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105.降り立つ来訪者

「ふむ……」

「どうしたの、モーゼフ?」


 モーゼフは川に釣糸を垂らしながら、考えるように呟く。

 それに対して、ナリアが覗き込むように問いかけた。


「いや、森の方がちと騒がしいようでの」

「森?」


 くるりとナリアが森の方を見る。

 方角で言えばまったく別の方だが、モーゼフはナリアの頭を撫でながら言う。


「ほっほっ、気にするようなことではないぞ。この感じはヴォルボラじゃろう」


 モーゼフが感じ取っているのはヴォルボラの強い力。

 ヴォルボラは人の姿をしていても、戦闘時には人並み外れている。

 それはつまり、今まさに戦闘が起こっていることを意味するのだが――


(あの森の付近で感じられる強い魔力はキメラくらいしかおらんの。それも、ヴォルボラの下に集まりつつあるようじゃ。どうやら、遊び相手に付き合わされているようじゃの)


 それならば、特に気にしなくてもいいかとモーゼフは考える。


「心配ならば私が見てこようか」


 モーゼフに対してそう言ったのはウィンガルだった。

 ナリアの遊び相手として、ウィンガルは先ほどから動いていた。

 身長的にナリアに近しい状態にあるウィンガルは、およそモーゼフよりも長生きしているはずなのに――ナリアと遊ぶことをしていた。

 本人曰くは「新鮮で面白い体験」とのこと。

 ウィンガルの子供時代などモーゼフには想像できないが、子供らしからぬ生き方をしてきたのは間違いないだろう。


「いや、ヴォルボラは今日エリシアと遊びたがっていたようじゃからの。危険がないようなら二人きりにさせてもよいじゃろう。それに、お前さんはヴォルボラとの仲は上手くいっておるのか?」

「あははっ、これまたいらない心配をかけたかな。彼女はどう思っているか知らないけれど、少なくとも私は良好な関係であると思っているよ。この二人を守るという考えで合意しているのだから、それはあなたも同じでは?」


 にやりと笑うウィンガルに、モーゼフは肩をすくめる。

 ウィンガルの言うとおり、モーゼフもまた、二人を中心に考えて行動している。

 敵対することがあるとすれば、二人に危険が伴うときにしようとモーゼフは考えている。


「ま、あなたの言う通りだね。彼女が二人でいたいというなら――」

「ウィンガル! 向こう側に変な動物いたよ!」

「向こう側? 変な動物って魔物だろう――って、一人で行こうとするな。私も行くから少し待たないか」

「ほっほっ、お前さんもナリアと遊べて丁度良いかもしれの」

「遊ばれているだけな気も最近しているけれどね。やれやれ、子供というのは純粋で恐ろしい――あ、だから少し待たないか」


 駆けていくナリアを追いかけるウィンガル。

 身体を霧化させることであっという間にナリアを捕まえるが、そのままナリアの言っていた方角を目指す。

 ヴォルボラもウィンガルも、相当過保護であることには間違いない。


「わしも他人のことは言えんがの」

(エリシアとナリアの二人には、ユグドラシルからの授かり物について教えてやらねばならんしのぅ……)


 二人にはそれぞれオリジンから渡された物がある。

 エリシアは弓でナリアは短刀。

 モーゼフの持つ剣と同じ部類の物であり、二人がそれを手に入れた以上は、モーゼフ自身使い方というものを伝授しなければならないと考えていた。


(エリシアは教えてほしいのかそわそわしとるしのぅ……明日あたりにでも話してみるか――ん?)


 ふと、モーゼフは上方に気配を感じた。

 弱々しいが、どこか存在感のある――モーゼフの知っているものであることはすぐに分かった。

 モーゼフが見上げると、豆粒のような何かが空から落ちてくる。


「ぬはははははっ!」


 大きな笑い声を上げながら、それは降ってきた。

 茶色の毛並み。丁度人の顔より少し大きいくらいのボールような身体。

 見た目だけで言えば愛らしい人形のような――小さな瓜坊は、モーゼフの顔面にポフン、という奇妙な音を鳴らしながら着地した。


「ほっほっ、まさかお前さんが降ってくるとはのぅ……これは驚いた」

「ぬはは、驚いたようには見えんな、モーゼフよ。この私、レグナグルがやってきてその応対とはさすがと――」

「あーっ! かわいいイノシシの子供だ!」


 何故か空から降ってきたレグナグルの言葉を遮ったのは、ナリアだった。

 いつの間に戻ってきたのか、颯爽とモーゼフの顔からレグナグルをもぎ取ると、目を輝かせてそれを抱き締める。


「かわいいっ!」

「ぬおお、何という行動力……これがお前の大切にしているという――」

「お名前はっ?」

「え、レグナグルだが……」

「レッグナックル?」

「足なのか手なのかどっちかにしてほしい名前だのぅ……」

「レグナグルだ。エルフの子よ」

「レグナグル、覚えたよ! 一緒にあそぼ?」

「なぬ、遊びとは一体……」


 レグナグルの問いかけに答える前に、ナリアが駆け出していく。

 モーゼフに用があったのは間違いないのだろうが、その内容を聞く前に連れ去られてしまった。


「……空からイノシシとは、あなたの知り合いだろうが随分と突拍子のないものが多いな」


 ウィンガルが軽くため息をつく。

 先のユグドラシルの件といい、モーゼフに会いに来る知り合いがおおよそ人ならざるものばかりで呆れているようにも見えた。


「ほほっ、そうじゃのぅ」

(レグナグルがわしのところにやってくるとは……ふむ。また変な話でなければよいがの)


 本来ならばあり得ないはずの来訪者に、モーゼフは何か予感しつつもナリアが戻ってくるまで釣りを楽しむことにするのだった。

「大賢者」の2巻の表紙が公開されておりました!

表紙にいるのはメイン三人と聖女のフィールですね!

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