第一話 ヒーロー物語 1-3
ユイにゲンコツをもらい、また学校抜け出したらもっと痛いからね、とくぎを刺されたミナト。
たんこぶのできた頭を摩りながら家に帰り、カップ麺を食べシャワーを浴び、いつも通りにベッドにもぐりこんだ。
夜中、ミナトはまた夢を見た。夕方のものとは違う夢だ。
それは辺り一面がナイフで構成された世界の夢。
道路も家も車も道ばたの草も花も公園の木も、太陽でさえも。
無限に続く長さの刃であったり、屋根自体が刃であったり。刃が長い刃にいくつも突き刺さっていたり、丸い刃の周りに一本一本丁寧に刺さっていたり。
全てナイフのように尖り、鏡のようにミナトを映す。
まるで童話の世界のようだ。
この世界にいるのはミナトただ一人。殺意に塗れた世界に一人だけでたたずんでいるのみであった。
ミナトの心には謎の高揚感があった。
ありえないことが起こっているからか? 違う。
見知らぬ世界に来たからか? 違う。
恐怖が高揚感に変換されたのか? 違う。
この世界が、湊人にとって一番心地の良い世界だからだ。
夢であることはミナトにも分かっていることであった。これは脳の作った只の幻影であると。
しかし、幻影であってもこの世界は湊人にとって最高のものであるということに変わりは無かった。
四方八方から降り注ぐ、ピリピリとした殺意。それを身に受けることにより感じる何かの使命感。
湊人は思い出していた。
誰かを助けるために必要な正義を。平穏を守るために必要な殺意を。
自分に課せられた使命を。
「守るんだ。……を」