第1話 噓
「……そ…て」
うるさい。
「……そろそろ…きて」
うるさい。
「…おい起きろ」
うるさ——
「そろそろ起きろこのバカ兄!!!!!」
「はいっ只今起きました。」
びっくりした。まったく、もう少し優しく起こしてほしいものだ。
俺の妹、高峰白葉は朝から、大声で怒鳴っていた。
「なんだ、なんか用あるのか?あ、欲しい物があるから買ってほしいのか?そうかそうか、ならお兄ちゃんが今から買っ」
「今日始業式なんだから早く準備してね。外で待ってるから」
うん。大丈夫。妹にスルーされる事なんて慣れてるから別に傷ついてなんもんねっ。慣れてるんだからねっ。
そういえばさっき白葉、始業式あるとか言ってたな……。
「…完全に忘れてた」
俺は、高峰利九は急いで準備をして家をでた。
「——はぁ...まったく...」
白葉は大きなため息をつきながら俺と一緒に登校していた。
「妹よ、そんなため息ばっかついてるとしわが増えるぞ」
「誰のせいでこんなんなってると思ってるの。バカ兄のせいで高校生活初日から遅刻とかごめんだからね。始業式忘れるとかどんだけバカなの」
そう、今日から妹は俺の高校に入学するのだ。そんで俺は今日から二年になる。
しかし、そんなバカバカ言われるとさすがの俺でも傷つく。
「あー、今日から高校生だよ!楽しみだなぁ…!」
正直俺は楽しみではない。なぜなら誰一人友達と呼べる人がいないからだ。高校入学式当時人に暴力をふるってしまったがために、クラスメイト、いや、同じ学年全員に怖がられてしまった。先生に理由を説明しようにも聞いてくれなかった。
自分たちが面白いと判断した情報だけを聞き、つまらない情報は聞かない。
ほんと、人間ってもんはつまらない生き物だ。本当に——
「そんな怖い顔してどうしたのお兄ちゃん?」
「いや、なんでもない。ほら、自分の教室確認してこい。確認したらちゃんと体育館に行けよ?場所分かるか?お兄ちゃんと一緒にい」
「うんわかった!帰る時待っててね!そんじゃまたねー」
そう言って妹は、犬のように走って行った。
...うん。全然悲しくないもんねっ。
さて、俺も確認するか。
そして自分の教室を確認しようとした時
ドンッ
「ッ…!」
急に後ろからなにかがあたった。驚いて振り返ってみると
「...」
髪が肩につくくらいで、俺より少し背の小さい女の子が静かに立っていた。
「……ぶつかってすみませんでした先輩」
「え?あ、あぁいや大丈夫…です」
いきなり喋り出したせいか俺はつい敬語になってしまった。でもそんな事はどうでもいい。
目が離せなかった。俺は、その女の子の冷たく透き通った瞳から目を離す事が出来なかった。どきどきしていた。決してこれは恋愛感情としてではない。
「あの、」
「はい?」
「先輩邪魔なんでどいてもらえますか?」
…あれ、この子一年だよな?なんでこんな言い方なの?え?俺年下になめられるやつだったの?
「あ、ご、ごめん。」
俺は謝ったあと、すぐにどいた。
だが、その子は動こうとしない。
俺の目をじっとみてくる。
普通の男子なら女の子に見つめられて顔が赤くなるかもしれない。でも俺は違う。
怖かった。
彼女がではなく、彼女の瞳が。
まるで、その冷めた透き通った瞳で俺の心の奥深くまで見られているような…そしてどことなくか寂しそうな…そんな気がした。
「どういてくれてありがとうございます。先輩。」
そう言ってそそくさと行ってしまった。
「…て、俺も早く行かなきゃ。」
そして俺もまた、体育館に向かっていった。
「うわ、また高峰と一緒なのかよ。」
「高峰くんがいる…今年運悪いかもしれない…」
「まじないわー」
いや、俺もまじないわー。なんで、俺と一緒になる事で今年の運勢が悪くなるんだよ。
始業式が終わり俺たちはそれぞれの教室で待機していた。
ガラガラ
「みんな席につけ〜」
男の先生がそういうと、みんな席についた。
「今日からこのクラスを担当する——」
そんな、先生の自己紹介が終わったあと一番嫌いなものがきた。
「よし。これで紹介終わり!次はみんなが自己紹介する番だ。では、一番右の列から順に紹介してもらおうか。」
みんな、嫌々ながらも順に話していった。
「名前は高峰利九。えーと、好きな食べ物は特にないです。特技は寝る事です。どうぞよろしく。」
いやーしかし、最悪な事に一番後ろの窓側の席だとは思わなかった。
おかげさまで、みんなから注目をあびるようになてしまった。
でもおかしいな。みんななんでこんなに静かなんだ?特技は寝る事ってところ笑わないのか?なんだ、俺のつぼがおかしいだけか。納得。
…….穴があったら入りたいって言う人の気持ちがようやく分かった気がする。
顔を少し赤くしてから俺は座った。
「やっと帰れる…」
急いで鞄に荷物を入れて走って校門に向かおうとしたその時。俺はまたあの子と出会った。
「君は…朝の…」
「…」
…無言でいられると困るのだが…まぁいっか。今は妹が待ってるところに向かわないと——
「高峰先輩」
なんで俺の苗字知ってんだ?
いきなり苗字を呼ばれて思わず振り返ると
「先輩は今の人生を楽しんでしますか?」
こいついきなり何言ってんだ。今の人生を楽しんでるかって?確かに俺は一人だが妹がいるからまぁまぁ楽しい。
「ああ。楽しいよ」
「嘘ですよね」
さっきより低めの声でそんなことを言われた。
「なんでそう思うんだ」
「なんとなくです」
「なんだよ。適当な理由で嘘だって言わないでほしいな。」
俺は少しイライラしていた。呼び止められて、変な質問をされ、嘘と言われ。
「俺は急いでるんだ。もう用がないなら行くからな」
そう言って走って向かおうとした時、その子は俺が背負っていた鞄を引っ張った。そして耳元に顔を近づけ
「ではなぜ先輩はそんな必死そうな顔をしているんですか。」
そう言った後、彼女は鞄を離した。
「何言ってんだよ。そんな必死そうな顔なんて—」
確かに噓かもしれない。
「紹介が遅れてすみません。私の名前は恋林小鳥です。」
俺は自分の感情に噓をついていたのかもしれない。自分は惨めじゃない。そう何度も自分に言い聞かせ噓に噓を重ねていったのかもしれない。
そう、俺は楽しいなんて思っていない。
逃げたい。
その時、俺は彼女の目を真っすぐ見る事が出来なかった——
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