第一話 ヒーロー物語 1-4
「おはよー! ミーくん!」
次の日の朝となり、ミナトはいつも通り眠り眼のまま、まるでゾンビのようにフラフラと学校へ向かっていた。似たような家が建ち並ぶ灰色の住宅街を抜け、少し大きめのT字路に到着すると、反対側の道からユイとヒロトが手を大きく振りながらミナトを呼ぶ姿が見えた。
「うー、寒っ! もう冬の風が吹いてるよ……ねぇ、ミナト」
学ラン姿のヒロトが風から身を守るようにして胸の前で腕を組みながら言った。
「なあに? ヒロト」
寝ぼけながら応答するミナト。ゆったりとした声を出し、まるで何も感じていないかの様子だ。
「間服……寒くないの? 俺、学ランでも寒いんだけど」
ヒロトの言葉に呼応して面倒くさそうに自分の制服をみるミナト。次の瞬間、ミナトは今までが嘘みたいに目を見開き、急いでヒロトと同じように腕を組んだ。
「さっっっむ! 僕、学ラン取りに帰ってくるわ!」
回れ右をして、ミナトは一目散に家に帰ろうとする。しかし、何かに捕まれているかのように前に進まない。
前後に動かす腕は空を切り、シャカシャカ走りのようになっている。
「ミーくん? 学校、サボろうとしても無駄だよ?」
状況を理解したミナトの顔は青ざめ、額から冷や汗が出ていた。そして、うっすらと諦めの笑顔を浮かべていた。
「ほら! ユイ、ミナト! もうこんな時間だ! 急がないと遅刻しちゃうよ!」
ヒロトが左腕に付けている腕時計を見ながら二人を急かした。気をつけの状態のミナトを引きずりながら急いで歩くユイ。ヒロトは急ぎながらもその光景を見て笑顔を浮かべている。
彼らは仲良しという言葉では言い表せないほどの仲である。
小さい頃から同じ施設で暮らした彼らは、もはや家族同然の関係である。
暗い過去を切り捨てた彼らは名字を捨てた。現在は施設の管理人であった人の名字を使っているが、彼らがお互いを呼ぶときには名前でしか呼ばない。
現在はヒロトとユイは通っている高校の寮に住んでおり、ミナトだけアパートに一人暮らしである。三人の学費、家賃は管理人であった人が払っている。お金はあるらしく、三人を養子に迎え入れたいと言っていたが、家族はこの三人だけで十分だと言われたらしく援助だけをしている状態である。
たまに三人集まってこの管理人さんに会いに行くという。
「ギリギリセーフ!」
閉まりかける校門に駆け込み、両手を大きく広げながら言うヒロト。それに続いて、ユイもミナトを引きずりながら駆け込む。
二人とも息がとても荒い。ずっと引きずられていたミナトの顔は死んでいた。