンガルを認めているか分からなかった。


(二人がもっと仲良くなれるようなこと……うぅ、私も友達を作ったことがほとんどないから分からないわ……)


 自慢できることでもなく、エリシアはそれを心に思ってやや気が沈む。

 ヴォルボラとウィンガルに共通の趣味でもあればいいのだが。


(共通の趣味……そうだ)

「ヴォルボラ様は最近特に好きなものとかってありますか?」

「! それは人でもいいのか?」

「え、人で好きな人がいるんですか?」

「……いや、そういう話ではないのならいい。最近の好みと言っても、我は寝ることくらいしかしていない」

「そう、ですか。それなら今から作ってもらうものはヴォルボラ様が寝る時も使えますね!」

「いや、あれはお前のためのものであって……いや、いい。我の好きなものなど気にしてどうする?」

「えっと、知っておきたいなと思ったので……」


 エリシアは基本的に隠しごとが苦手だ。

 だから嘘をつくようなことはせず、素直にそう思ってもいたので答える。

 ヴォルボラは少し悩んで答える。


「まあ……お前と一緒に居られれば、我はそれでいい」

「ヴォルボラ様……」


 面と向かって言われたエリシアは少し恥ずかしそうに、言った方のヴォルボラも何故か視線を逸らしていた。


(……私は何を聞かされているのだろうか)


 ――傍から見れば男女であればカップルに成り立てのような、そんな微妙な関係性を見せられたウェルフが、柔らかい物を作りながらそう考えていた。

一部店舗ではすでに発売されてるようなので、改めて告知させていただきます。

大賢者からアンデッド、二巻が10/10から発売されます!

そちらもよろしくお願い致します。

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